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異世界憑依しましたが現世に未練があるので帰らせてください  作者: 田島 瞬
第一章「剣と酒と不穏なアイツ」
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009.助太刀ファンタジー

呆気に取られていた。


今目の前で起こっている事が理解出来ず、情けなく口を開けたままそれを見つめることしかできない。


人間、死を目前にすると全ての事象がスローモーションのように見えるらしい。今私が垣間見ている状況がまさしくそれだった。


眼前に伸びる巨大な手。分厚く鋭い爪。それが私に触れるか触れないかという瞬間──…風を凪いで飛来する鉄塊。それはオーガもどきが伸ばした腕に命中、私の頭を握り潰そうとした手は飛来した鉄塊に切断され、それと共に視界の外へと飛んで行った。


飛び散る紫色の液体、耳をつんざくオーガもどきの悲鳴、鼻につく悪臭。その全てがスロー再生したビデオのようにゆっくりと流れて、やっとこの出来事を理解しきるかしないかという所で何者かに両肩を思いっきり掴まれた。


「大丈夫!?怪我はない?」


…ロングソード?

違う、女の人の声だ。

スローだった世界が元に戻る。たどたどしく視線を持ち上げ、何者かの顔を見る。


青い髪に黒い眼帯をした凛々しい女性と目が合った。


「あ…大丈夫、です。」


「そう…よかった」


女性が安堵の息を吐く。20代後半くらいだろうか、お兄さんにも見えるお姉さんだ。


「抱え込むけどごめんなさいね、すぐ離れるから。」


「えっ、いや、私」


突然の展開にどもってるうちにひょいっと身体を持ち上げられてしまった。これは…どう控えめに見てもお姫様抱っこ…!イケメンお姉さんにお姫様抱っこされてる!


「ダイク!ちょっとの間タイマン頼んだよ!すぐ援護する!」


「おう!」


別方向から雄々しい男性の返事が聞こえた。

伺い見ると赤い短髪の大柄な男性が、武骨な槍を構えてオーガもどき目掛けて突進していた。


対峙するオーガもどきは苦しみもがいていたが、さっき切られたはずの腕がジュグジュグという嫌な音をたてながら再生させているのが見えた。


「GoGaaaaaaa!!」


「ハン、異獣(いじゅう)が…俺が相手だ!」


ダイクと呼ばれた男性が、勇ましく槍を振るう。

オーガもどきは男性めがけてがむしゃらに腕を振るった。


「…ちょっとここで待っててね。」


争う二者から少し離れた場所にストンと降ろされる。


「あっ、あの!」


思わず声をかけたが、咄嗟のことでなんて声をかけたらいいのか分からない。貴方達は誰?あの化け物はなに?

二の句をつげようとした口は、お姉さんの長い人差し指に塞がれた。


「説明は後。すぐに済ませてくるからね」


柔らかく微笑み、踵を返して駆け出すお姉さん。その肩につけていた弓を手に構えると、オーガもどき目掛けて矢を放った。


オーガもどきの四本の腕による攻撃をひらりひらりとかわしながら隙を見て化け物の足へ、腹へ、腕へと槍による連撃を叩き込む男性。


それでも攻撃を止めないオーガもどきの左眼を、お姉さんの放った矢が穿つ。


「Gyaaaaaa!!」


オーガもどきが絶叫する。男性から受けた傷はみるみる再生していったが、動きの鈍くなったオーガもどきの心臓を男性の槍が抉った。


それでもなお暴れる化け物はそのまま男性を羽交い締めにしようとしたが、その手は全て女性の弓矢を受けて大きく逸れていく。


醜悪な化け物は、赤髪の男性と青髪の女性による息の合ったコンビネーションに翻弄されていた。


「すご……」


思わず自分の喉から感嘆の声が漏れる。

常に再生するオーガもどきは無敵の様に見えたけど、それを上回るスピードと連携で2人の戦士が攻撃の雨を叩き込んでいた。


『見とれてんのはいいけど、このままボーッとしてていいのか?』


腰の辺りから小言が聞こえた。


「えっ、でも私の出る幕なくない?すごいよアレ、ホントに倒せちゃいそう」


『どうだかね』


ロングソードが冷淡に言う。

こいつ自分はなんも出来ないからってえらそーに…。


でも確かに、圧倒的とはいえ延々と再生し続けるモンスターの相手は骨が折れそうだ。文字通り骨が折れられても大変だし。

何か手伝えたらいいんだけど…。


…ん?いや、待てよ?ナオの頭に電流走る。

そういやさっき武器を山盛り取り出して会話検証した時に、他の物も色々スピリットに突っ込んだような…。


(スピリットオープン!)


光をたたえる自分の胸に躊躇いなく手を突っ込んでメモ束の事を思う。


手に当たる感触。それを急いで引っ張り出すと、手の中にある光の玉は乱雑な走り書きで満ちた紙の束になった。


紙の左上に空いた穴、そこに紐を通して束ねただけの雑なメモ帳。ああ間違いない、探し求めた我が愛しきメモ束!


「あったよ!メモ束!」


『遅ぇよ!』


剣に突っ込まれた。そこはでかした!って言ってくれよー。

よしよしよし、私のターン来たよこれ。アイツに一発かましてやろうじゃないの…字ぃ汚い…いやちゃんと読めるし問題ない問題ない。


「ええっと光魔法の強いやつ…あったこれだ!よっしゃ、コイツであのバケモンに目にもの見せようじゃないか!」


『急に強気だな』


「うっさいわい!」


我ながらさっきまでのビビりムーブが何処へやら、果敢に立ち上がり杖を振るった。


そして戦いの場へ走り出しながら「すーいませーん!!」と大きく声をかける。


「多分すごい魔法撃ち込むので離れててくださーい!!」


「えっ!?」


「なに?」


赤髪と青髪の二人が驚いた表情で振り返り、咄嗟にオーガもどきから飛び退く。


全身傷だらけになって動きの鈍くなった化け物へ、私はカッコよく杖を向けた。


「くらえ!!──我望むは光神の裁き!パニッシュメントセイバー!!!」


そう叫んだ瞬間。


さっきまで雲一つない快晴の空に暗雲が立ち込めたかと思うと、オーガもどきの頭上に光が差し込んだ。


それは幾つもの閃光の剣となり、正しく光の速さでオーガもどきを貫いてゆく。その姿が光に埋もれて見えなくなってもなお、天雷の如く降り注ぐ閃光の剣は周囲の地形さえも削りながらとめどなく化け物を裁き続けた。


そして数秒もしない間に光の裁きは止み、空は何事もなかったかのように再び晴れ渡ると私の魔法の後を照らした。


大きく抉れた大地。そのクレーターのど真ん中にはオーガもどきがいた痕跡さえなく、まるで最初から何もなかったかのように塵一つさえ残さず消し飛んでいた。


「…………………………。」


顎外れそう。


違うじゃん。思ってたのと違うじゃん。パニッシュメントセイバーは光属性の最上位魔法ではあるけど、ゲームん中じゃ光の剣が3本出てきて敵を攻撃する感じだったじゃん。これ私の知ってるパニッシュメントセイバーと違うんですけど。


さっきから理解の追い付かない展開が立て続けに起きてきたけど、今目の前で起こったことが一番理解できないかもしれない。


「うぅ……。」


何度も空とクレーターを交互に見ていた私だが、近くから聞こえた人の呻き声で正気に戻った。


「あっ、ひゃああああああごめんなさいごめんなさい!大丈夫ですかごめんなさい!」


見ると私を助けてくれた二人は光魔法の衝撃で離れたところまで吹っ飛んでいた。


『助けてくれた人を吹っ飛ばすとか恩知らずの極みだな。』


他人事のようにつぶやく剣を余所に、離れたところにいる2人に飛び付く。2人とも目立った外傷はないが、衣服や鎧が傷だらけになっていた。


「すみませんごめんなさいわざとじゃないんです私もこうなるとは思ってなかったというかなんというかほんとごめんなさい!」


これ回復魔法いるかな?詠唱なんだっけ?ああもうだから覚えてないって!


自分の脳内にツッコミを入れながら慌ててメモ束を取り出す。

ていうかライフポーションの方がいいかな?服弁償しないとだよね?お金ないんだけどこれどうしよう??とかパニクってるうちに「いや…大丈夫…」と言いながら2人はゆっくりと起き上がった。


「本当にごめんなさい、私の事助けてくれたのに…お二人とも巻き添えにしてやろうとかそんなつもりは微塵もなかったんです。ただ思ってたより火力が出ちゃったというか…あ、服とか弁償しないとですよね。今はあんまり手持ちないんですけど絶対返しますんで…」


「そんなことより!」


赤い髪の男性にガッと両肩を掴まれて思いっきり向き直させられた。


「今の…光魔法か!?」


「え?えっと…そうですね。思ったより全力になっちゃったけど」


「────!!」


男性は私の顔を見て酷く驚愕し、絶句しているようだった。それだけの大惨事をやらかした自覚はあるので大人しく縮こまっている。


「………ナオ、か?」


やっと口を開いたかと思うと、そこから漏れたのは私の名前。正確には女主人公の名前。


「えっ、私のこと知ってるんですか?」


咄嗟にそう答えて「しまった」と思う。

ナオは世界を救った大英雄。知らない人なんてそうそういないだろう。なのに今の返答は完全にその呼び掛けを肯定していた。

できるだけ秘密にしてってオルフェと決めたのに意味ねーやん…。


「ナオ…ナオ!」


軽く後悔していた次の瞬間、大柄な男性に思いっきり抱きしめられた。


「えっ、いだっ、いだだだだだ!いたいいたいしまってるしまってる!」


「ナオ…お前本当に生きてたんだな!よかった!ああよかった!」


全力で抱きしめられて苦しみもがく私を知ってか知らずか、男性は半泣きで私を締め上げる。

いやマジで苦しい、苦しいから!これやっぱ不老不死だとしても痛いもんは痛いわ!


ここはクールビューティな青い髪のお姉さんにひっぺがしてもらうしか…と、助けを求めてそちらを向いたが、頼みの綱のお姉さんもぽたぽたと涙をこぼしながら私の頬に手を触れ「ナオ…!」と私の名を呼ぶだけだった。


元より頼るつもりのないロングソードもノーリアクション。


だれかたすけてぇ


それからしばらく、私は大柄な男性に締め上げられ続けたのだった。




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