終電の怪人
懐かしい友人とたまたま外出先で会って、飲んだ帰りの出来事。
昔話に花が咲いて、そろそろ帰ろうと思いつつも、結局終電になるまで飲んでしまった。若干ふらつきながらなんとか終電に乗り込む。
幸い席は空いていて座ることができた。自分の他にも乗客がちらほらいる。乗客のだいたいは自分と同じように酔っ払っているようだった。
しばらくはスマホをいじっていたが、やがて電車の振動が心地良くなって眠くなってきた。
自分の降りる駅に到着するまで、まだ時間もあるので寝てしまおうかと一度目を閉じる。だが、突然腐ったような匂いを感じて睡魔が弾けた。
もしかして泥酔者が吐いたのではないかと匂いを不快に感じながら目を開ける。
そして車内を見渡してみると、少し離れた椅子の前で蹲るスーツを着た人物がいた。顔は椅子に埋めていて見えなかったが、体格からして男性と思われる。
この人が原因かと思ったが、蹲っていること以外に、変わった点はなかった。それで他に原因があるのかと思い、車内をもう少し見てみたが、他に原因と思われるものは見当たらなかった。
やはりあの蹲っている人が原因か……そう思い、再び男性の方へと視線を向ける。すると先程までいた場所にはいなかった。いったいどこへ行ったのかと思うと、蹲っていた場所の上。網棚の上に横になっていた。
いくら酔っぱらっていたとしても、そんなことをするかと自分の目を疑った。
仰向けで横になっていて男性の頭頂部が見える。やや白髪が混ざった髪を見て、いい歳をした大人が何をしているんだと飽きれた。
匂いに慣れてきたこともあって、再び眠ろうと目を閉じる。
だが、急に匂いが強くなって再び目を開けた。すると信じられない光景が目の前にあった。
自分の向かい側にある窓。僅かに開いた窓から先程の男性が上半身を外に出して、まるで干された布団のような状態になっていた。
さすがにこれはマズいと思い、男性を車内へと引っ張ろうと立ち上がろうとしたが、ずるりと男性の全身が外へと出てしまった。男性は走る電車に置いて行かれて、線路に身体を打ちつけることになるだろう……そんなことを想像したのだが、男性の身体はまだそこにあった。
窓の縁に身体の手など一部が引っかかっているわけではない。男性の両手がまるで蛙のように張り付いていたのだ。そしてここで初めて男性の顔を見たのだが、男性には顔がなかった。つるつるとした、ゆで卵に髪を生やしたようだ。
目はないものの、それと目が合ったように感じた。しかし特にこちらに何かするわけでもなく、そのままペタペタと上へと移動して見えなくなった。
夢を見ていたのかもしれない。だが、あの腐った匂いは顔のない男性がいなくなってから、徐々に弱まって、やがてまったくしなくなっていた。
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