お世話になります。ハカセ
狭い世界を叩き割った彼女は
ステッキとシルクハット、白衣の上からチョッキを羽織った姿の奇妙な格好の女性だった
私とあなたは尋ねる「君の名前を教えてよ」と
「博士、ですか?」
検体エックスと呼ばれた、呼ばれていた彼女はキョトンととぼけた顔で二人を見ている
「名前は?」
おい!私のが先だぞ!という彼女の主人の声もメイド長は届かないようだ
「あの、ボクを掃除してくださって、ん、んムっちゅっ」
強く抱き付き、メイド長は息を荒くして音を立てて唇を貪っている
部屋の紫のライトに当てられ
ふたりの美女が絡み合うさまは官能的な色欲美に満ちていた
呆けた博士は再起動
「あー、もう『ミカ』」
「はい、コード10番と術用針金です」
影からミカと呼ばれるメイドの一人が細い糸と標準的な針金を鉄トレーに入れ即座に持ってきた
「髪の毛さわるよー、っと」
博士は夢中になっている彼女の黒い髪の毛をつむじから優しく地毛をかき分けるとスイッチの様な小さな突起物が現れる
それを指先でめくり、『小さく開いた穴』に針金を突き刺し彼女は大きく仰け反ると
「んム~っ!」と声に為らない声を挙げ
それでもまだ行為は続く、博士は気にした様子は無く
「うーむ、ちょっと、君、舌引っ込められたら引っ込めてみて、こいつ、多分。噛み千切る」
「んーむっちゅっぶっずちゅっっ」
「んー、この子自己犠牲が尊い子だなあと」
あくまで首を振る『彼女を特に気に入った博士』はサービスする
「針、動かないように」
四人のメイドが彼女二人を確り抑え
貪られている彼女に首筋と顔に針をチクッっと一瞬だけ刺す
「ああ、これ?麻酔ね。だいじょーぶ、君の舌くらい作ってあげるよ」
博士は互いに激しく動かすメイド長の耳に小さくささやき、そっと手を添えると動作もしなくなり、彼女の額にキスを落とす
「うん。ま、脅すくらいにしておこうかね。災難だけど、すまないね」
「せーの」
思いっきり博士が鋼を手を後ろに引き、差し込む!
「ぎゃガアアアっ!」
「ぴい!」
「痛いよね、痛いよねえ」
柔らかい感覚に手を針金をぐにぐにと回す彼女は何を感じているのか、思わずちょっと愛欲が深すぎるんじゃないの?ご先祖サマと自嘲した
「おとなしく!!」
僅かな震えが伝わる
「よし、ローズ…がんばったねえ!よし、よし!」
手術は終わったのかメイド長、彼女は虚空を見つめたまま動かない
その彼女を鋼を素早く抜くと蓋を戻し、上げていた髪を下ろす。乱れる髪も気にせず荒く髪を撫でる
「あー。あーああむ?」
「うーんと、舌のサンプルは…」
舌から出ている血をメイドの一人に処置され、安堵している博士はメイド長の口を開け
「あらら、のみこんじゃった。後で胃から摘出だねえ」
ガーゼ貸してとメイドの一人にもらうと小型のフラスコに浸し、かき回し
「うーんと、今晩中は待っててね!サンプルをとったから解析に時間取っちゃうけど、増殖はすぐさ!」
これからは怪我したらミンチになっても直ぐに治るからね!と宣う彼女は世界で最も頼もしい存在だろう
「うん悩むな。君の名前教えて?」
あ、ちょっと待ってねと自然に首筋に針を刺すと市販されている様な大型の蓄音機につなげる
『ざザアザザっ、ザアザザザ』
彼女の声の代わりに蓄音機で出力しているようだが、彼女の先程の声音でノイズ音を生み出している。正直不気味だ
「おお、もう神経が掴んだか、コツは首を揺らすように。声帯、肺、声は出さないように。まだ血が出てる。パテ」
メイドたちは驚いて『えっ』と動作がここに来て初めて遅くなった
「もー!私だって『自分の家族』は軽い怪我でも自分で処置くらいしてあげるよ!』
「『この子の家族』なんだよー!それと、正式に『私の本当の名前』を話すのは私室で勘弁してね?」
それで名前名前!
『わ。た。しは私は私は私は。ボ、ボクは『エ・えン』『、ん』『で・・しイヴ』』
博士はグラフとさまざまな計測値を機械が吐き出すシートを眺め、彼女に向き直る
「ふーむ?」
「なんです…これ…コイツ…本当に…人間なの?」
驚く博士とメイド、そこには細胞の分析票が出る筈が彼女の前世からの病歴、家族構成、住んでいた国の情勢、彼女の置かれていた状況、至った経緯
「アハハハハハハハ!『ここまで至った』のは我が家、『我が血統』では『おじいさま』か『初代』のみだよ!」
博士は絶叫し、となりのフラスコを叩き割る。
「つくづく、つっくづく舐めたマネをしやがるなあ!アクマ!」
商売敵に博士は天井にその先の天へと吼えるように叫ぶ
「ああ、我らが神!神よ!認めよう、『コイツ』は『オレ』の『患者』だ!」
「『カンフル』を書いている途中だ、『余計な真似』は止せ」
すると検査結果の紙はサンプル結果の紙へと『変わる』
「Good!いい!それで、いい」
路地裏のヒトだった彼女でも得も知れない恐怖を覚えた、メイドたちは畏怖と敬意をもって彼女たち最大の礼の形を取っていた
「んー、キミの声を聞いた結果、『イヴ』ちゃんだね?」
「それで、『資料』によると西暦以前の『エデン』に暮らしていた」
「『転生』以前は先進国に位置している国に暮らしていて、生まれた時から監禁、暴力を振るわれていた」
「現に襲われた時の君の対応は手慣れていたね」
「精神疾患に病歴は無し、怪我はしょっちゅう」
「無理やり…ああ、最期は首を絞められて…」
資料の内容を再認識し、博士は『イヴ』の頭を撫でて優しく
「つらかったね」
それだけでイヴはポロポロと涙を流しついには大きく泣き出してしまった
静かになるまで博士は抱きしめて慰めていた
「やっと眠ったか」
「ガヴ、レイラ、朝まで頼んだぞ」
着替えを済ませていた博士は『各々の行動』を『指示』した後で自らも行動を執ることとした
ボンネット式の四座席車に後部の自身の隣にバッグと助手席と運転手に『娘たち』と共に乗り込み
雨の中走り出した。
「カム、テストだ彼女の症例は?」
「不感症でしょうか」
「正確性を欠けるがまああいい『生前』のは『ストレス性』だな彼女の『常識の世界』だったのだから」
「突然屋内の行為から日の下に曝け出され…注目され、再び闇の底へでしたか」
「あーあ、私は『男』と『炎』だけは苦手なんだ」
「嫌いなものはたくさん…でしたか?」
「うん!『正義感』も追加だね!『人類は好き』だけど!」
「嵐か、水は良い…」
嵐に見舞われた博士の住む田舎にある屋敷の下町は静まり返り
「三番街から入ります」
「どうぞ」
先行していたメイドの一人がゲートの傍に建っている小屋のレバーを操作する
音を立てて引いた大きなレバーは
町の外にある鉄製のゲートは唐突に落した雷を受け透明な霧となり
「発車します…」
ゲートの霧を潜ると其処はこの国の首都の爆撃された跡の瓦礫の街並みだった
「随分揺れるな。しかし、彼の造ったサスペンションは中々性能が良い」
「ああ、あそこのパーラーも…」
はあ、とため息をつく執事姿に着替えた助手席の彼女はお気に入りのお菓子が当分食べられなくなりそうで
「軍司令部まであと十分です。もうそろそろご支度を、しっかり頼んだぞ、フェウ」
「はい、お任せを」
なんだか頼りない彼女は
「ガスマスク…杖…ハット…」
到着したようだ、しっかりと顕在している軍司令部は重度の固い守りに耐えきったようだ
「失礼します、確認を!」
「どうぞ!」
数度のバリケードを越え最後の検問を通り
「ワン、トゥ!」
「敬礼!」
並んだ兵士達を敬礼を返し案内のまま屋内へ
「閣下は一ヶ月…でしたか?ここも変わりました」
「ああ、それくらいだな。彼らは?」
「地下会議室に既に」
「…どうも」
地下へエレベーターをかなり深く竪穴を降り
降りたらトンネルの壁に偽装してある壁を憲兵に確認し入室した
そこは
長円卓に様々な『化け物』たちが揃っていた
「よう、『化け物』」
「よう、『駄々っ子』」
相容れない、憎むべき敵とライバル、同時に友であるアイツは
睨み合い相対した
「睨みあっては話が進まん…」
「おい『奥さん』いつもの」
「はー、動物用の鎮静剤ね」