8 悪夢
父がいる。かつて家族で住んでいた家のダイニングで、テレビを見ながら笑っている。そこに母が料理を運んでくる。少しは手伝って、と父をたしなめながらも表情は柔らかい。兄たちが二階の部屋から降りてくる。お腹すいたよ母さん。うわ、うまそう。俺ハンバーグ2個な。長兄と次兄がおかずをめぐってジャンケンをしている。
そこに父も参戦しようとして、二人から拳を押しのけられている。お兄ちゃん、私もジャンケンしたい。話しかけるも、ジャンケンに夢中な兄たちには届いていないようだ。仕方なく母に話しかける。
_聞いてよお母さん、私すっごく不思議な夢を見たんだよ。なんか、遊郭の楼主になれって突然言われて、
_花魁道中も見たの! なんか、お祭りみたいだった。凄かったなあ。
_だから私も楼主にならなくちゃ! って思って。
反応は、ない。
_ねえ、聞いてる?
_無視しないでよ!
_ねえってば!
突然、背後から強い力で肩を掴まれた。
_お前には無理だよ、あまり。
祖母の声だ。しかし、振り向くことはできない。
_お前ごときに何ができる? 現にほら、お前の家族はお前に振り向きもしないじゃないか。
_違う、やめて。
目の前には、焦がれた家族団欒がある。しかし誰も私を見ない。
_お前は『余り』なんだよ。本当のことを教えてやろうか。私が言ったんだ、お前の父さんにね。いらない子の名前なんて『余り』で十分だって。
祖母の力がどんどん強くなる。肩の肉に指が食い込み、骨をきしませる。
_痛いよ、おばあちゃん!
悲鳴を上げているのに、家族はハンバーグをつついて笑っている。助けて、助けて。
「助けて!!!!」