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第1幕 シーン7 残酷な過去

「なにをするんだ!」

いままで格下と思っていた人間から平手打ちを食らわされ、思わず怒鳴る。

真佐子はその怒号に臆することなく冷静に、強く、重く言葉を言い渡す。

「私が何も知らないと思っているの?」

怒号による先制攻撃により、優位な立場を保とうとしたが意外な言葉に出鼻をくじかれ、俊夫はうろたえる。


突然、今まで溜めていた感情を爆発させるように、真佐子は非難の言葉を投げつけた。

「真奈美はずっと耐えていたのよ。闘っていたの。

あなたは確かに一家の主よ。私も真奈美もあなた無しでは生きて来れなかったわ

でもね、娘の体をオモチャにしてもいい権利なんて何処にもないのよ」

その言葉は炎となり俊夫の心を焼き尽くしていった。

心を焼かれた俊夫は抜け殻となり、膝を落とした。

「あなたは立派な社会人だわ。しかし、父親として、人間として最低なのよ」

とどめの言葉を言い渡されると、俊夫は生気を抜かれたかのようにうなだれた。

さっきまで居た威厳を持った父親は消えてなくなり、変わりに人生を踏み外した罪人が1人いるだけであった。


その罪人が静かに口を開いた。

「許してくれ・・・真奈美」

うつむいたままつぶやくように懺悔の言葉をこぼす。


「許してくれ・・・真奈美」

今度は真奈美の耳に届くように話す。


「許してくれー 真奈美」

俊夫はそう叫ぶと真奈美の方向に向いて頭を床にこすりつけた。

その一部始終を見ていた真奈美は無表情のまま涙を一粒だけ落とした。

こうして今夜の幕が下りていった。



新崎家の前では今夜の反省会が始められていた。

「ストーリーを変えたなんて聞いてないぜ」

台本通りに話が進まなかったことは、団長の思惑通りなのだろうが思わず愚痴をこぼす。

「あら。台本通りだったわよ。私のね」

そう言ってユウジにウインクする。

「やっぱりあなたは私の期待した通りに役をこなしてくれたわ」

チェッ

思わず舌打ちをする。

「その割には扱い悪いぜ。顔が痛くなっちまったよ」

アピールするように引っぱたかれた方の頬を撫でる。

「鈍感君にはちょうど良かったんじゃない?」

ミキが髪の毛を掻きあげながら口を挟む。

「父親と同化したのなら、その心に潜む狂気を感じ取らないとね」

まだまだ未熟ねと言いたいかのように目を向ける。

フフンと言った言葉が聞こえてきそうだ。

「先に言ってくれりゃ感じ取れたよ」

思わず負け惜しみがこぼれる。


話を打ち切るように団長がパンパンと手を叩いた。

「反省会はこのくらいにして帰りましょ。明日もあるんだしね」

そう言って新しい台本をパタパタと仰ぐ。

「明日からは彼女を慰めてあげてね」

「明日は俺はどんな役だい?」

今度の役はもう少しましな役を期待して聞いてみる。

「あなたはお休みよ」

そういって人差し指を立てて、チッチッチと横に振る。

「この心の傷は男では癒せないわ。だから明日はミキとユウナちゃんにお任せするわ」

「汚名挽回できないのかよ」

このままではかっこつかないとばかりに、団長に詰め寄る。

「そう焦らないで。男を信じられるようになるまで心を癒せたらあなたの出番よ」

真奈美ちゃんの為にならないからとなだめられてしまう。

「わかったよ団長。こんどはいい役を頼むぜ。じゃあ今日は帰るわ」

そう言ってユウジは帰っていった。

「そろそろ私も帰らさせてもらうわ」

カッカッとヒールを鳴らしながらミキも闇へ向かって歩き出していった。


2人が居なくなると夜風が辺りを走り出した。

空を見上げると雲一つ無く自分が一番美しいと言わんばかりに星が輝いている。

夜空に描かれたオリオンを見て団長はつぶやいた。

「あなたたちはこの夜空を彩る星たちよ。お日様の下では輝けないかわいそうな星たち。

しかし、星だからこそ心の闇を照らすことができるのよ」


成長してね・・・

あなたの為に・・・

私の為に・・・

未来の為に・・・

1幕はこれで終わりです。

2幕以降は当分先になりそうです。

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