浅い井戸
大学の映画研究会に所属していた村田さんという女性のお話。
夏の長期休暇を利用して、映画研究会でホラー映画の撮影をすることになり、撮影の為にとある廃村に行くことになった。その廃村は研究会の会長の祖父母が以前暮らしていた村。祖父母が最後の村人で、十年前に村を出てからは、すっかり自然に浸食されて荒れ放題。
その退廃的な雰囲気が今回のホラー映画の内容に合っていて、撮影をすることになったそうだ。
ただ、一番最近まで使われていた会長の祖父母の家も荒れていて、住めるような状態ではなかった。その為、近くの町の民宿から毎日通って撮影を行った。
撮影は順調に行われて一日目、二日目の撮影を終えた。
そして撮影の三日目。撮影中に会長が突然全員を集めて、とある家と崖の間に、井戸を見つけたと言った。そしてそこをラストシーンの撮影にどうかと提案をしたそうだ。
ひとまず一度見つけた井戸を全員で見に行くことに。
会長が案内した場所も自然の浸食を受けて荒れていたが、井戸だけは自然の浸食に呑み込まれずに、ポツンと綺麗な状態でその場所にあった。傍に生えた大きな木の枝葉によって、木漏れ日が良い感じに井戸に注がれ、神秘的な雰囲気を纏っていた。
有名なホラー映画の井戸のような不気味な雰囲気とは真逆だった。
ホラー映画のクライマックスとしてはどうだろうと、後になって村田さんは思ったが、その時は不思議とそこが良いと思ったらしい。他の人もそこでラストシーンを撮影することに賛成した。
その時から、誰もがラストシーンを早く撮影したいと浮足立っていたそうだ。
村田さんもその一人。ただ、スケジュールの都合でその日の夜から合流した副会長だけは、民宿でラストシーンを井戸で撮影すると聞いて顔をしかめた。
「ラストシーンを井戸でって……本当なら村の入口でラストを撮る予定だったでしょ? てか、そうじゃないと台本と辻褄が合わないだろ」
そう言われて研究会の一同は副会長の言う通りだ思い直したそうだ。そして次に思ったことは、どうして誰もそのことに気付かなかったのか……明らかにおかしい。
そこで撮影の四日目は、撮影を始める前に全員で井戸に向かうことにした。木漏れ日が注がれる神秘的な井戸というのは三日目に見た時と変わらない。だが、最初に見た時には、まったく気付かなかったあるものを目にして、全員血の気が引いた。
それは枝葉から垂れる古びれたロープの数々。どれも井戸に向かって伸びていて、途中で千切れているようだった。
会長が恐るおそる井戸の中を覗き込んでみると、すぐに悲鳴を上げて、その場で腰を抜かした。
村田さんは覗かなかったそうだが、会長や他に覗いた人の話によると、井戸の中にあったのは死体だった。それも手に届くかどうかの高さまで、多くの死体が積み重なっていたそうだ。
その後、警察に連絡をして、撮影は当然中止となった。
後日、警察からは、死体は廃村マニアや登山に訪れた人で、井戸の上で首を吊って死亡。その後にロープが切れたか、枝が折れて井戸に落ちたと発表された。
会長が祖父母から聞いた話では、その井戸は村ができたばかりの頃、夫の暴力を苦に、身を投げた女性がいて、それ以来女性の幽霊が村人を井戸に誘い込む……という噂話があり、祖父母が物心つく頃から井戸には蓋がしてあったそうだ。
誰かが蓋をどけてしまって、女性の幽霊が再び現れてしまった。そのせいで多くの人がそこで首を吊ったのではないか。あの神秘的な雰囲気は人を誘い込む餌のようなもので、自分の命をここで絶っても良いと思わせるのではないか。だとすると、副会長が指摘してくれなかったら、もしかすると自分たちも同じように……と、村田さんは当時のことを思い出すと今でも恐怖で身体が震えると話す。
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