第1幕 シーン6 団長の思惑
どういうことだ?
台本ではあのままミキは退場して俺が彼女を説得するはず・・・
過去にも台本から外れることはあったが、それは夢を見てる人間が予想外の動きをしたためだ。
今回みたいに演技者が台本のストーリーを外すなんて今まで無かった・・・
しかし、なぜ彼女は俺をぶったのだろう?
考えられるの理由は大きく分けて2つ。
一つは演技とは別でぶつ理由あった。
もう一つは演技の中でぶつ理由があった。
彼女の性格からして俺に不手際があったとしても、演技を観客にばらすようなことは絶対にしないだろう。
と言うことは、何らかの理由で俺をぶつ必要があったのだ。
一度、最初から整理をしてみよう。
台本は母親と娘が進路について喧嘩するのを父親が止めるといった内容だ。
登場人物の真佐子は世間知らずで、娘には就職して欲しいと思っている。
俊夫は製薬会社のやり手の係長であり、一家の権力者でもある。
真奈美は両親思いで介護福祉士を目指していたが、徐々にやる気を無くして引きこもってしまった。
まてよ?団長はたしか大喧嘩の後に、真奈美は介護福祉士を諦めだしたと言っていた。
だから母と娘の喧嘩を止めるのではなかったのか?
しかし、この夢ではすでに真奈美は介護福祉士を諦めている。
しかもそれが台本どうりだと!?
おかしい。何かが食い違っている。
真佐子が俊夫をぶつ以前まで台本通りに進んでいるとなると団長はもちろんこの事実を知っていた。
何の為に団長は嘘の情報を俺に教えたのだ?
どうしてミキは急に台本からストーリーを外したのだ?
そういえば始まる前、団長は彼女から学べと言ったがそのことが関係してるのだろうか。
台本通りに事が進めば、彼女から学ぶことは何も無い。
とするとヒントは彼女か・・・
もう一度ユウジはミキに目を向ける。
以前、真佐子は俊夫に怒りの目を向けている。
ユウジは自分に言い聞かせた。
集中しろユウジ
感じるんだ、彼女の感情、思い、気持ちを
ユウジは全ての視線と神経を彼女に集中させた・・・
その時、視界から全ての景色が消え暗闇の中で2人きりとなる。
すると彼女か何かを感じるようになった。
彼女から発せられる感情が空気を伝わり肌を刺激する。
彼女から出て来ている感情は怒りではなかった。
軽蔑
憎しみ
嫉妬
この感情が体を貫いたときに全てを理解した。
真奈美の性格を変えて、引きこもりにさせた原因は・・・
俺だったのか。