招待状
「季節はリンゴだよねー。」
シロが、アオの買い出し袋を覗き込んで言う。
「普通に食べても美味しいし♪ジャムでもパイでもいけるよね♪」
シロは甘党の龍である。普段の見た目はぬいぐるみみたいでかわいいが御年200歳だ。
「パイってなに?」
紗椰が思わず聞く。いろいろな事情で二人と一匹生活を始めたテナン国の姫。言葉づかいに悩んでいたが言い直しが増え、敬語なしに決定した。
「生地でリンゴを包んで焼いたものだ。」
アオが簡潔に返す。本名は青刹という。幼い頃の紗椰と婚約し、見守ってきた。最近は甘味の話になっても、求められない限りはレシピでセリフ量を稼がないことにしている。
「食べてみたい・・。」
紗椰の一言で、今日の午後、青刹はパイ生地をこねることが決まった。
夜。
「あれは、どうするんだ?」
食事の後、アオが聞いた。
「愛惟の招待状のことだよね。できれば行きたい・・です。」
最近、テナンに行くことがあり、その時にテナンの民である愛惟から、結婚式の招待状を受け取ったのだ。
愛惟には、東矢という婚約者がいる。紗椰の「龍の花嫁」の一件で罪悪感から一旦は婚約解消も考えた二人は、無事もとに戻り、むしろ絆を深めることになったらしい。
アオたちと生活を共にすることになったものの、館に自分の荷物を取りに行く気持ちにどうしてもなれず、愛惟から服や身だしなみに必要なものを貸してもらった。
紗椰が義母である女王と顔を合わせることを自分から避けていると知る数少ない人物でもある。
思わず丁寧な言い方になったのには訳がある。
「連れていってもらえるかな。」
「いーよ!」
シロが快く応じてくれる。
彼らと紗椰が住む天空の家から、テナンまでは、紗椰一人では行く手段がない。シロの同意と、あとは。
「俺も行ける。」
アオが言ってくれる。すかさずシロが、
「アオー。甘やかさないのも大事たよ。そろそろ一人でも乗れなきゃ。」
と言う。
いや、まだそれは勘弁してほしいと、紗椰は切に思う。
あれは、本当に無理だから!
シロはこう見えて、もう一つ、いわゆる「龍」の姿ももっている。
空を飛べる龍バージョンのシロに乗せてもらうしか、テナンへ行く道はないのだが。
乗るときも、乗ってからも、とにかくめちゃくちゃ怖いのだ。
「サヤちゃん。練習あるのみだよ。なんなら今からやってみる?」
「もう夜だ。」
アオの静止は早い。
シロの行動の早さを知っているからだ。
「夜でも、明かりついてるし、僕の体は目立つもん。あ、じゃあ明日は?」
「危険だしな。明日は用事がある。」
「そんなこと、言ってなかったじゃん。」
「今、言った。」
言い合う一人と一匹。
「あの!必ず練習はするから、とりあえず次はお願いしてもいいかな。」
紗椰の必死のお願いには、結局弱い彼らである。
愛惟の結婚式には、そろって参加することになったのだった。
「アオ、絶対あのポジションで連れて行きたいだけじゃん。練習もさせる気、ないんだろうな・・。」
仕返しが怖いので、聞こえないように、シロは深くため息をつく。