表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神宿り  作者:
第1章
6/103

5

 空の色が、鮮やかなから、徐々に闇へと支配権を移してゆく。

 それでも街の喧騒は途絶えることを知らない。


 人の往来のやむことのない、街の一角…。

 ドンッと少女と男の肩がぶつかった。


「気をつけろっ!!」

 男が声を荒げた。

 そのまま歩き出そうとした男に、抗議の声が上がる。少女の声ではなく、猫の声で。


「!?」

 立ちどまり、振り返った男は、少女の肩に漆黒の猫が乗っているのに気付いた。

 その蒼玉青色(サファイアブルー)と、金色の瞳が、わずらわしそうに男を見ている。

 男は見くだされている気がして、カッと頭に血がのぼる。


「失礼」


 男の感情が爆発する寸前、静かな声がさえぎった。

 男は視線を横へと動かし、息をのんだ。頭にのぼっていた血が、一瞬にして凍結する。

「あ、う…っ、お、おうよっ。気をつけやがれ」

 とっさにとりつくろった声は、彼の意思を裏切り、迫力に欠けていた。


 少女の全てを見すかすような、一点の曇りもない瞳に、男はたじろぐ。


「みゃぅ?」

 少女の肩、黒猫とは反対側から、問いかけるような鳴き声が上がった。


「……っ!?」

 今度は何事かと男は視線を滑らせた。

 純白の猫が金色と翠玉緑色(エメラルドグリーン)の瞳で男を見つめ、さとすようにもう一度鳴いた。


「ぐ…っ…」

 男はうめき声に似た声を発し、逃げ腰で少女に視線を戻す。


 少女は無表情に男を見返した。

 両肩の猫が声を上げる。


「あ…こ、こっちこそ、悪かったな」

 それだけを言うと、男はあたふたと逃げだした。

 少女はその姿を見送ることもなく、興味もなさそうに歩き出す。


 左肩の黒猫が、妙にさめた目で走り去る男の後ろ姿を見、ふんっとばかりに顔を背けた。

 右肩の白猫はちらりと男の背を見やったが、すぐに少女に視線を移し、その頬にすり寄った。

 少女は小さく頷き、角を曲がる。

 一軒の居酒屋の前で立ちどまった。

 猫と瞳を交わしてから、少女は暖簾(のれん)をくぐった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ