「2021年12月31日23時、時計塔の前で」
十年前、彼はそんなメッセージを残してわたしの前から姿を消した。
今日がその日だ。
わたしは大きな川を臨む巨大な時計塔の前にいた。
改修工事中の塔は、今も無骨な足場に囲まれている。
どこか寒々しい時計塔を見上げながら、わたしはその時を待った。
23時。
何も起こらない。
ひとり大きく白い息を吐いて、わたしは塔に背を向ける。
その時だった。
ローターの轟音が辺りに響き、小型ヘリが橋の下から上昇してきた。
ヘリに乗った男が大声で叫ぶ。
「待たせたな、乗れ!」
わたしは驚きを隠せないまま、引き寄せられるように橋の上から跳んだ。
男の伸ばした手がわたしの手を取って、座席へと引き上げる。
「もう会えないかと思った! 音信不通なんだもの!」
「タイムリーパーを舐めんな、簡単に連絡できりゃ苦労しねえよ!」
ヘリは夜空へと舞い上がる。
「やっぱ俺にはお前の力が必要だわ。苦労したぜ、この半年!」
「あんたにとって半年でもわたしにとっては十年よ! 他に言うことないの?」
男はしばらく黙ってから、何度かうなずいた。
「そうだな。うん、無事また会えて嬉しい」
「ったく……その素直さに免じて、とりあえずは許す」
わたしは視線をヘリの外に向けて言った。
「ちょっと見ないうちにいい大人になったな。前は袖でハナ拭いてるガキだったのによ」
「拭くか! 十年前でもわたしは十四歳の女子だ!」
視界の向こうに、無数の光点が見えた。こちらへ迫ってきている。
「あれは?」
「追手のドローン編隊だ、しつこいったらねえよ。このままじゃ目的の時間に間に合わねえ!」
「このままどこかへタイムリープするの?」
「ずっと未来だ。人類最後の生き残りを、一体のアンドロイドが必死に守ってる。手助けしてやらねえとな!」
わたしはヘリから上半身を乗り出した。強風に髪が流れる。
「確かにわたしがいなくて苦労してたみたいね」
「頼めるか。お前のパイロキネシスがあれば無敵だ」
わたしは腕を伸ばし、接近してくるドローンに向けて指を鳴らした。
閃光を放ち、ドローンが空中で爆散する。
付近のドローンを巻き込み、爆発は連鎖していった。
「ははッ! まるで花火だな、年越しにはぴったりだ! ハッピーニューイヤー!」
「ハッピーニューイヤー!」
わたしも真似して爆発を続けるドローンに向けて叫んだ。
「跳ぶぞ、掴まれ!」
ヘリは上空へ向かって加速していく。
タイムリープする寸前、時計塔が数年ぶりに鳴らす鐘の音を聞いた。
2022年が来るようだ。
なろうラジオ大賞3 応募作品
……でしたが、投稿時間間違ってました。
・1,000文字以下
・テーマ:時計
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