世界の姿
「クロエ!さっきはどうやったんだ⁉︎すごいな、トロール三体を一撃で倒すなんて!」
ケイが俺の肩をポンと叩く。
「痛ってぇぇええ !!」
全身が筋肉痛にでもなったかのように痛い。動かそうとすると、痺れて動かしづらいときのような感覚になる。
『ふむ。頭と体で違う動きをしたことに加え普段しないような体の使い方をした結果、全身を酷使したかのようになってしまったか』
「なに呑気に考察してるの⁉︎」
「クロエ、どうしたんだ?様子がおかしいぞ」
『私の声はクロエ、お主にしか聞こえん』
え、じゃあ周りから見ると俺はずっと独り言を言っていたみたいになっていたの…?なにそれすごい恥ずかしい。
体が非常に痛むことを説明して、ケイとガレスに家まで運んでもらった。
「詳しい説明はまた明日伺わせてもらう、今は休んでくれ。そして、助けてくれてありがとう、クロエ」
ケイが俺の目を真っ直ぐと見ながら、今までと逆の立場の言葉を伝える。
「あ、ああ。また明日」
それが嬉しくもあり恥ずかしくもあり上手く返事ができなかった。
自室で一人横になり、先程の出来事を思い出す。
「マサムネ、ってことは声の正体は爺ちゃんだったのか?」
『そうだ。ここ1ヶ月程呼びかけていた。そして今日、クロエ、お主からも呼びかけてくれたことで顕現することができた』
「どうして今?爺ちゃんは50年前にいなくなったはずじゃないのか?」
『正確には、50年前にこの国の外へ行き、1ヶ月程前に力尽きたことで血縁であるお主の中の力と同化させてもらった。まだお主は力を顕現させておらなかったので、私の力の姿のまま顕現されてしまった。すまない』
「ちょ、ちょっと待って!この国?1ヶ月程前に力尽きた?力と同化?何を言ってるんだ?」
『ふむ。その辺りのことも含め、この世界のことを話そう。
私は55年前この世界に勇者として召喚され、先程の青年、ケイ殿と同じように仲間と共にこの辺りを警護していた。
5年程月日が経ち息子が産まれた頃、ある一匹の魔物と遭遇した。其奴は言葉を喋り他の魔物を従えておった。
私達は犠牲を出しながらもなんとか追い詰めたが、あと一歩のところで其奴は逃走を図った。
そして、それを追う内にこの世界の姿が見えてきた。
ここに住む者達が呼ぶ大地とは、東と南を海に囲まれ、西と北を山に囲まれた範囲でしかない。
東に広がる広大な海の先にも大陸があり、山の向こうにも大地が続いている。
その大地の先にも海があるが、潮の満ち引きの関係で年に一度、2週間だけ西の大陸と繋がるが、当時は知らずにいた。
喋る魔物を追い、知らずのうちに大陸へと渡っていた私達は、なんとか倒し帰ろうとすると道が海で無くなっていることに呆然とした。
更に大陸の魔物はこの大地の魔物よりも強く、遭遇する度に疲弊していった。
仲間の数も半分になってしまった時に、別の勇者に救われた。
そう、世界には人類の生存圏が散り散りに存在し、各地で魔物の侵攻に対し抵抗している。
そこで知らされたのが、魔物にはそれを統べる者、魔王なる存在がいることや、その魔王がいる魔物達の本拠地がこの大地から最も遠い場所にある大陸の大森林にあること、その本拠地から離れる程魔物の力は弱くなり、最果てにあるこの大地は黄金の島と呼ばれていること。
私達が犠牲を出しながら倒した喋る魔物は、指揮官クラスの中ではただの尖兵でしかなかったのだ。
私は各地で繰り広げられる激しい戦闘に背を向け帰ることが出来なかった。私は旅を続け、仲間達には潮の引きを待ってこの大地に帰ってもらうことになっていたのだが、私が逃げたとされている現在を見るに、それは叶わなかったようだ…
私は各地を旅する内に行動を共にする仲間ができ魔王打倒を目指したが、届かなかった。
この勇者の力は血縁者にも発現することがわかっていた。そこで力の繋がりを利用し、力尽きた際に自身の力を血縁者の力に組み込み次世代に想いを託そうとした。
クロエ、お主には急なことで気持ちの整理がつかないかも知れぬ。
しかし、魔王を倒さぬ限り魔物は現れる。
どうか、力を貸してほしい』