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神宿り  作者:
エピローグ
102/103

2






 ゆったりとした足取りで歩く少女の足元を、黒猫と白猫がじゃれあいながら歩く。

 この角を曲がれば、もう、家だ。

『ソウジュ! おっそーい』

 角を曲がった瞬間、元気な声と同時に抱きしめられる。

 創樹は目を丸くした。

『よっ』

『例の件では、世話になったな』

 ニッと笑ったザットと、穏やかに微笑んだシグが歩み寄り、創樹の肩を両側からポンッとたたいた。

 変わらない笑顔だった。

 日本人ではない、というだけでも目立つのに、さらに一人一人の容姿が目を惹く。

 ちょっと、近寄りがたいほどの空気…。

 近所の人の目がないのは、シグが何かをしているのか…。

『どうして…』

 創樹が呆然とつぶやく。

『【あ~ら。「どうして」なんて、私がの恩人を忘れるとでも思ってるのかしら?】』

 峰春が早口の中国語で言って、いたずらっぽく創樹の頬をむにっとつまむ。

『【恩人だなんて…私はそんな大それたこと…】』

 創樹は戸惑ったように中国語で返す。

『ちょっとちょっと、英語で話してくれねぇかな?』

 ザットが二人の間を割った。

『【女の子同士の会話に割り込まないでちょうだい】』

 峰春が中国語で言って、イーッと顔をしかめてみせる。

『英語で話せ!』

 ザットが峰春に叫ぶ。

『おいおい…』

 やれやれ、とばかりにシグが二人を引きはがした。

『相変わらずこの調子だぜ。助けてくれよ、創樹』

 シグがわざとらしいしかめっ面で、創樹を見る。

 創樹は思わずクスクスと笑っていた。

 楽しそうな、笑みだった。

『三人とも、お変わりないようで…』

 穏やかに微笑んで言った創樹に、

『ソウジュも相変わらず可愛い』

 峰春が抱きつく。

『ほら、いい加減にしないと、創樹のお兄さんがずっと玄関で待ってるよ』

 シグが苦笑して峰春を小突き、創樹の背をそっと押す。

「え…?」

 創樹は峰春の肩越しに、咲也を見た。

「兄さん…」

「いつまでそうしている気だい? 風邪を引くよ? 家に入りなさい。そちらの三人も一緒に…」

 創樹は、穏やかに告げる兄のそばへ。三人も続いた。

「兄さん…会社は…? こんなに早く終わったの?」

「定時であがっただけさ」

 少々驚いたように首を傾げる創樹に、咲也は微笑んだ。

「どうして…? いつも、遅くまで残業なのに…」

「ん? 妹の荷造りを手伝っちゃ悪いのかい?」

 咲也は、静かに告げた。

 全てが片づき、熱が下がった後、創樹は兄にだけ全てを打ち明け、一人暮らしをすると告げたのだ。

 転校も考えていると。

 なるべく、両親を脅えさせない(・・・・・・)ように…危害が及ばないように…。

 父親は突然の申し出に難色を示したが、母親はなるべく早くにしなさいと、一も二もなく賛成した。

 生活費はいくらでも送ってやるから、早く家を決めなさい、と…。

 まるで、創樹が出て行くのを歓迎するかのように…。

 創樹は、ただ、感謝の言葉を告げた。

 一番反対したのが、兄の咲也だった。

 だが、創樹は、二度とこんなことを起こしてはならないと、兄を説得した。初めて兄に、今まで思ってきた、全ての思いを打ち明けた。

 それから兄は、創樹にとって、初めての人間の(・・・)相談相手となってくれた。

 その兄には、生活費を全て賄うという両親の申し出はありがたいが、自分もバイトをして、少しでも両親に頼らないようにしたいと、思いを打ち明けた。すると…無理をするようなら、自分が創樹の生活費を出すとまで、兄は言ってくれた。

 初めて、本当の兄妹のような、会話ができた。

 家は、二・三軒候補が見つかったが、まだ、決定はしていない。

 でも、創樹は既に、荷造りを始めていた。

 すぐにでも、出て行けるように。



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