普段聞こえない声
会社から一駅離れた場所に、会社が借りているアパートがあって社員寮として使われていた。
古いアパートだが風呂、トイレはちゃんとついており、広くて不便なことはなかった。
ある男性は新卒で入社して一年目。
会社の近くに住めて通勤は楽で、寮には同期が何人かいて心強く、仕事は大変だったが順調な社会人生活を送ることができた。
そうして入社して初めてのゴールデンウィークを迎える。
同期は全員帰省や旅行に行ってしまい、寮には男性一人だけが残った。実家に帰ろうとも思ったが、両親は自営業でゴールデンウィーク中も働いているそうなので、下手に帰ると手伝うように言われてしまうと思い帰らなかった。
男性は昼までのんびり寝て、その後はパチンコに行ったり、居酒屋へ行ったりして過ごした。そんな休日を過ごして、日頃蓄積していた疲れがとれていくような気分だった。
そしてゴールデンウィークのちょうど真ん中くらい。前の日に深酒をしてしまい、昼に目が覚めたものの、まだ酒が抜けきっておらず布団から出る気になれなかった。
横になったまま、しばらくだらだらと過ごしていると、ふとすぐ近くで子供の複数の甲高い声がした。
最初は元気が良いなぐらいにしか思わなかった。ただ、よく考えてみれば周りには遊ぶ場所はないことに気付く。
ただ、広い場所ならある。実はこのアパートの隣には墓地があるのだ。
人によっては不気味だと思うかもしれないが、管理人がよく掃除をしていて綺麗な墓地で、夜に見ない限りはあまり不気味さは感じない。
もしかすると近所の子供が入り込んで遊んでいるのかと思った男性。気になって起き上がり、窓を開けて外を見る。
ちょうど墓地を見下ろせるのだが、そこには誰もいなかった。ただ子供の声は聞こえる。それも耳がおかしくなければ目の前の墓地から。
ただ、男性はあまり幽霊の類を信じる人ではなかったので、酒のせいで耳の具合がおかしいのだと思い、別の場所で遊んでいるのだろうと思った。
窓を閉めてもうひと眠りしようと男性は思ったが、足元から「おじさん遊ぼうよ!」と元気な男の子の声がした。
驚いて足元を見てみるが誰もいない。周囲を見回してみるが部屋の中にも自分以外、人はいなかった。
今の声は明らかに室内からした。そしてなぜかわからないが自分に向けて言われた言葉だと男性には思えた。
気付けば大勢の子供たちの声も聞こえなくなっていた。
今のはなんだったんだろうか……と驚きのあまりすっかり男性は酔いがさめていた。
それから男性はこのような経験は二度としなかった。
同じアパートに住む同期に子供の声がうるさい時はないかと聞いてみると、酒好きの同期が唯一「あった」と答えた。
前に昼間から酒を飲んでいた時、子供の声がやけにうるさいことがあった、と。特に気にせず酒を飲み続けて「遊ぼう」とは言われていないらしいが、同じような経験をしていた。
酔っぱらって夢でも見た。そう言われればそれまでだが、酔っぱらってしまい、普段とは異なる精神状態に陥ることで普段見えない、聞こえないものを感じることがあるのかもしれない。
実は感じないだけで今もこの部屋には……そう思った男性は、子供たちが遊ぶであろう昼間には酒が残らないように気を付けることにした。
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