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ヘタレ王子「今日は婚約破棄には日が悪い」外面令嬢(はよ言えボケ、慰謝料請求したるわ)  作者: 黒星★チーコ
【本編】

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10.5話/ ~幕間~ 男爵令嬢は笑顔の下で嗤う

フェリアサイドです。

あまりにも出番がないのでかわいそうになり、独白シーンを挟んでみました。


 

 私の本当の名前は秘密だ。


 今はフェリア・ハニトラ男爵令嬢という仮初めの名前と、誰にも話せない密命を与えられている。



 私は小さな頃から訓練を重ねてきた。戦闘、隠密、諜報、工作……。

 それらをこなす度に私を拾ってくれた"父"に誉められた。幼い私にはそれが唯一無二で、且つ決して壊れない暖かい拠り所だった。


 ある程度大きくなると、自分の見た目が他人より優れていると気づいた。

 か弱さや愛らしさ、そして少しの間抜けさを演出し、周りが私を侮ったり、逆に庇護欲をくすぐられるように演技を磨いた。

 すると、それも"父"にいたく誉められた。私は得意になってより巧く演技できるよう努力した。


 私にとっては"父"が全てで、この世界の中心だった。

 でも、あの御方に出会って私の世界は変わってしまった。



 あの声。あの輝く髪。あの瞳。

 初めてお逢いした時、あの瞳が一瞬だけ碧色に光っているように見えた。

 その時に私は知ったのだ。"父"よりも強固で大きな、そしてとても……とても冷たい拠り所というものがこの世に存在するのだと。

 それは気の迷いだったかもしれない。次の瞬間にはあの御方の瞳はもう元の色に戻っていたから。


 でも、その一瞬で私はあの御方に私の全てを捧げると決めたのだ。

 あの御方こそ私の真の(あるじ)。彼が望めば未来の一国の王にだってなれる偉大な御方なのだ。



 私は今、フェリア・ハニトラ男爵令嬢として王立学園の創立記念パーティに来ている。


 私の周りに次から次へと集まる愚かしい男どもの相手をしながら、愛想と愛嬌をこれでもかと振り撒いてやる。

 皆、酒に酔ったかのようにフラフラと私に近づき、美しいだの可愛らしいだのとお決まりの褒め言葉しか言わない。

 愛想の良い笑顔の下で実にくだらないと(わら)ってやる。そうすると奴らは益々くだらない事を言うのだ。あの御方以外の男など、虫けらくらいの価値しかない。


 流石にエドワード王子はくだらない男どもとは一線を画してはいるが、それも時間の問題だ。


 先週、特別室のドアの外から漏れ聞いた王子と婚約者の密談。

 王子は婚約を破棄するととうとう言った。今まで何度も途中で止めていたので少々イライラしていたが、遂にその時がきたのだ。

 そしてこの間の婚約者の態度から彼女(あのひと)も破棄に同意するとは思っていたが、意外なことにあのひとは「先に慰謝料を」と言い出した。

 あのひとの事は聞いている。カンサイ弁なら本心で言っているのだ。後は金の問題が片付けば全てが終わる。



 目の端にチラリと、下品な四人の女性が額を寄せて話をしているのが見えた。

 ああ、たしかあのひとの"取り巻き"だとか名乗っていたな。

 鼻息も荒くこちらに近づいてくる。うち一人が飲み物を手に取った。


 ……あれを私のドレスにかけるの? そして突き飛ばすつもりか。

 私は笑顔の下で嗤いをこらえながら、彼女達に気がつかないフリを続ける。


 さあおいで。ド派手にやってちょうだい。

 か弱くて愛らしくて、ちょっとだけ間抜けなフェリア・ハニトラ男爵令嬢は、悲劇のヒロインになってあげる。



 すべてはエドワード王子とあのひとの婚約をぶち壊すため。


続きます。

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