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異世界憑依しましたが現世に未練があるので帰らせてください  作者: 田島 瞬
序章「おいでませスカイオフィリア」
6/12

005.旅立ちモーニング

小屋に戻る頃には、既に日は傾き夜になろうとしていた。


途中、帰り掛けの道中で私にも出来そうなことを試そうと、デカい声で「ステータス!」だの「ウインドウ!」だの「メニュー!」だのと叫んでみたが、いわゆるフィクション作品の異世界転生モノよろしく目の前にステータス画面が現れることはなかった。


他にも道中のちょっとした小岩に向かって、火属性の初期魔法であるフレイムショットの名を叫びながらカッコよく手をかざしてみたが、これまた何も起こらなかった。


傍から見たら完全に不審者である。周りに人の気配がないことを十分に確認しながらのチャレンジだったが、もしもさっきのような少年に見られていたら、かざした手からではなく顔から火を吹くこと間違いなし。


そんなこんなしている間に、無事モンスターにも遭遇することなくオルフェの暮らす小屋まで帰ってくることができた。


「あっ、ナオおかえり!」


木製の扉を開けると、こちらに気付いたムムが笑顔で駆け寄ってくる。


少し離れたところでは、自分の額に眼を象った紋様を浮かべながらぼんやりとしていたオルフェが、私の気配に気付いてゆっくりと振り返った。


「ああ…おかえりなさい。今ちょうど世界を見ていたところです。」


そう返すオルフェの額に、先程の眼の紋様はもうない。

そうそう、オルフェってエルフの始祖だからか世界中に生えてる木々を通じてその場所をリアルに"見る"ことができるんだよね。魔法もほぼ全種類なんでも使えるし、公式チートですわー。

ちなみについた2つ名は『森の賢者』。超そのまんま。


「何を見ていたんですか?」


席につきながら聞いてみた。


「世界中をざっくりと。あなたが長い眠りから目覚めたことで、どこか違う場所でも変化が起こったかもしれないと思ったのですが、どうもそんなことはなさそうです。」


オルフェも席に着く。


「なにか違和感があればそこを調べようと思ったんですけれど、ね」


「なるほどー…まあなんもないんならそれはそれで仕方ないですよ。そんなことよりオルフェさん、私にこの10年間なにがあったのか教えてください。」


「ふむ、確かにそうですね。右も左も分からぬまま送り出す訳にも行きませんし、時系列順に軽く説明しましょうか。ムム、お茶の用意をお願いしてもいいですか?」


ムムが任せて!と胸を叩きながら元気に台所へ向かっていった。


「さて、では貴女が眠りにつく直前からお話ししましょうか。仲間たちと共に邪神を打ち倒した貴女は、王国で開かれた凱旋パレードに参加したり、帝国で栄光勲章を授かったり、他種族の宴に招かれたり…世界中から世紀の英雄として引っ張りだこでした。」


んん、その展開は聞き覚えあるぞ。

仲間にできるキャラクターを全員仲間にして、さらに死亡や消滅などのキャラロストイベを回避した上で邪神を倒すと見られる大団円エンディングですな。


「やがて貴女は王国の王子に求婚されたり、次期皇帝に推薦されたり、ある者からは次なる冒険の旅の供を頼まれ、ある者からは執拗なストーキングをされ、ある者からは難民の指導者を願われたりしたようですね。」


自分のことでもないのに思わずハハッと苦笑してしまった。

そう…大団円EDとは表向きの名前。中身は老若男女問わず個別キャラEDに近いアピールを全方位から向けられるハーレムEDなのだ。


「ボクも、一緒に妖精の森で暮らそうよ!ってお願いしたよねー。覚えてる?」


ムムが一生懸命お茶を運びながら会話に参加してきた。お茶を受け取りながら「もちろん覚えてるよ」と返す。


「世界中の人々と言葉を交わした貴女は、あまりにも多数の提案に困り果て私に相談に来ましたね。あれは…彩虹(さいこう)の丘での事でしたか。無限の道筋に迷う貴女へ私はこう言いました。『貴女は滾る炎であり、麗らかな水であり、自由な風であり、逞しい土である人です。如何なる道を選ぼうとも、苦難の底に叩き落とされても、その選択の全てが貴女を形作る輝かしき未来となるでしょう。どうか恐れずに、あるがままに歩きなさい。素晴らしき人生を!』と。」


真剣な面持ちで話すオルフェを他所に、私は感動で思わず身を打ち震わせていた。


あ〜〜これこれ!主人公の行く末を見守る者であるオルフェを表すこの台詞!実はゲーム開始時にも似たようなこと言われてるんだよね〜ほんと胸熱ですよ〜。しかも生!生ボイス!こんなん感動しないわけが無いですわ!


「ちょっとナオ、聞いてる?」


ムムに腕をちょんちょんとつつかれてハッとした。いけないいけない…。


「も、もちろん聞いてるよ。うん、覚えてます。」


そのままTheENDの文字が出てきてゲームは終わる。

つまりそっから先の事は全く知らない。


「それを聞いた貴女は、意を決したように何処かへと向かいました。」


あれ、そうなん?

ストーリー的にはいわゆる「各プレイヤーのご想像にお任せします」ENDだったけど、主人公的には思うところがあったのかな。


「それから1ヶ月後…貴女が"神去りし崩壊の地"で倒れているのを発見されました。瀕死の重症でも衰弱でもなく、ただ穏やかに原因不明の昏睡状態に陥った貴女の身を巡って再び戦争が起きかけましたが…それはなんとか回避して、最終的には何があっても安全でどんな処置もすぐに施せる私の元へ預けられました。それが貴女が10年間ここで眠り続ける事となる経緯です。」


「うん…?昏睡した原因とかは分からなかったんですか?」


「ええ、私含め世界中の名のある魔術師や治療師が手を尽くしたのですが、原因が判明することは何一つありませんでした。」


オルフェが俯きながら言った。


「あ…いや、責めてる訳じゃないんです。すみません」


「いいえ…失礼しました、柄にもないですね。とにかく、貴女が原因不明の昏睡状態に陥り、10年経った今日目覚めました。貴女は厳密にはナオとは言いきれないので、まだ"目覚めた"とは言い難いのかも知れませんが。」


うっ…それはそれでちょっと申し訳ない気持ちになってくる。


思わず私も俯いてしまう。暗いムードになりかけたところをムムがバンバンと机を叩く音で払拭された。


「あーもー!せっかくナオが起きたんだからもっと楽しい話をしよーよ!ナオ、今日はいっぱいお喋りしようね。この10年間あったことをたっくさん教えてあげる!」


ムムが小さな手で私の指をギュッと握ってくる。


「うん、ありがとうムム。それはもちろん教えて欲しいんだけど、もういっこだけオルフェさんから聞きたい事があって──。」


……その後、私はオルフェさんから具体的な戦い方を教わり、ムムから10年後の街や里の話を聞いた。


実は私が今現在も武器含むアイテムを山盛り所持している事や、それらを出し入れする方法も教わったのだが…中々に衝撃的な方法だった。もちろん「アイテムボックス!」の一言で済むようなアレではなかった。


そのまま食事を済ませ、軽く水浴びをして私は今朝目覚めたベットへと戻り就寝した。興奮やら不安やらで眠れないかもしれないと危惧したけど、意外にもすんなりと瞼は落ちて、私の意識は夢の世界へと旅立っていった。




* * *




翌朝。


また夢を見た。夢を見たというのは断言できるのだが、内容がまっったく思い出せない。よくあるよねぇ、そういうの。


よくあることなんだけどどーにも引っかかる。なんかモヤるというかなんというか。…まあ思い出せないものは仕方ないし、諦めて起き上がった私は服を着替えて隣の部屋のドアを開けた。


「おや、おはようございます。」


朝食の用意をしていたらしいオルフェと目が合った。


「おはようございます、オルフェさん。…あれ、ムムは?」


「妖精の森に帰らせました。」


オルフェに手招きをされて席に着く。

パンとサラダとスクランブルエッグ、それから果実のジュースが並んでいた。

はーリアルアニメ飯〜。


「…ん?帰らせた?」


ついリアルアニメ飯に持っていかれそうになった意識を戻して、さっきの台詞を反芻する。


「ええ、元々は一昨日帰る予定だったんです。それが妙に『帰りたくない、もう一日だけ』と駄々をこねまして。妖精のカンでも働いたんですかね。」


「へぇー」


相槌を打ってパンを口にする。うーんなんてシンプルな味わい。それでいて雑味がなくて実に美味!


「じゃあ私達2人だけで旅立つことになるんですかね。大変だなぁ」


「ん?なんのことです?」


「んだから、私とオルフェさんの2人で私の帰り方を調べに行くんでしょ?」


「行きませんよ?」


「行かないの?」


行かないの???


「ええ、私は私でやることがありますので。貴女は貴女だけで旅立つことになります。」


「………。」


手からぽとりとパンが落ちる。

オルフェも仲間になるキャラクターの1人だ。だからなんの疑問もなく一緒についてきてくれるもんだと思い込んでいた。


「……あー、あっ、なんか急にお腹痛くなってきたかなぁ」


「そうですね、回復アイテムはしっかり持っていきましょうね。」


「うーん急に眠気が…ここ離れたらまた昏睡しちゃいそーな気がする…」


「この場所と昏睡状態に因果関係はありませんよ。それに昨日森の中を何か叫びながら歩いて居ましたし、大丈夫だと思いますよ。」


イヤーーーーーまって聞かれてたの?確定不審者ムーブ見られてたの!?

それはそれで心に癒えない傷がががが


「心配に思う気持ちも分かりますが大丈夫ですよ。昨日話した通り、人を襲う魔物の数はこの10年でぐっと減りましたから。」


「それは確かに教わりましたけどぉー…」


そう。昨日『邪神が消滅してから凶暴な魔物が年々減少している』という説明は受けた。


でもそういうことじゃないじゃん?海外の広大な大地にガイドもスマホも抜きで放り出されるもんやん。無理やん?色々無理あるやん?


でも帰りたいしなぁ…


苦い顔をしてる私の目の前にスッと宝石の様なものがついたブローチが置かれた。サファイアより少し明るい、綺麗な石だ。


「これを返します。」


「返します…って、なんですかコレ?」


売ってお金にしなさい的な?


「ああ…。これは通信珠ですよ。覚えてませんか?」


「通信珠…あー!入手するとセーブポイントとかでパーティメンバー入れ替えられるようになるキーアイテム!」


「…?ええ、そうですね。貴女が旅の仲間を入れ替えるのに使っていたものです。」


おっとメタい言い方しちゃった。


「なにかあればそれを持って私の事を思い浮かべてください。邪念の濃くない場所であれば何処でも連絡が取れるようになります。なにか分からないことがあれば何時でも聞いてください。」


「ありがとうございます」


うーむ、連絡手段ゲット。確かに心細さはなくなった。

後押しするようにオルフェが続ける。


「大丈夫。何かあればいつでもここに戻ってきてください。ナオの力があれば容易い事のはずです。なにも心配はいりませんよ。」


うーーん、うーーーん。


参ったね、降参だ。

オルフェの提案に乗ってあげようじゃないの。


「はーもー分かりました、わーかーりーまーしーた!1人で行けばいいんでしょ?分かりましたよぅ行きますよぅ」


「フフ、よく決心しましたね。偉いですよ。」


ぶーたれる私を他所にくすくすと笑うオルフェ。

まあここでずっと燻ってるわけにも行かないし…腹決めていきますか。


食事を終え、旅の支度を済ませ、改めて気を付けるべき事を教わった私は意を決して旅立った。


目指すはユーフォリア大聖堂。かつて完クリしたゲームの世界を歩む冒険の旅へ!



【序章 完】



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