心の声
男たちは、夜通し東矢を囲んで宴会をするとかで、その夜紗椰たちは愛惟の家に泊まり、翌日意を決して現女王が住む館に来ていた。
かつて紗椰の両親と共に過ごしたその場所は、数人の使用人がいるだけだ。
女王の執務室は二階にあった。
話を通してもらい、ノックをすると中から返事があって入るよう促される。
中には書類に目を通す、義母の姿があった。
「久しぶりですね。」
紗椰は呼びかける。後ろにはシロとアオが、見守る。
「龍の花嫁に本当になったそうね。国の危機を救っていただいたのだから、膝まずくべきかしら。」
会わない間に、厳しさが増したな、と紗椰は思う。威圧される。だが、今日、確かめなければならない。
「いえ。それよりも、教えてほしいことがあります。父はなぜ死んでしまったのか。」
ずっと避けていた話題。
義母といる時に亡くなった父。
疑惑はあったが、当時、紗椰は義母がそんなことをする理由が思い付かなかった。しかも父亡きあとの施政をこなす姿に、感謝までしていた。
しかし。
玲我の言葉は、無視できない。
「玲我がいっていました。父を殺したのはあなただと。私は真実が知りたい。」
「あなたは、この国を治める覚悟があるのかしら。」
女王は話をそらす。
「黒曜石の輸出、食糧の調達、外交と内政。今私が担っているものは大きい。あなたにそれができるのかしら。」
「・・覚悟があれば、どうなのです?あなたが、父を殺したのですか?」
紗椰は思わず感情的に問い詰める。
「そうだと言ったら?」
女王の目が挑発的に紗椰を見た。
「私が、あなたの父を殺しました。そして、あなたも殺そうとした。花嫁の儀式は、生け贄だと分かっていて、あなたにさせました。」
「どうするの?復讐なさる?新たに得たナイトにまた守ってもらうのかしら。」
紗椰は、青ざめて、震えていた。
真実がそうだったら。
紗椰は、怒りで我を忘れる自分を想像していた。
しかし、これは。
身体中が凍りついたように冷たくて、震えが止まらない。
「サヤちゃんが望むなら、僕が噛みちぎってあげようか?」
シロが、龍の姿をとる。
女王は一瞬怯んだが、紗椰から視線を離さない。
紗椰は知らないうちに自分を抱き締めていた。
この感情は、なんだ?
なぜ怒りじゃない?
なぜこんなにも震える?
心が冷えていく。この感情を、紗椰は知っている。
悲しみだ。どこまでも孤独な。
父の死を受け入れる前、飲み込まれそうになったことがある。
満たされない、悲しみ。
でも、なぜ、今?
「違う。たとえそうだとしても。真実はきっと・・」
呼吸が苦しくなる。
なぜか分かる。これは真実ではないと。
義母はまだ、何かを隠している。
「覚悟が決まったら、復讐しに来なさい。今のあなたに全て話すつもりはないわ。」
アオが、崩れ落ちそうになる紗椰を抱き止め、シロを制した。
「失礼する。」
紗椰を支えながら館を後にする。それぞれの思いをもって。