第1幕 シーン5 真奈美の夢の中
真奈美は机に向かっていたが、勉強しているわけではなかった。
ただ呆然と参考書を見つめて考え事をしているようであった。
ガチャッ
部屋のドアが開いた。
「真奈美ちゃんご飯よ」
母親の真佐子がにこやかな顔で真奈美に声をかけた。
「今日はね、珍しくお父さんが早く帰ってきてるのよ。久しぶりに家族団らんしましょ」
母親からの呼びかけに真奈美はめんどくさそうに返事をする。
「どうしたの真奈美ちゃん?」
「何でもないわよ。すぐ行くわ」
真佐子は真奈美の表情を見て異変を感じる。
「真奈美ちゃん心配事でもあるの?」
「本当に何でもないわよ」
思わず強めに答えてしまったため、母親を刺激してしまう。
「何でもないこと無いでしょ。いつもと違うわよ」
真奈美は少し考えてから話し出した。
「・・・介護福祉士目指すのやめたいの」
そう言って目を伏せた。
「真奈美ちゃんどう「友達がね、一緒にイラストレーターを目指さないかって誘われて」
暗くなった空気を振り払うように急に明るい声で話し出す。
「中学を卒業したら桜木美術専門学校に行きたいと思ってるの」
「私、絵を描くの大好きだし商品のパッケージからゲームのキャラクターのデザインまでいろいろな仕事があって、一流のイラストレーターなんかはおっきい家に住んで居るんだよ」
そう言ってわざとらしく大きく腕で半円を描く。
「そしたらさ、印税生活でお父さん、お母さんをお世話するからさ」
そう言い終わるとまた目を伏せた。
「真奈美ちゃんその仕事、本当にしたいの?」
「真奈美ちゃんが本当にその仕事したいのならお母さんは応援するわよ。しかし本当は違うんじゃないの?勉強から逃げてるだけじゃないの?」
「逃げてなんか・・・」
そう言って言葉を詰まらせる。
「真奈美の将来の事よ真剣に考えてるの?」
すこし声を荒げる。
「真剣に考えてるわよ。私は自由にしたいの。親なんかに将来を決められたく無いの!」
ついには言い争いまでに発展してしまった。
部屋の外では父親に扮したユウジがその様子を伺っていた。
「ちゃんと台本とおりに進めてるね。さっすがはミキ姫」
一応、台本が有るが、役者以外の台詞までは団長といえど決められない。
台本に沿って話を進めていくのもドリームアクターの仕事であり技術の必要な所でもある。
「さてそろそろ真奈美ちゃんを説得しに行きますか」
そう言ってユウジは部屋に向かっていった。
部屋の中では以前、母と子の過激な語らいが続いていた。
「介護福祉士はあなたが行きたいって言い出したんじゃないの」
「私は・・・・」
その時、2人の間に割って入るように声が掛かった。
「どうしたんだね騒がしいぞ2人とも」
父親の俊夫はドアを少し開けて様子を伺った。
そして、中の空気を感じ取るとゆっくり部屋の中に入ってきた。
その様子を見て2対1では分が悪いと感じたのか、真奈美は口をつぐんで目を逸らしてしまった。
「真奈美がね。介護福祉士を目指すのやめたいって言い出して・・・」
すかさず話を元に戻す。
「どうしたんだい真奈美?あんなに勉強してたじゃないか」
父親にまで知られてしまい、観念したように真奈美は話し出した。
「最近、勉強が面白くなくて・・」
蚊の鳴くような声で答える。
声が小さく聞き取りにくいため、俊夫は真奈美の近くまで歩み寄った。
そして、ひざをついてやさしい口調で話し出した。
「どうして面白く無いのかな?」
「それは・・・」
また口をつぐんでしまった。
「そっか。母さんがいるから話しにくいのかな?分かった今日は父さんがゆっくり話を聞いてやる」
「大丈夫だ。怒ったりしない」
そう言いながら笑顔で頭をなでた。
そして、立ち上がった後、真佐子に向かって言い出した。
「お前は今、感情的になっている。俺が娘と話をするから退室してくれるかな」
俊夫が真佐子を退室させるために近づいた時・・・
バシッ
突然、真佐子は俊夫の頬を平手打ちした。
その瞳は怒りに燃えていた。