名刺交換
よく同じような名刺が落ちているのを見かける。
それが気になって、落ちているのを見かけるたびに立ち止まって名刺を見ていた。
名刺はどれもシンプルなデザイン。白く、縦長の長方形で、名前だけが書かれている。普通名刺には会社名や連絡先が記載されているはずだが、人の名前だけだ。
もう一つ変わっているのが名前の色が、黒いものもあったが、赤や紫や青といった黒以外の色をしていた。
名前だけしか書かれていないこの名刺は、どんな会社の社員なのだろうと不思議に思っていると、同僚の男性が、例の名刺を見知らぬ男性にもらったと言う。
その名刺を見て驚いたのが、青い色で同僚の名前が書かれていたことだ。
同僚にこの名刺について尋ねてみると、名刺を渡してきた男性は、通勤中に突然声を掛けてきたそうだ。そして名刺を差し出されたので、自分からも名刺を差し出して交換をしたらしい。
相手が立ち去った後、名刺を見て、自分の名前が書かれていて驚いたという。
どうして名刺交換に応じたのか分からないと言う。また、名刺を差し出してきた男性の顔はよく憶えていないそうだ。唯一憶えているのは、男性だったこと、そしてスーツを着ていたこと。
奇妙な話だが、同僚の話す様子から嘘とは思えなかった。
そんなことがあって三週間ほどが経過した頃。
同僚が友人とキャンプをしていて、川に入ったところ溺れてしまって意識不明となった。同僚の父親から、そのような電話が会社にかかってきて驚いた。
川で溺れたと聞いて、すぐに名刺のことを思い出した。あの名刺に書かれていた同僚の名前は青かった。青は水を連想させる。もしかすると、あれは今回のことへの警告だったのではないかと考えてしまう。
心霊写真でも、例えば足が消えていると、それは足を怪我する警告だと聞いたことがあった。
そこで名刺のことを調べてみることにした……。
それから意識不明と会社に電話があった数日が経過した。同僚は無事に意識が戻り、一週間も経たないうちに会社に復帰した。
復帰した当日に同僚から飲みに誘われたので、よく行く居酒屋で飲むことに。同僚は自分が川に流されたことを笑って話していたが、正直あまり頭に入ってこなかった。目の前の同僚に違和感を覚えたのだ。何に対して違和感を覚えているのかは、はっきりと答えられないが、何かおかしいと思えてしまう。
そう思えてしまうのは、変な都市伝説を見つけてしまったからだ。
あの名刺のことを調べてみると、名刺を渡す怪人の都市伝説に行きついた。
自分の名前が書かれた名刺を渡してくる男性。それを拒絶できればいいが、名刺を交換してしまったら、名前の色に注意しなくてはならない。その色に関係した災いが、必ず自分の身に降りかかる。
その災いで死んでしまったら、名刺を渡してきた怪人が、その人に成り代わる。そんな都市伝説。
馬鹿らしいと思うが、その都市伝説を知って、こうして話をする同僚は、いつもと何かが違う気がしてならなかった。
そこで都市伝説のことを思い切って伝えてみた。すると同僚は馬鹿馬鹿しいと笑う。だが、彼の目は笑っていなかった。真っすぐこちらを射抜くような視線は冷たく、口角を上げて笑みの形を作る口とは対称的で不気味だった。
それから一ヶ月後。同僚は突然会社を辞めてしまい、連絡もつかなくなってしまった。
理由は分からないが、やはりあの都市伝説が関わっているのではないかと疑ってしまう。
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