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狂いの国のアリス

作者: 四季桜

配役1:1:3




有紗(女)

活発で勝気な女の子。

最後のアリスと兼役




帽子屋(男)

アリスへの愛を拗らせた狂った帽子屋。




白うさぎ(不問)

帽子屋を止めようと厳しく接する。




三月うさぎ(不問)

帽子屋を止めたいのに止めることが出来ない、気弱なうさぎ。




チェシャ猫(不問)

狂った状況を楽しんでいる。


※注意事項※

アドリブは大丈夫ですが、過度な改変や世界観、キャラクターを損なう改変はやめていただきますようお願いします。

感想、ご意見、使用報告などTwitter(@4season_Sakura)までいただけると泣いて喜びます←





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ー公園






帽子屋「レディース&ジェントルメン、ボーイズ&ガールズ!ようこそいらっしゃいました、私、マッドハッターと申します!」






ー有紗、近くを通りかかり、足を止める






有紗「大道芸、かな……?珍しいな、そういうのあるの。ちょっと見ていこう」






ー観客に混じる






帽子屋「今宵、皆様の中から一人、不思議の国へとご招待致します!」






ー帽子屋、観客の中から選ぶ素振りを見せる






帽子屋「……うん、君がいい?」




有紗「え、私……?」




帽子屋「そう。さぁ、こちらへどうぞ、お嬢さん」




有紗「は、はい……」






ー帽子屋にエスコートされ、有紗前に出る






帽子屋「今からあなたを不思議の国へとお連れ致します、いいですか?」




有紗「大丈夫です」




帽子屋「不思議の国から、帰れなくなっても?」


有紗「え……?」




帽子屋「では、いきますよ」




有紗「あの、今のどういう……」




帽子屋「3、2、1(英語で)」






ー不思議の国にて






チェシャ「なぁなぁ聞いたか?帽子屋のやつ、また連れてきたらしいぜ?」




白うさぎ「なんだって?!あいつ、今度こそはがつんと言ってやる!」




チェシャ「何言っても聞かないってぇ」




白うさぎ「それでも、止めないわけにはいかないだろ!」




三月うさぎ「僕も……アリスに会いたいけど……」




白うさぎ「お前も、いい加減はっきりしろ」


三月うさぎ「……」




白うさぎ「帽子屋を止めたいなら、甘やかすな」


三月うさぎ「……ごめん」




チェシャ猫「俺はこのままでもいいけどな~」




白うさぎ「ふざけるな」




チェシャ「俺は、楽しかったらそれでいいからなぁ」




白うさぎ「あぁ、そうだった。お前はそういうやつだもんな」




チェシャ「おっ。そろそろ時間じゃないのか?」




知うさぎ「時間?」




チェシャ「お茶会だよ」




白うさぎ「あぁ、もうそんな時間か!急がないと!」




チェシャ「じゃぁな~」






ー走って去っていく白うさぎに、チェシャ猫は手をひらひらを振る






三月うさぎ「僕も……用意してこよ」




チェシャ猫「いってらっしゃ~い、弱虫うさぎ」




三月うさぎ「……うるさい」




チェシャ猫「ははっ(バカにしたように笑う)」






ーチェシャ猫の方は見ずに、去っていく







ー帽子屋の家






帽子屋「どうだった?不思議の国は」




有紗「あの……」




帽子屋「素敵な所だろう?そして、ここが君の住む家」




有紗「あの」




帽子屋「私の家なんだ。一緒に暮らそう」




有紗「あの!」




帽子屋「……なんだい?」




有紗「帰りたいんですけど……」




帽子屋「どうして?」




有紗「どうしてって……」




帽子屋「あっちより、ここにいた方が楽しいよ?」




有紗「着替えとか、持ってきてないから……」




帽子屋「大丈夫。もう用意してあるよ。ほら」






ー帽子屋、有紗のために用意した服を見せる






有紗「っ……」




帽子屋「どうだい?君のために選んだんだ。気に入ってくれたかな?」




有紗「と、とても素敵……けど……」




帽子屋「けど?」




有紗「私、何も言わずにここに来てるから……お母さん、心配すると思うし!」




帽子屋「君はもうこの世界から出られない。お母さんなんて忘れればいいんだよ」




有紗「そんなことできるわけないでしょ!いいから帰らせて!」




帽子屋「それはできないな」




有紗「だったら、自力で帰る」






ー有紗、立ち去ろうとする






帽子屋「どうやって?」




有紗「は……?」




帽子屋「どうやって帰るんだい?」




有紗「そんなの、さっき通ってきた扉を探せば……」




帽子屋「あの扉は私しか開けない」




有紗「もしかしたら、私にも開けるかもしれないじゃない」




帽子屋「あの扉は鍵がかかってるんだ。鍵がないと開かない」




有紗「だったら、その鍵を探す」




帽子屋「鍵は一つしかない。……そして、その鍵は私が持っている」




有紗「っ……扉を開けて」




帽子屋「いくら君のお願いでも、それは聞けないな」




有紗「……帰して!」




帽子屋「君にはここにいてもらうんだ、ずっとね」




有紗「絶対に嫌!」




帽子屋「そんなこと言わないで」




有紗「どうして私をここに置いておきたいの」




帽子屋「君を愛しているからだよ」




有紗「……愛してる?」




帽子屋「そう。だって、君はアリスだろう?」




有紗「何言ってるの?私は……」




帽子屋「さぁ、お茶会の準備をしよう。友達を呼んでいるんだ」




白うさぎ「帽子屋!君はまた連れてきたんだって?!」




帽子屋「やぁ、白うさぎ。いらっしゃい」




白うさぎ「どうして君は繰り返すんだ!」




有紗「繰り返す……?」




白うさぎ「っ?!君が、新しいアリス……」




有紗「あんたも何言ってんの?私は有紗よ」




白うさぎ「……本当にアリスみたいだ。僕を見て驚かないなんて」




有紗「ここに来るまで喋る花にパンの蝶……あり得ないものばかり見てきたのよ。今更喋るうさぎが出てきても驚かないって」




帽子屋「やっぱりアリスは面白い。私たちを揶揄っているのかい?別人だって嘘を吐くなんて」




有紗「嘘じゃなくて……あぁ、もう!アリスって、一体誰と間違えてるの?!」




白うさぎ「帽子屋は、間違えてるわけじゃない」




有紗「え?どういうこと?」




白うさぎ「……そのうちわかるよ」




有紗「そこまで言ったなら教えてよ、気になるじゃない!」




白うさぎ「やなこった」






ー三月うさぎが、帽子屋の家に来る






三月うさぎ「帽子屋、お招きいただいてありがとう!さぁ、お茶会を始めようよ!」




帽子屋「いらっしゃい、三月うさぎ。まだ準備が整っていないんだ。もう少し待っておくれ」




三月うさぎ「あれあれ?早く来すぎちゃったかな?」




帽子屋「大丈夫さ。白うさぎと……アリスはもう来ているよ」




三月うさぎ「……わぁ、アリスもいるの?僕、お話ししたいなぁ」




帽子屋「準備ができるまで、話してくると良いよ」




三月うさぎ「うん!」






ー三月うさぎ、有紗に近づく




ー有紗と白うさぎはまだ言い合いをしている(アドリブで言い合い)




ー言い合いを遮るように三月うさぎが声をかける






三月うさぎ「ねぇねぇ」




有紗「え?」




三月うさぎ「お話ししようよ!」




有紗「誰?」




三月うさぎ「僕は三月うさぎだよ」




有紗「憎たらしい白うさぎと違って、可愛いうさぎさん!」




白うさぎ「何か言ったか?」




有紗「何も言ってないよ~」




三月うさぎ「……アリスと、同じことを言うんだね」




有紗「あなたも私をアリスって呼ぶつもり?私はアリスじゃない!有紗よ!」




帽子屋「(かぶせるように)もう少し、女性らしくしたらどうだい?アリス」




有紗「はぁ?」




帽子屋:「アリスは可愛らしいんだから。そんなに騒がしいともったいないよ?」




有紗「余計なお世話よ。というか、何回言わせるの!私は有紗!アリスじゃない!」




帽子屋「本当にアリスは面白いね。さ、お茶会を始めよう」




三月うさぎ「もう準備はできたの?」




帽子屋「あぁ。待たせてすまなかったね」




白うさぎ「チェシャ猫がまだ来ていないみたいだけどいいのか?」




帽子屋「チェシャ猫は……そのうち来るだろう。彼は気分屋だからね」




三月うさぎ「じゃぁ、早く始めよう。アリスの歓迎会にもなるんだから!」




白うさぎ「歓迎会……?何が歓迎なんだ!」




三月うさぎ「何がって……白うさぎはアリスのこと歓迎してないの?」




白うさぎ「するわけないだろ!あの子は……」




有紗「いい加減話を聞きなさいよ!私は有紗よ!アリスって誰?いい加減教えてよ!」




チェシャ「へぇ~。面白いことになってるねぇ」




三月うさぎ「チェシャ猫!やっと来たんだね」




チェシャ「お前は相変わらず弱虫うさぎだな(小ばかにしたように)」




三月うさぎ「……」




有紗「またなんか増えた……」




チェシャ「ふ~ん?お前がアリスか~。……ちょっと、冴えない感じ?」




有紗「失礼な猫!それに、私は有紗よ!」




チェシャ「お前のほんとうの名前なんてどうでもいいんだよ」




有紗「え……?」




チェシャ「君はアリスの代わりなんだから」




有紗「代わり……?」




三月うさぎ「チェシャ猫!それ以上は……」




チェシャ「アリスはもういない。けど、帽子屋はアリスを欲しているんだ。だから、お前という代わりを見つけて自分のそばに置いておきたいんだよ。そうだろ、帽子屋?」




帽子屋「アリスはいるだろ?代わりなんかじゃない。彼女がアリスだ」




白うさぎ「っ……帽子屋。いい加減にしろ。こんなこと、もうやめるんだ。続けていても意味が無い」




帽子屋「何をやめるって?私はアリスを理想の国に連れてきてあげているだけだ。アリスがそれを望んでいるんだ」




白うさぎ「君は狂ったふりをして、気づかないふりをしているだけじゃないか?彼女がアリスじゃないことくらい、本当はわかってるんだろ?」




帽子屋「何を言ってるんだ、白うさぎ。彼女はどこからどう見てもアリスじゃないか」




白うさぎ「いい加減にしろ!現実を見るんだ!彼女は本当にアリスなのか?!」






ー白うさぎ、帽子屋を無理やりアリスの方へ向かせる




間(帽子屋がしばらく有紗を見つめる)




ー帽子屋の顔が次第に歪み、涙を流す






有紗「帽子屋さん……?」




帽子屋「……わかってる。そんなこと、わかってるんだよ!」




白うさぎ「なら、なんで繰り返すんだ!こんなこと、意味がないだろ?!」




帽子屋「うるさい!僕だって本当は……!(アリスの顔を見る)」




有紗「……帽子屋さん」









ー真っ直ぐに帽子屋を見つめる有紗の瞳が、帽子屋にはアリスと重なって見え、息を呑む






帽子屋「……彼女は、アリスだ」




白うさぎ「まだそんなことを言うのか!彼女はアリスじゃない!」




帽子屋「彼女はアリスだよ!僕の呼び方だって、声だって……アリスだ。それにこの瞳!この真っ直ぐ僕のことを見るこの瞳は、アリスそのものだ」




チェシャ「あーあ、結局帽子屋狂ったままか」




白うさぎ「帽子屋。お前は愛する人のこともわからなくなるようなバカなやつだったのか?」




帽子屋「白うさぎ、僕はちゃんとわかってるよ。アリスはそこにいる。彼女はアリスだ」




白うさぎ「彼女はお前が愛したアリスか?本当にアリスなのか?」




帽子屋「……なぁ、三月うさぎ?彼女はアリスだろ?」




三月うさぎ「……彼女は……アリスじゃ……」




帽子屋:「(遮るように)君だってアリスがいたら嬉しいだろ?」




三月うさぎ「そりゃ、アリスがいるのは嬉しいけどさ……でも、アリスはアリスしかいないから。代わりなんて、いないんだよ……」




帽子屋「代わり?君までそんなことを言うのか?彼女はアリスだ!」




三月うさぎ「ちゃんと見て!アリスじゃないでしょ?!」




帽子屋「アリスだよ、どこからどう見ても……。どこが違うと言うんだい?」




三月うさぎ「帽子屋……どうして……(泣きそうに又は泣いて)」




有紗「三月うさぎ……(寄り添う感じ)」




帽子屋「やっぱりアリスじゃないか!アリスは優しい……特に三月うさぎには甘かったんだ!」




三月うさぎ「帽子屋……」




帽子屋「けど、他の男に触れるなんて妬けてしまうね(有紗の手を掴む)」




有紗「は、離して……!」






白うさぎ、帽子屋の手を掴み、有紗を庇うように立つ






白うさぎ「帽子屋、少し落ち着け」




帽子屋「僕は落ち着いてるよ?白うさぎ」




チェシャ「こいつに何を言っても意味ないって」




白うさぎ「……チェシャ猫、お前はどう思ってるんだ?」




チェシャ「どうって?」




白うさぎ「君は、アリスについて……いや、帽子屋のこの行動についてどう思ってるんだ?」




チェシャ「ん~?俺は別に、楽しかったらなんでもいいかなぁ」




白うさぎ「あぁ、そうだったな。君はそういうやつだった。君に聞いた僕が悪かったよ」




チェシャ「まぁ、帽子屋が正しいとは思ってないぜ?そいつ、アリスじゃないからなぁ」




帽子屋「君まで何を言ってるんだ、チェシャ猫」




チェシャ「俺は事実を言ってるだけなんだけどなぁ」


帽子屋「何も事実じゃないだろ?僕をからかっているのかい?」




三月うさぎ「帽子屋!もうやめようよ……。いい加減、目を覚まして!」




帽子屋「目を覚ます……?何を言ってるんだ三月うさぎ。僕はちゃんと起きているさ!」




三月うさぎ「帽子屋……もう終わりにしようよ!」




帽子屋「何を終わりにするというんだ?」




三月うさぎ「現実を見てよ!代わりを見つけてアリスにするなんて間違ってる!こんなこと、狂ってる!」




帽子屋「狂ってる……?そんなことない……。お前らがおかしいんだ!お前らがおかしいんだ!お前らが狂ってるんだ!」




白うさぎ「僕たちは狂ってなんかいない!お前がおかしいんだ!気づけよ!」




帽子屋「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさい!僕にはアリスが必要なんだ!アリスがいあにと僕は……僕は……」











帽子屋「僕だって……僕だってわかってるのに……」











有紗「……ねぇ」




三月うさぎ「なぁに?」




有紗「その、アリスって子は……いなくなったん、だよね?どうして、いなくなっちゃたの……?」




白うさぎ「アリスは……」




チェシャ「アリスは死んだんだよ。もう、何年……君たちの住んでる世界だと、何百年も前に」




有紗「え、どういうこと……?」




チェシャ「ここは、不思議の国。お前たちの住んでる世界とは時間軸が違うし、そもそもこの国に死なんて存在しない」




有紗「それじゃぁ……」




チェシャ「そう、俺らは死なないんだ」




三月うさぎ「僕たちは、人間には【死】というものがあって、いつかいなくなっちゃうってことは、わかってるんだ。けど、帽子屋は……」




帽子屋「僕は、アリスを愛してるんだ……。どうしてみんな、僕とアリスを引き裂こうとする……?」




三月うさぎ「アリスへの愛が強すぎて……アリスの死を受け入れることができてないんだ……」




白うさぎ「アリスが死んだ理由も関係してるんだろうけどな」




有紗「アリスが、死んだ理由……?」




三月うさぎ「帽子屋がアリスに作った帽子を落として、それを拾おうとして……崖から落ちたんだ……」




有紗「そんな……」




白うさぎ「自分の作った帽子の……自分のせいだと思ってるからこそ、受け入れられないんだろう」




チェシャ「だから、こいつはアリスの代わりになる人間を連れてきて……そいつが死んだら新しいアリスを連れてくる……そんなことを繰り返してるんだよ」




有紗:「そうだったんだ……」




三月うさぎ「……連れてこられた子たちはみんな、帽子屋の気持ちを受け入れきれなくて自分で命を絶っちゃうんだ」




有紗「そんな……!」




白うさぎ「こんなことはダメだって、わかってるんだ」




三月うさぎ「僕達が帽子屋を…止めないといけないのに…」




チェシャ「あいつはもう、狂ったままだよ」




三月うさぎ「帽子屋を止められるのは、もう君しかいないんだ」




白うさぎ「頼む…帽子屋を止めてくれ」




チェシャ「……」




有紗「みんな……」




帽子屋「どうして、いなくなるんだ……ねぇ、アリス。アリスは僕のことを愛してくれているよね?」




有紗「……帽子屋さん」




帽子屋「どうしたんだいアリス、怖い顔をして。僕のこと、愛してるだろ?」




有紗「……愛してるって、言えば満足?」




帽子屋「え……?」




有紗「私にしてるって言われて、それで帽子屋さんは納得するの?」




帽子屋「当たり前だろ?僕はアリスに愛されているならとても嬉しいんだから」




有紗「それが、偽りのアリスでも?」




帽子屋「偽り?何を言ってるいるんだ。君はアリスだろ?何が偽りだというんだ!」




有紗「私はアリスじゃないよ」




帽子屋「……まだ、アリスは僕のことを受け入れてくれないのか?」




有紗「え……?」




三月うさぎ「帽子屋、今まで連れてきた人間とアリス、全員同じだと思ってるんだ……」




白うさぎ「ずっとアリスに拒まれてると感じてるんだろうな」




三月うさぎ「死んだことも、ただ元の世界に戻ってるだけだと、思ってるんだ」




チェシャ「そう思ってるふりしてるだけだろ?あいつ、本当はわかってるんだって」




白うさぎ「……だろうな」




三月うさぎ「わかっているはずなのに……すぐ現実から目を逸らして、アリスの死から逃げてる」




チェシャ「あいつ狂ってるんだぜ?現実見るなんて無理無理」




帽子屋「なぁ、アリス。どうして僕のことを受け入れてくれないんだ」




有紗「だって私はアリスじゃないから」




帽子屋「君はアリスだよ」




有紗「アリスじゃない」




帽子屋「アリスだ!」




有紗「違うって言ってるでしょ!」






ー帽子屋に近づき、目を合わせる。






有紗「ねぇ。目の前にあるこの顔は本当にあたなたの愛した人?ちゃんと、アリスのことを思い出して」











帽子屋「っ……君がアリスじゃないってことくらい、わかってるんだ。今までの子たちも全員、彼女たちはアリスじゃない」




有紗「なら、どうして繰り返すの」




帽子屋「僕はただ、アリスのように愛を受け止めて、僕のことを愛してくれる存在……【アリス】が欲しかったんだ……なのに、どうして皆僕の愛を受け止めてくれないんだ……?愛してくれないんだ……」




有紗「当たり前でしょ。だって、どれほど愛してるって言われても、あなたの気持ちはアリスにあるのであって自分に向けられたものじゃない。そんなの、悲しくて、苦しくて、辛い……」




帽子屋「違う!僕はちゃんと愛してるんだ!」




有紗「なら、私の名前を呼んでみてよ」




帽子屋「名前……?」




有紗「早く」




帽子屋「……アリス、じゃなくて」




有紗「わからない?」




帽子屋「さっき、何度も言っていたのに……」




白うさぎ「狂ってたから、まともに聞いてなかったんだろ」




帽子屋「えっと……」




三月うさぎ「有紗、だよ」




帽子屋「……」




有紗「自分の本当の名前を呼んでくれない人が、自分を愛しているなんて誰も思わない」




帽子屋「っ……」




有紗「愛する人がいなくなってしまったのは辛いかもしれない。けど、突然訪れる。それが死なんだよ。だから私たちは日々後悔しないように思いを伝えなきゃいけない」




三月うさぎ「……いきなり、いなくなるなんて、僕たちは思っていなかった」




白うさぎ「本当の意味で、死を理解していなかったんだな……」




有紗「アリスが急に死んで受け入れられないのはわかる。私たちだって、好きな人がいきなり死んじゃったら受け入れられない。けど、だからって他の子を連れてきてアリスの代わりにして気持ちを伝えるのは間違ってる。代わりの存在なんて、いないんだから。アリスだって、それを望んでいないはずだよ」




帽子屋「なら、僕はどうすれば良かったんだ……!」




有紗「……良いことを教えてあげる」




帽子屋「良いこと……?」




有紗「人はね、死ぬと星になるんだって」




帽子屋「星に……」




有紗「そう。だからアリスも、星になって帽子屋さんのこと、見守ってると思うよ」




帽子屋「アリスが、僕を……」




有紗「だからさ、こんなことやめよう?見守ってるアリスも辛いと思うよ?」




三月うさぎ「帽子屋、今まで君に合わせて何も言わなかった僕にも責任がある。ごめんね。もう、やめにしようよ、こんなこと」




白うさぎ「これ以上、人を苦しませる必要も……君が苦しむ必要も、ないんじゃないか?」




三月うさぎ「帽子屋も、どっかでやめたいって思ってたんじゃない?今がいい機会だよ」




帽子屋「……あぁ。こんなこと、もうやめにする」




チェシャ「えぇ~。せっかく面白かったのに、辞めちゃうのか~。残念だなぁ」




白うさぎ「その割には、嬉しそうじゃないかチェシャ猫」




チェシャ「さぁ、どうだろうね」




三月うさぎ「ふふっ。死んだら星になる、かぁ。素敵だね」




有紗「お父さんがね、死ぬ前に教えてくれたんだ」




帽子屋「死ぬ前……?」




有紗「そう。五年前に、病気で死んじゃったんだ」




三月うさぎ「そうだったんだ……」




有紗「けど、星になって見守ってくれてるって言ってくれたから……悲しかったけど、寂しくはなかった。空にお父さんがいるんだもん」




白うさぎ「お前も、大変だったんだな」




有紗「お母さんの方が大変だったと思う。一人で私を育ててくれてるから。だから、心配かけたくないんだ……」




チェシャ「お前は、こんな良い子をここに閉じ込めようとしてたのか~。へぇ~」




帽子屋「申し訳ないことをしたと思ってるよ……」




白うさぎ「おいチェシャ猫。人をからかって遊ぶな」




チェシャ「良いだろ別に~。これが俺の楽しみなんだからさ」




白うさぎ「相変わらず悪趣味だな」




三月うさぎ「大切な人をなくしてて、アリスにそっくりな有紗だったから、帽子屋の心に響いたんだね」




白うさぎ「あぁ。有紗だったから、帽子屋を変えることができたんだ」




有紗「えへへ」




三月うさぎ「チェシャ猫も、有紗がアリスに似てると思ったから。有紗なら変えられるんじゃないかって期待して、話したんじゃないの?」




白うさぎ「そういや、チェシャ猫がアリスの代わりだって話をしたのは、今日が初めてだな」




チェシャ「俺は、そろそろ同じことの繰り返しもつまらないと思っただけで……」




白うさぎ「本当は帽子屋のこと、心配してたんだろ?」




チェシャ「別に、そういうんじゃねぇから」




三月うさぎ「ねぇ、帽子屋。そろそろ、有紗を返してあげよう」




帽子屋「あぁ。申し訳ないことをしたね。君を元の世界に帰す。ついてきて」




有紗「うん」




三月うさぎ「ばいばい、有紗!」




白うさぎ「もう会うこともないと思うけど、元気でな」




チェシャ「いつでも戻ってきていいんだからな?」




白うさぎ「おい」




有紗「家に帰らせてくれるなら、またここに来たいな。みんなとも会いたいし」




チェシャ「らしいけど~?」




白うさぎ「……本当に変わってるな、君」




帽子屋「また改めて招待させてくれ。アリスではなく……ちゃんと、有紗として」




有紗「うん。楽しみに待ってるね」




三月うさぎ「それじゃぁ、次こそはお茶会一緒にしようね!」




白うさぎ「お前は本当にお茶会が好きだな」




三月うさぎ「皆でお茶飲むの楽しいでしょ?今度は僕、お菓子作ってくるから!」




帽子屋「私も美味しい紅茶を用意しよう」




白うさぎ「普段ふらふらしてるチェシャ猫も、お茶会にだけは絶対顔を出すんだ。帽子屋の紅茶と三月うさぎのお菓子目当てで」




チェシャ「そんなことないと思うけど~」




有紗「ふふっ。それだけ美味しいってことね。楽しみだなぁ」




チェシャ「あ、そうだ」




白うさぎ「どうした、チェシャ猫」




チェシャ「次有紗が来たら、俺がこの世界に閉じ込めちゃおうかな~」






ーチェシャ猫、有紗の手を取る






有紗「え?」




白うさぎ「笑えない冗談はやめろ」






ー白うさぎ、チェシャ猫の手を払い落す






チェシャ「ちぇっ、つまらねんない奴」




白うさぎ「うるさい」




帽子屋「有紗、そろそろ……」




有紗「うん。……またね、みんな!」









ー現実世界へと繋がる扉の前に立っている






帽子屋「次、君に会える日が楽しみだよ」




有紗「またここに来て、皆とお茶会するのが楽しみだな」




帽子屋「チェシャ猫なら、本気で君を閉じ込めてしまうかもしれないよ?」




有紗「もう。馬鹿な事言わないでよ、帽子屋さん!」




帽子屋「あはは、すまない」




有紗「帽子屋さんて、意外とお茶目なのね」




帽子屋「そうかな?」




有紗「うん」




帽子屋「そういえば、アリスにもそういわれたことがあるよ。後、忘れっぽいとも」




有紗「それは大変。私のこと忘れないで、ちゃんと招待してね?」




帽子屋「もちろん、忘れないさ」




有紗「思い出したら私がもうおばあちゃんになってた、なんてやめてよね?」




帽子屋「あぁ。そんなことは絶対しないよ」




有紗「約束ね」




帽子屋「約束だ」











帽子屋「有紗。君に会えてよかった」




有紗「私も、帽子屋さんと出会えてよかった」




帽子屋「私を救ってくれて、ありがとう」




有紗「どういたしまして」






帽子屋、鍵を開ける






帽子屋「さぁ。この扉を出れば、現実世界に帰れるよ」




有紗「うん」




帽子屋「……またね、有紗。元気で」




有紗「帽子屋さんもね。ばいばい」






ー有紗、扉を開き、現実世界に帰る




ー有紗が帰った後の不思議の国、夜




ー帽子屋の家




ー空を見上げながら、帽子屋はアリスに語りかける






帽子屋「アリス……僕は馬鹿だったよ。君は君しかいない。そんなこと、わかっていたはずだったのに……。有紗がいたから、気づけたんだ。感謝しないとね。けど、彼女、アリスに似ていたね。……やっぱり、帰さなきゃよかったかなぁ」






ーアリスの声が聞こえる






アリス「馬鹿なこと言わないでよ、帽子屋さん!」




帽子屋「っ……!アリス?……ふっ、ははは!やっぱり、アリスと有紗は似ているね!けど、僕が好きなのはアリスだけだ。ずっと、愛してるよ」




アリス「私も、大好きよ。帽子屋さん」


end

配信アプリ、ボイコネ内にて投稿していたシナリオをこちらに移行しました

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