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14 貝合わせ

 それからはもう、とにかく目まぐるしい。部屋を訪ねて交流する。階段を降りてまた交流する。そのうち陽気な浦風につられて場が盛り上がり、何だなんだと集まってきた男娼と禿たちで宴のようなものまで始まってしまった。


「ご楼主様、貝合わせしませんか?」

やんややんや、騒がしい座敷で一人の娼が八角形のつやつやした蒔絵の箱に入った貝殻を見せてくる。

「あなたはえっと……確か、部屋持ちの六花(りっか)?」

部屋持ちは、この見世では一番下の位に位置する娼だ。名簿の最後の方に載っていた名前を思い返す。

「僕のこと覚えててくれたんですか?! そうです、六花(りっか)です」


 まだ幼さが抜けない容貌の六花は、私と同じ年か少し上くらいだろうか。彼も妖怪だから実際の年齢は全く違うかもしれないのだけれど、あどけなく見えた。


「貝合わせって、神経衰弱みたいな遊びだよね?」

「しん……? 分からないですけど、同じ絵の描かれた貝殻を当てるって遊びです」

やはり神経衰弱だ。トランプとは違い、繊細で細やかな絵柄が白い貝殻の表面に書き込まれている。桜、月、鳥……花鳥風月だろうか。随分と雅だ。


「じゃあ始めますよ。」

金に塗られた貝殻の裏面を畳に並べる。六花の指先がそれをひっくり返す。椿とホトトギス。


「あーっ!! 失敗です……」

「最初は運だもんね。仕方ない仕方ない」

次は私。菖蒲(あやめ)と九尾の狐が出た。


「何で九尾の狐?!」

思わず貝殻を放り出す。てっきり花鳥風月の絵ばかりだと思っていたのにこれは何だ。


「えっと、妖怪の絵柄とかも入ってるんですよ。ご楼主様は人間ですよね?見慣れないかもしれませんけど……」

「い、いやいや大丈夫」

深雪がよぎり、脳内で舌を出す。天霧にこっぴどく怒られればいいんだ、と思いながら貝殻を元のように裏返した。


 それからもくもくと貝殻を裏返すこと数分。

「あっ!ご楼主様、また当たりだ!」

「やった!」

「すごくないですか? 何連続目ですかこれ。」

ある程度、どこにどの絵柄があるのか把握できるようになってきた。

「えへへ……記憶は得意なんだ。次、松の絵……松はこっち! 桐かぁ……確かここに、よし!」


 ぽんぽんと貝を開いてゆく私に、周りの男娼たちも集まってくる。

「へえ、大したもんだねぇご楼主」

「ホント、大したもんだよ」


 青と赤の揃いの着物を着た男娼が二人、私たちの手元を覗き込んだ。二人して煙管をぷかぷかふかしている。そういえば男娼がやたらと煙管を吸うのは何故だろうか。そういえば水商売をしていた母も母の知人も皆電子タバコを携帯していたような。


「えっと、あなたたちは……。」

「わっちは部屋持ちの辻占(つじうら)。こいつも同じく部屋持ちの桃山(ももやま)ってんだ」

辻占(つじうら)と、桃山(ももやま)……」

「それにしてもご楼主、この調子だと全部開いちまうんじゃねえか?」

青い着物の辻占がしゃがみ込んで言う。六花(りっか)とは違い、この二人は大人びた雰囲気を醸し出している。焚きしめた香が鼻をくすぐった。


「本当だ。どうやったらそんなに覚えられるんだい? 鍛えた?」

「全然、大したことないですよ。ただ、見た紋様を頭の中で再現できるだけで……」

私の記憶方法は少し変わっている。内容を覚えるのではなく、文字や絵を一つの紋様として丸々頭の中に焼き付けるのだ。


「桃山さん、ちょっとその着物の柄を見せてもらっていいですか?」

「? いいけど、何だい?」

赤い着物に金糸の刺繍。その紋様をじっと見つめてから目を瞑り、今しがた見たものを思い返す。そして、名簿の隅にさらさらと紋様を描きつけた。ウグイスがこちらを向いている絵。


「こんなふうに、再現できたりもします」

「っ!? す、すげーじゃねぇか! 一つも違うところがねーぞ?!」

名簿を鷲掴みにして驚いた声をあげる桃山。


「ご楼主、こんな特技を隠し持ってたのか?!」

目をきらきらさせる辻占。

「いや本当に、全然……」

全然、大したことはないのだ。こんなことが出来ても、母や義父は振り向いてくれなかったのだから。私が何をしようと、義理の兄のように両親の関心を惹くことはない。


「ご楼主?」

暗い顔になった私を覗き込む娼たち。

「あっごめん。何でもないの」

「そうかい?」

「うん。続き、開いちゃおうかな」

首を振って貝殻をひっくり返すのに戻る。

「ふーん?」

辻占は、落ち着いた眼を細めてぷかりと煙を吐き出した。


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