第1幕 シーン3 夢への扉
母親の案内で娘の部屋に通される。
ここより先は出演者だけですからと言って、団長が母親に部屋に出るように促した。
ドアがパタンと閉められると部屋にはベッドで寝てる真奈美と我々3人となった。
「準備はいいわね?」
団長はそう言い私たちはうなずいた。
団長は胸に下げた銀のネックレスを外すと左手に巻き付けて握りしめた。
ネックレスの先には星の形をしたペンダントが付けられてあり、左手の下で振り子のように揺れている。
空気が変わった。
今まで団長から放たれる空気はシルクのような滑らかさを感じていたが、今は無数の針が自分に向かって飛ばされて来ているかのように感じる。
少しでも体を動かすとその針に刺さりそうにさえ思えてしまう。
団長はドアの方を向いて両足をそろえ、背筋を伸ばす。
そして静かに目を閉じた。
ペンダントを持った左手をゆっくり胸の位置まで上げて呪文を唱え始める。
「我らが崇めし獏神よ。我にその力を貸し与え、夢の世界への扉を開けたまえ」
そして右手の人差し指と中指を伸して空に五芒星を描いていく。
描かれた五芒星は光の線となり空に写し出された。
こんどは右手を目の前にあるボールを掴むような形にして、五芒星に向けてゆっくり押し出していった。
右手に押された五芒星は、ゆっくりドアに近づき、やがてドアの一部となった。
そしてまばゆい光を放ち、黒い模様へと変化した。
「準備完了よ」
そう言って団長は笑顔でドアを開ける。
さっきまでの無数の針が流れるような空気はもう感じない。
ドアの向こうにはさっきまで有った廊下は無く、変わりに緞帳が降りていた。
「さあ開演の時間よ」
そう言って親指を立てウインクする。
俺とミキはうなずいてから緞帳に向かって歩きだした。