15 子飼いの大蛇
そんなこんなで全ての貝殻が開かれ。次はわっちと遊んでくんなと赤い着物の桃山が腕まくりをする傍ら、若干飽きてきたのか辻占は煎餅をつまみ始めた。
「あ」
ぱたり、と何個目かの貝殻をひっくり返した時、六花が声を上げた。
「子飼いの大蛇が出た」
「子飼いの大蛇?」
見ると、その貝にはお腹のあたりが丸々と膨らんだ大蛇が描かれている。
「へえ。なんとまあ、偶然だこと」
煎餅をつまんだまま、辻占が身を乗り出してきた。
「子飼いの大蛇って何ですか?」
「ん? そうか、ご楼主は知らねえか。この大蛇、腹のあたりが膨らんでるだろ?」
辻占はすりすり、と絵の大蛇を撫でて説明する。
「これ何だと思う?」
「え?」
唐突に問われ、困惑した。何と言われても……。
「あッ! ま、まさか……。」
子飼い、という名前に胸がドキッとする。飼うというのはつまり、その腹の中に飼うということ?ならば答えは一つしかない。
「そう。こいつぁ幼い見た目の妖怪や人間を丸呑みする大蛇だ」
「ひいっ!」
六花が悲鳴をあげる。確かに恐ろしい妖怪だけれど、そこまで怯えることだろうか。首を捻っていると、今度は桃山がくつくつと笑いながら話しかけてきた。
「ご楼主、今どうしてそんなに六花が怯えてるか不思議に思っただろ」
「えっ、ええっと、まあ。」
「出るんだよ。子飼いの大蛇がこの見世に」
「はっ……?」
「最近な、禿や若い男娼が見世から姿を消しているんだとよ。いつも廊下ですれ違っていた禿が、ある日忽然といなくなり……なんて噂が男娼たちの間で広がってるんだ」
「え……」
「まあ大方、売れる見込みなしとされて他の格下の見世に回されたとかそんなとこだろうけど」
「そっ、そうだよ。大体、娼も禿も見世が管理しているんだから、突然姿を消すなんてことは……」
「まあなあ。ただ、」
桃山はぐっと身を乗り出して囁く。
「夜、障子に大きな蛇が映っていた、と言い出す客や娼があとをたたなくてねえ」
「ひいっ!」
大きな悲鳴を上げたのは、私ではなく六花だ。辻占の袖を掴んでぶるぶると震えている。
「……六花って、妖怪なのに怖がりなんだね」
「それとこれとは別です! というか、人間なのにどうしてご楼主様は平気そうなんですか!」
「いや、平気ではないけど六花を見てたら怖く無くなってきたというか」
自分より怖がっている人を見て冷静になる。私はこれを『お化け屋敷一緒に入ろうよ現象』と呼んでいる。私の一番上の兄が特に怖がりで、妖怪や幽霊に関するものは全てダメだったので、反比例するように私と次兄はそれなりに肝が据わっている。
「現に今こうやって妖怪たちに囲まれてるし」
ポリ、と辻占がつまんでいた煎餅を一つつまみ食いする。辻占がおかしそうに笑い声を上げたその時。
「大変だ! 浦風花魁とこの禿がいなくなっちまった!」
そんな叫び声とともに、男衆が駆け込んできた。
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