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それから掌を開く。何かを持っているかのように。
次の瞬間、その掌に光の塊が。
創樹はふわりとその光を押し出した。
ゆっくりと空間を漂いながら、光はひどく疲れた様子の峰春の元へ。
『え? 何? 何なの?』
峰春は慌てて座り直すと、光を受け止めようとする。
温かい。そう感じた瞬間、光が掌に吸い込まれるように消えた。
『え…?』
先程まで散々跳んで力を使い果たしていたのに、光に触れた瞬間、それがある程度補われていることに気づく。
創樹はもう一度掌を開き、それをザットに向けて。光がザットに向かう。
もう一度。シグに向けて。
ちょうど、シグが創樹の部屋でしたのと同じ、エネルギーの塊…。
『ありがとう。だが、大丈夫なのか?』
光が己の中に消えるのを見ていたシグは、創樹に問う。
『ええ。あなた方の分も、力を分けてもらってきましたので』
創樹は口許に微かに笑みを乗せる。
もう、だいぶ回復しているようだ。
その場でぐるぐると回っていた戦貴が、再びどこかに駆け出した。
『…しかし…あんなにも幼い宿神は珍しいな…。宿主が君じゃなく、生まれつきの宿主で子どもだったとしても、センキは幼すぎるし、強すぎる。宿主が子どもの頃は…宿神の方が世間を知っているから、宿主を導くほどなのに…』
少々眉根を寄せるシグ。
『戦貴の精神は…恐らく退化したんだろう、って…砕牙が以前…』
創樹が砕牙を見、砕牙が頷く。
『退化…?』
シグの言葉に、創樹が静かに頷く。
『私達が戦貴と出会った時、戦貴は…消滅する寸前でした…』
『そんなこと、あるのかよ…』
ザットが呟いた。
『…………もしかして…君の宿神が高位神ばかりなのは…』
シグがどこか悲しみを帯びた真剣な眼差しでつぶやく。
『………放浪の神がこれほど居るとは…器の不足は、これほどまでに…?』
シグとロードが顔を見合わせる。
『恐らく、としか…私にも……』
創樹は砕牙にまたがったまま、その毛並みをなでる。
『シグ? ソウ?』
ザットが問い、峰春も首を傾げている。
『つまり…彼女の宿す神々は、放浪の神だった、ってことさ。原因は器の不足。彼ら高位神をその身に宿すだけの力…というか、資質を持つ者がいなかったからだ』
シグが静かに説明する。
『器がないから、彼らは単独で生きて行くしかない。だから、彼女が出会ったのは全て、力のありすぎる宿神や、特殊な伝説神ばかりだったんだろう…。もう少し力の弱い宿神なら、現代でも何とかなったのかも知れないが…』
『猫神はどうなるの?』
シグの説明に、峰春が首を傾げる。
『猫神は猫神でも、ただの猫神じゃない。ユメとウツツは。言っただろう? 本来は双子にしか宿れない。しかも同等の力を持つ双子にのみ。そうでなければ幻術と現術の均衡が崩れる。だから、ユメとウツツは希少神。器が見付かりにくくて当然だ』
あっさりとシグは答えた。
『それでなくとも…現代は自然神に対する尊敬の念が薄れてきている。人間の体質・資質・生活も大きく変化している。特に、先進国と呼ばれる国ではな。そのせいで宿主の器にふさわしい者自体、減少している』
ザットと峰春は顔を見合わせ、創樹を見やる。
創樹はただ静かに、砕牙に身を寄せていた。
森のどこかで、戦貴のはしゃいでいるような声が聞こえる。
『けど…消滅、って……』
ザットは珍しく深刻そうに眉根を寄せる。
『放浪の神は、力を保つのが難しいのだろう…。ほとばしるエネルギーを留めておくのは難しい…』
シグが砕牙を見る。砕牙は静かにシグを見返した。
『ただでさえ山犬神は希少神なのに…。実際の山犬が滅びて久しい…』
そっとシグは視線を外し、森の奥に注ぐ。戦貴の声をたどるように。
『実際の山犬とかとも関係あるのか? それに、消滅したらどうなるんだ…?』
遠慮がちにザットがハックに問う。ハックが悲しげにうなる。
『力とかに関係あるんだ…。けど、何で消滅したら災害が起きんの?』
ザットは首を傾げ、さらにハックが答える。
『宿神だから、って…何で宿神だから?』
さらなるザットの問いに、ハックも困惑したようにシグとロードを見た。
『さっきも言ったろう。宿神たちは自然の秩序の一部を担っている。自然界の一部だと考えていい。山犬神は森や山を司る宿神のひとつ。つまり…センキが消滅していたら、日本の森の秩序が狂う』
シグが苦笑してザットに答える。ロードはやれやれ、とばかりにハックとザットを見やった。
『秩序が狂ったらどうなるの?』
今度は峰春が問う。
『秩序が狂う、即ちシステムが狂う。山崩れ、地すべり、洪水。どんな災害が起きてもおかしくなかった。海の秩序も乱されることになる』
『それで災害。…でも、何で洪水とか海まで。森とか山を司ってんだろ?』
納得の表情と共に、再び問いを重ねるザット。
『…あのなぁ、山や森は天然のダムだぞ。木々がなければ水はそのまま流れる。土砂崩れの原因にもなるし、大雨が降ればそのままそれがふもとに流れていく。挙句に川を伝った土砂が海に流れ込んだのなら、海の水質が変わり、海の生態系も乱される。自然界は全て、繋がっている。海をきれいにしたければ、荒れた山に木を植えろと言うだろ。小学生でも知っているぞ』
シグは、少々呆れたように告げた。




