悪友
流血シーンなどがありますので、苦手な人は見ないで下さい。
寝て体調が良くなった僕は、先程の映像が消えてホッとした。もしまだあったのなら、僕は悪夢を見たと絶対飛び起きるに違いなかった。起き上がった僕は、寝る前に悪友に連絡しようとしていたのを思い出した。液晶端末はボタン一つで悪友に連絡をかけることが出来た。僕は考える間もなく、ボタンを押した。少し待つだけで繋ぐことが出来た。やはり、悪友も僕と同じ心情なのだった。早く何か情報が欲しい、と。
「やぁ、元気だった?」
「悪友と心の中では俺のこと言っているのだろ?」
と、悪友は余裕そうな普段の表情を見せていた。だが、僕には彼がそうでないとすぐに理解出来た。彼は僕に怯えるように瞳の奥を震わせ、その手は落ち着きがなかった。辛うじて声と表情だけは何とか耐えようとしているのだった。僕には彼にかける言葉が思い付かなかった。あの出来事の後で、更に怯えさせるのも苦に感じられた。だから、今も友達としての好意でそっとしておくことにした。
「それはないよ。いつまでも勘違いをしないでくれよ。君と僕の仲ではないか」
僕も内心を隠すように演技をした。だが、僕の視界にはまたあのバナーが見えた。
『極度な緊張状態に陥り、嘘がばれることを心配している』
僕には悪友が隠すものが思い付かなかった。そりゃあ、リアルで出会って出来た友達ではなかった。だから、本名なども詳しい情報を知らなかった。ただゲームのプラットフォームで出会い、自然と一緒に遊ぶようになった仲だった。そんな仲でこのバナーが示す、バナーの意味が分からない。彼は決して僕を騙すような人ではなかった。何も嘘を付いてくることはなかった。たまにサプライズで何か驚かしてくることはあるとしても、それは許せるほどの軽いものだった。決して悪意があった訳ではなく、彼も何かやらかしたと思った時には謝ってくれていた。リアルでは出会えないかけがえのない親友だった。
こんなに誰もが困っている時に嘘を付き、やましいことをしているのなら僕は彼を友達とは言えなくなるのだった。たとえどれほどの絆があろうとも、犯罪者を信じ続けることは出来ない。願わくば彼が変なことに引っかかり、詐欺にでも合っていないことだった。またはそれをしているのも、考えたくなかった。極限状態にある僕はおかしな方向に思考が言っているようだった。
「あぁ、分かっているよ。それは……。ただあの事件があったから、怖くなったのだ。噂によれば、あの殺された人。昔、誰かを虐めていたらしい。きっと報いを受けたのかな。まぁ、真実は神だけが知るっと言う奴か」
「でも、誰がやったのだろう?」
悪友は画面の向こうで唸った。
「それはやっぱり、警察じゃないか? 彼らはそう言うのが得意だろう。悪人を彼らがさっと捕まえてくれるさ。善人の一般市民である僕らには、何の関係もない」
そう言う彼に僕はまだ疑いを拭えなかった。信じるべきなのに、彼は先程から更に状態が悪化しているようだった。照準器のことも聞きたいのに、ただ僕が夢を見ているだけなら恥ずかしい。本来なら笑って吹っ飛ばしたい。それが出来たのなら。悪友は会話が止まると視線を下ろして、左右に忙しなく動かした。普段ならそのような行動にも出ないのに、何かを隠したい様子だった。
『[トリックスター]であることを見抜きました』
僕はバナーを注視した。トリックスターとは詐欺師と言うことだった。彼は僕に嘘を本当に付いているようだった。ずっと楽しくゲームをする仲で、FSPなどでバンバンゲームを共にしていたのに、何で彼は僕を裏切ったのだろう。その秘密が分からないとしても、僕は彼に失望しそうになった。初めての裏切りは、悲しかった。
「何で、何で! 僕を裏切ったのさ?」
僕は顔を上げると、彼を見た。だが、そこには先程まで見ていた彼の頭部はなかった。机に伏しているようで、壁には赤い絵の具で遊んだ後があった。
「お前、何遊んでいるのだよ。僕が本気に話しているこの時もふざけようとしているの? 聞いている?」
流石に反応を返さない悪友に僕は不安になった。
「おい、どうしたのだ? もうサプライズは終わって良いのだぞ。いつまでする気だ! もう早く目を覚ましてくれ」
彼は無言のままだった。そして、彼をじっくり見た僕は気付いた。
『死亡』
その二文字を見るまでもなく。
部屋に僕の悲鳴が広がった。
小説では人がバタバタと死にます。それは「設定」だからでしょうか? そのためならどんな悪党も悪いだけで首を物理的に切られるのでしょうか? どんな善人だからとどんなことをしても許されるのでしょうか? そんな単純なものではないのかもしれません。
次は悪友が死ぬ前に話が少し戻ります。彼は何に怯えていたのか? それを知らずに終わる「僕」は幸せなのでしょうか? 不幸なのでしょうか?