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開幕 ユーカリ救出と五年の流浪の旅

第一部の続きです。見ていない方はそちらから読んでから読むことをおすすめします。

 ヴァイオレットは王都を訪れていた。フィリア城の庭園に身を潜めており、傍にはガザニアもいる。

「すまないな、ヴァイオレット」

「いえ、大丈夫ですよ。私もユーカリ様を救い出すつもりでしたし」

 なぜここにいるのか。理由は至極単純、ユーカリが処刑されそうになっているからだ。王都に来た時、ガザニアに助けを求められてこうして一緒にユーカリ救出を試みている。

 ヴァイオレットの見立てが正しければ、ユーカリは地下牢に入れられているハズだ。さて、どう侵入するか……。

 正面は駄目だ、見張りがいる。裏口も同じだろう。ふと、窓が開いていることに気付く。

「……罠の可能性が高いですが、あそこから入りますか?」

「あぁ。一刻を争う、危険な穴でも飛び込まなければ」

 ユーカリがいつ処刑執行されるか、さすがのヴァイオレットも分からない。ガザニアの意思も確認し、そこから侵入した。

 そこから地下牢まで周囲を警戒しながら進んでいく。二人共高身長であるため、少し難しいところだったが何とか地下牢まで行くことが出来た。ここまで来ることが出来れば、あとはヴァイオレットの仕事だ。ガザニアに入り口を見張っていてもらい、先に進む。鉄の臭いが鼻をかすむが、ヴァイオレットは気にした様子を見せなかった。

「……ユーカリ様」

 暗い中、ヴァイオレットは迷うことなく一つの牢の前で呼びかけた。魔法石で灯りをつけると、ユーカリが手首を拘束されている状態で閉じ込められているのが分かった。ここだけひときわ鉄の臭いがしたが、ヴァイオレットは嫌な顔一つせず細い棒で鍵を開けた。

「……なぜ、来た」

 ヴァイオレットが拘束具を解いていると、ユーカリは光の灯らない瞳で彼女を見た。彼女は「ある人の命令を受け、あなたを助けに来たんです」と答えた。誰かの命令、というのは嘘ではあるが、今の彼にそこまでの判断能力が残っていなかった。「……そうか」とさして興味もなさげに呟く。

(……怪我が酷い……)

 服もボロボロで、見ていて痛々しかった。右目を深く負傷していて、恐らくだがもう見えていないだろう。だが、今は治している時間すらない。すぐに彼の手を取り、ガザニアと合流する。

「罪人が脱走したぞ!」

 兵士の一人が三人を見つけ、他の兵士達に叫ぶ。ヴァイオレットとガザニアはユーカリを守りながら城の外に出る。しかし、既に囲まれていた。

「そこまでだ」

 女性の声が聞こえ、ヴァイオレットはキッと睨む。その声はアマンダだったからだ。

「またお前か。何度私に逆らえば気が済む?」

「……少なくとも、私は貴様を王だと認めてはいない。貴様こそ、どこで道を間違えた?」

 押し問答が始まる。その間も、兵士達がじりじりと三人を追い詰めていた。

「ヴァイオレット」

 どうするか考えていたその時、ガザニアが小さな声で少女に呼びかけた。なんだろうと耳を傾ける。

「俺が囮になる。その隙に殿下を連れて逃げてくれ」

「ですが、それではガザニアさんが……」

「元々死ぬハズだった身、殿下のためならいつでも命を捨てる。それに、お前なら信用出来る。殿下を任せたぞ」

「……分かり、ました」

 どちらかが囮にならなければ、どうせ抜けることが出来ない。それなら、体力的にも体格的にも生存確率が少しでも高いガザニアの方が適任だろう。

 ガザニアが動き出す。全員がそちらに気を取られている内にヴァイオレットはユーカリを連れて逃げ出す。

 森へ入って、追手がついてこられないところまで走る。森はヴァイオレットのテリトリーだ、すぐに撒ける。それを確認した後、近くの洞窟に身を寄せてユーカリの怪我を白魔法で治す。だが、右目だけはどうしても治せなかった。

 ヴァイオレットはいつも持っているポーチから黒の眼帯を取り出し、それをユーカリに渡す。これは何かあって目が見えなくなった時のためにと備えていたものだった。

 その洞窟で一夜を過ごし、朝日が昇ると同時にそこから近くの集落に向かった。そしてそこで一年間過ごす。その間、ユーカリは死者達の声にうなされていた。

 その後、ユーカリは復讐のためにそこから旅立った。そして四年間も殺戮と狂気の中に生きていた。その間もヴァイオレットはユーカリを支え続けていた。

 時には帝国軍を生きたまま野犬に食わせていた。目を潰したり、四肢を引きちぎったり、皮膚を生きたまま剥いだりなど、とにかく残酷な殺し方をしていた。だが、そんな彼に食料や水を持ってきて、水浴びすらしない彼の身体を拭き、彼が休んでいる間も短い睡眠時間で見張りをして……とにかくヴァイオレットはユーカリを献身に支えていた。時にはユーカリが死者の声に従い、殺されそうにもなったが、それでも離れようとはしなかった。

 きっと、自分の血筋を知れば彼は自分を確実に殺すだろうと思っている。だが、それで彼の気が済むというのなら、この命さえ捧げる覚悟があった。

 ――あぁ、でも。彼のためにも早く戻ってきて、アイリス。

 そう心で祈りながら、戦争が起こって五年の月日が流れた。

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