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異世界憑依しましたが現世に未練があるので帰らせてください  作者: 田島 瞬
序章「おいでませスカイオフィリア」
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003.アフタヌーン作戦会議

散らかった部屋を片し、着ていた寝巻きから用意されていた衣服に着替えて隣の部屋に移ると、丸いテーブルの上にパンとミルクスープが用意されていた。

こういうのヨモツヘグイとかだとむしろ食べちゃダメなんだろうけど、人の好意を無駄にするのもアレだしおずおずと口にする。コンソメが効いてて美味しい。


テーブルの周りにはオルフェとムムもいて、ムムはさっきのように泣きじゃくる事もなく上機嫌にコンペイトウっぽいものを頬張っていた。


「さて、落ち着いたところで話の続きがしたいのですが、一旦整理しましょうか。」


オルフェが言う。


「貴女の名前は赤羽奈緒。この世界とは違う世界の住人であり、私達が知るナオの行く末を見守り、導いていた。」


「そうですね」


頷く私。


「貴女は何故この世界に来たのか分からず、帰る方法も知らない。貴女としては今すぐにでも帰りたい。そうですね?」


「もちろん」


力強く頷く私。


「さて、肝心の帰るための方法なんですが、先程も申し上げた通り私も存じません。ですが他の種族、他の神々ならこの事を知っているかもしれません。…他種族や世界情勢は知っていますか?」


そう言われて私はちょっと考えた。

当時の私なら、にわかでも知ってる有名なイベントからコアなファンしかわからない開発スタッフのおちゃめなイタズラまで全て把握していたけど、なにせ10年前の事だ。うろ覚えにもなるってもんよ。


「えーと…四属神の治める4つの大陸に、王国と帝国と魔法学院。あとついでにマギア教団ー…は、解散しました?」


「解散しましたね」


なるほどなるほど。

マギア教団は主人公が敵対する組織の1つで、早い話が邪神を崇めるカルト教団だ。

それが解散してるとなると…おおよそ想像はついてたけど、やっぱりこの世界って()()()()()()()なのかな。ムムがムムのフルネームを知っていたことからなんとなく予想はしてたけど。


「んで四属神の愛し子がー…エルフ、ドワーフ、マーメイド、ヴィーグル、と。」


「素晴らしい、しっかりと把握しているようですね。」


オルフェが感心して頷く。


「ていっても、世界中の人達に方法を聞いて回る訳にも行かないし…オルフェさんでも知らない事だからなぁ…」


チラッと隣でコンペイトウっぽいものを呑気に食べてる妖精王子を見た。


「ボクも知らないよ?」


「だよねぇ」


まあ知ってた。ムムだしなぁ。


ムムは本編が始まるよりも前から主人公と共に暮らしているはぐれ妖精で「ムム」という名前以外なにも覚えていない記憶喪失でもあった。

それがストーリーを進めていくうちに、実は唯一神である生命の神の威光から産まれた妖精族の王子「ムシェームス・ズゥ・オベロン」である事が判明し、最後までムムのキャラストーリーを進めるとエンディングでは妖精の森の次期王様として他の妖精達と暮らすことになる…はず。なんだけど。なんでここにいるんだろうなぁ。そこまで話を進めてない世界線なのかな?

とにかく、妖精王としての能力はあるはずなんだけどムム本人は別に記憶を取り戻した訳でもないので知識面ではそこまで頼れないのだ。


「…オルフェさんのお勧め訪問とかあります?」


「ふむ、私がお勧めするなら星詠師に会いに行くことですかねぇ」


「あー、なるほど…」


星詠師。読んで字のごとく星の廻りを見て吉兆を占う人の事だ。ストーリーでもイベントアイテムの在処を教えてくれたりするのだが…

星詠師がいるのはヴィーグル族の里。ヴィーグル族の里があるのは風の大陸。ちなみにここは水の大陸。


「遠くない?」


「まあ、遠いですね」


「遠いのはちょっと…嫌かなぁ…」


自慢じゃないけど私そこまでアウトドア系じゃないし、大陸跨ぐほどの遠出はできるだけ避けたいところ。


できるだけ近場の、水の大陸の中で行けるとこ…


あっ


「ユーフォリア大聖堂の聖女とかどうですか?」


「聖女…ですか。確かに助言は得られるかも知れませんね。」


オルフェも頷いてくれる。

ユーフォリア大聖堂は王国都市のすぐ近くにある光の神を奉る聖堂で、そこには代々信託を受ける聖女がいる。光の神って正直あんま…いや率直に好きじゃないんだけど…オルフェの言う通り助言は得られるかも知れないし。


オルフェが続ける。


「あとは…情報屋のウィルソンや魔法学院にある大図書館などでしょうか?」


「うーん、ウィルソンは確かになんでも知ってるけど神出鬼没だし高額取りだし…大図書館も風の大陸だもんなぁ」


「それから魔法塔の」「却下」


私は食い気味に断言した。


「どうしてです?」


「いやだって…魔法塔って…あの人がいるじゃん」


「あの人?」


「あの…サイコパス気味のあの…あの人が…」


「あっボク分かった!それってサイムグゥ!!」


私は、クイズに答えるようなノリで元気にあの人の名前を言おうとした妖精の口にパンを突っ込んだ。


「名前言わないで!来るかもしれないでしょーが!」


「名前を呼んだだけで来ますかねぇ」


「いーや来るね!ヤツはそういう男だ!」


呑気に答えるオルフェに対して私は思わず身震いをした。


魔法塔のサイコ気味なアイツ。正直スカイオフィリアの中ではTOP5に入るくらいには好きなキャラではある。でもそれはあくまでもゲームの外から、第三者として眺めてる分には好きというだけで実際に目の前に立たれたら無言で逃げ出したくなる。それくらい強烈なヤツなんだ…できるだけ思い出したくないし…。


「とにかく魔法塔は…いやむしろ魔法学院もできるだけ避けたいくらいだし、いずれにせよ第一候補はユーフォリア大聖堂で決まりかな」


「分かりました。ではユーフォリア大聖堂へ向かい、今回の出来事を調査すると…そういうことですね」


私は少し考えてから頷いた。


「ならば、本日は旅支度を整えると良いでしょう。10年振りの旅となるでしょうしね」


確かに、10年間も寝たきりだったなら身体が鈍ってるとかそれどころの話じゃないはずだ。けれど産まれたての小鹿ちゃんばりにまともに立っていられないとか、立ちくらみがするとかそういったことは今のところ全然ない。

少なくともベットから起き上がって片付けをし、服を着替えてパンとスープを食べることはできたし疲労感もない。


本当に10年間も眠り続けていたのか疑問に思うレベルだ。

オルフェとムムの見た目もほぼ変わってないし。…いや、エルフと妖精じゃ見た目が変わってなくてもおかしくないのか…。


「あのー、疑ってる訳じゃないんですけど、本当に私…もといナオって10年も眠ってたんですか?」


「そうですよ」


「その割には疲弊しないというか、筋肉の衰えみたいなのを感じないというか。普通に昨日寝て今日起きたくらいのコンディションなんですけど。」


「あー…その事ですか…」


今まで穏やかな微笑みを浮かべて返答していたオルフェが、初めてバツが悪そうに目を逸らした。

あれ…えっ、なんかまずいこと聞いた…?


「ボクから話すよ、ナオ」


代わりに口を開いたのはムムだった。


「あのね…驚かないで聞いてね。ナオは今…"時の加護"がないんだ。」


「時の加護…?」


私は眉をひそめた。疑ってるとかじゃない、思い出せないのだ。

だからそういう細々した設定とかうろ覚えなんだって!


「創世神話の事は覚えてる?」


「創世神話…あー、光の神と闇の神がなんのかんのするやつ…?」


「そう。それの、愛し子に()()()を与えるところの話。」


あーまってまって、ちょっと思い出してきたぞう…。


「…生命の神が愛し子に"死の概念"を与え、時の神が"永遠"を剥奪した話…?」


「そうそう、それ!」


ムムが握りこぶしを作って頷いた。

創世神話周りの設定が好きだったとはいえ割と覚えてるもんだなぁ。











という事で、500字以内に収めたいザックリ解説はーじまーるよ。


創世神話とは、意味もそのまま神々が世界を創った時の言い伝え。生命の神は他の神々と世界に根付く全ての生命を作り出し、中でも神に近い知恵と精神を持つ愛し子…人間やらエルフやらを他の神々と協力して生み出し、世界創造を手伝わせた。


実はその時点では人間達愛し子はみな不老不死で、怪我をしてもすぐに治る身体を持っていたらしい。

しかし、愛し子達は朝から晩まで終わりのない労働を強いられ、あまつさえ生命の神が休息の眠りについた後で起こった神話大戦では、神々の尖兵として永遠に終わりのない戦いに身を投じることとなった。


ついに我慢の限界を迎えた愛し子達は、眠る生命の神を叩き起して労働条件の改善…もとい終息と安寧を願った。


そうして生命の神はなんやかんやして"死の概念"を愛し子含む地上の生命に与えて、時空の神が真っ二つになってできた時の神から時の加護として"永遠"を剥奪したそうな。


創世神話には他にも光と闇の一悶着とかスピリットが出来るまでとか色々あるんだけどその辺はまた次の機会!解説終わり!うーん、誰に向けて解説してんだ私!











「…で、その時の加護がどうしたっていうの」


「だから、なくなっちゃったんだよ」


「ナオの?」


「うん」


「時の加護が?」


「うん」


「えーとそれってつまり…永遠が剥奪されなくなったって事だから…歳を取らなくなったってこと?」


「それだけではありません」


オルフェが口を挟む。


「食事や給水などの生命維持に必要な補給も必要としなくなりました。我々エルフはただ老いないというだけで食事は必要ですし、そもそも貴女はインフィニティを宿している事を除けば普通の人間です。」


「ケガをしてもすぐに治っちゃうしね。まあこれはナオが元々持ってるスキル能力のせいかもしれないけど」


ムムがオルフェに相槌を返す。


「さすがに致死レベルの重症を負わせる訳にも行かないので、不死になったかどうかまでは分かりませんが…時の加護を失っているという推測は、間違ってはいないと思います。」


「…だから、筋肉の衰えもないし歳も取ってないし、10年飲まず食わずで眠りっぱなしでもピンピンしてたってこと…?」


「恐らくは」


オルフェが神妙な面持ちで頷いた。


私は深く息を吸い、吐き出す。

もしかしたら、この呼吸さえも必要ではないのかもしれない。


ムムが不安げな表情を浮かべながら近寄ってきて服の裾を掴む。

私は少し笑いかけてその手をそっと離した。


「少し…1人になりたいです。記憶を整理させて下さい。」


私は立ち上がり、小屋の外に出た。


誰も、引き止めたりはしなかった。


「補足コーナー」

・ヨモツヘグイ(黄泉竈食)とは、日本神話でイザナギがイザナミを黄泉から連れ帰ろうとした際、イザナミが既に黄泉の国の食べ物を口にしていたせいで帰れなくなってしまった事柄のことです。

その世界のものを口にしたら帰れなくなるとかよくある展開だよねー。


「スピリットとインフィニティ」

・ただの作中設定だよ。そのうち説明があるよ。多分。

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