出して
雨宮さんという男性は、県境の峠道で愛車を走らせていた。
昼間だというのに空は雲が覆っていて薄暗く、今にも雨が降りだしそうだったが、それとは対称的に雨宮さんの心は晴れ晴れとしていた。
彼が乗る赤いオープンカーは、今日が購入して初めてのドライブなのだ。
今まで乗っていた車は事故を起こして廃車となってしまった。それでこのオープンカーを新たに購入したのだ。
このオープンカーは中古車。予算的に新車は厳しく、いい中古車がないだろうかと一か月以上、様々な店を回って見つけた。
数年前に販売された車なのだが、走行距離はそこまでではない。
値段もあまり高くなく、予算内におさまる。修復歴があったのは気になったが、一目ぼれして雨宮さんはすぐに購入を決めた。
納車され、初めての休日。こうして少し遠くまでドライブをすることに。
この峠道は車通りが少なく、風を切る音と、車が発するエンジン音や走行音しか聞こえない。ドライブを阻害するものはなく、雨宮さんは気分がよかった。
だが、とうとう雨がポツポツと降ってくる。雨はしだいに強くなっていくので、仕方なく屋根を出すことに。屋根を打つ音を耳にしながら運転を続ける。
屋根を打つ雨音が大きくなっていく。その音を耳にしていると、ふと雨宮さんは違和感を覚える。
屋根から聞こえる音が、雨の音とは違う音のような気がしたのだ。
雨が屋根を打つ音よりも強く、まるで硬いもので叩かれているかのような音がはっきりと聞こえる。
雨宮さんは経験したことはなかったが、雹でも降っているのかと思った。
そうなれば車が傷付くと不安に思ったが、音は後部座席の屋根からしか聞こえない。そうなると雹ではない。それにそんなものが降っていたら運転中でも気付くはずだ。
そうなるとこの音は……と、ふとバックミラーを見て雨宮さんは気付いた。
後部座席に人の形をした黒い靄が現れて、それが屋根を叩いていることに。
雨宮さんは驚いてブレーキを踏み、外に出ようとする。だが、いくら踏んでも車は止まる気配はなく、それどころかハンドルも効かず、勝手に車は左右に大きく蛇行しながら走行を始めた。
雨宮さんはなんとか車を停めようと、何度も何度も必死にブレーキを踏むものの、まったく停止する様子はない。そして屋根を叩く音がしだいに激しくなっていった。
このままだとこの靄の化け物に殺されるか、事故を起こして死んでしまうと、雨宮さんは酷く怯えていたが、バックミラーに映る靄を見て、もしかして靄は外に出たいのではないかと思った。
屋根をバンバン叩いて開けろと靄は訴えているのではないかと思った雨宮さんは屋根を開けてみた。すると黒い靄は車外へと、すうっと出て行き、消えた。
靄が消えると、ブレーキやハンドルも使えるようになって、正常に運転ができるようになる。
その後、雨が降り続けていたものの、再び屋根を出す気にはなれなかった。
それから雨宮さんは屋根を出さなくて済むように、雨の日は車を運転しないようにした。そのおかげか二度と黒い靄を見ることはなかった。
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