夏祭りで気が付けたことー会えてよかったー
高校二年生の年、私は友達と地元の夏祭りにきていた。
その友達、鈴は高校に入ってからできたともだちで、この夏祭りには来たことがなかったらしい。どんなものかなと、興奮していた。私も私でちっちゃい時からやっている夏祭りを、毎年楽しみにしていた。夏祭りは始まる2時間前に鈴と待ち合わせして、浴衣を着つけてもらった。地元の美大生が無料でやってくれるのだ。自分一人では浴衣が切れない私はそれも毎年お世話になっていた。
浴衣を着つけてもらうと私は鈴と二人で花火が始まるまで屋台がたくさんあるところを歩く。暑かったので、鈴と一緒にかき氷を食べた気がする。私はイチゴ味の練乳がけ。鈴はたしか、ブルーハワイだった。
二人で、そんな甘いものよく食べるね、とかそっちなんて添加物の塊じゃない、とかわいわい言いながらたのしく食べ歩いていた。
「っ。ごめんなさい」
自分たちの世界に入っていたようで、周りがよく見えていなかった私は誰かにぶつかりかけてしまったようだ。慌ててあやまりながら相手のほうにかき氷が付いていないか確認する。無事だったのを確認してから、もう一度謝ろうと相手を見た。
「あっ」
樹だった。私の小さい時からの幼馴染。………そして中学生の時少しだけ付き合っていた相手。別れた後からだんだん疎遠になって、あったのは中学校の卒業式以来だ。
「ひさしぶ「あー!ちはじゃん!久しぶり―」
久しぶりと言いかけて遮られた。よく見知った声に樹の隣にいる人を見ると、葵が樹の隣でかわいらしい浴衣を着て立っていた。
「あ!あお、久しぶり」
葵と、私と樹の3人は幼馴染だった、幼稚園からの。小さい時からいつも一緒にいた。私は、中学生の時に樹とわかれてから二人となんだか居づらくなって疎遠になってしまったけど。
「久しぶり、せん」
久しぶりの再会にもかかわらず、なんて言えばいいのか悩んでいると樹が話しかけてきた。せん、樹が昔から私を呼ぶあだ名。樹だけ、私をそう呼ぶ。それを聞いたのも三年ぶりだった。
「ひさしぶり、いっちゃん」
懐かしさで一杯になりながら私もあだ名で呼んだ。こうしてあだ名で呼び合うのも久しぶりで少し恥ずかしい。
「げんきだった?」
二人を改めてみてみると、お揃いらしき浴衣姿だった。二人は確か同じ高校に入っていたし、部活も同じだったはずだ(聞かなくてもお母さんから情報が入ってくる)。二人だけで来ているのだろうか。そんな雰囲気を醸し出している。
「うん!」「まあまあ」
あおといっちゃんがそれぞれ答える。二人とも楽しそうだ。
「せんは?」
いっちゃんが聞き返してきた。
「……うん。楽しいよ。女子校って気を使わなくて楽だしね」
私は高校から女子校に通っていた。伝統的な女子校でいまだに昭和の空気がするような学校。今日、一緒にきている鈴も同じ部活の子だった。
なんも返答してこないいっちゃんを見てみると、複雑な顔をしていた。なんでだろう?
「なら、よかったね」
それだけ言うと、笑顔を作ってにこりと微笑んだ。でた、いっちゃんの愛想笑い。なぜ、そんな顔をするんだろう。変なこと言ったかな?
「ねぇねぇ、ちは。今度また遊ぼうよ~。3人で。昔みたいにさ!」
お祭りで興奮しているのかいつもより(3年前より)テンションの高いあおが話しかけてくる。いっちゃんの異変には気が付いていないみたいだ。私も気が付かないふりをしてあおの質問に答えた。
「……うん」
いやだ、とは言いづらい。いっちゃんとあおと三人なんてきまずそうだから。会いたくないわけじゃない。久しぶりに会って懐かしいし、二人のこと嫌いじゃないから。
「ねぇ、二人は付き合っているの?」
話題をそらそうとして言ったが、言わなきゃよかったかも。いっちゃんが居心地悪そうな顔をしている。
「うん!」「……うん」
うれしそうに言ったのが、あお。少しためらってから言ったのがいっちゃん。
「そうなんだ。よかったね」
自分から聞いたくせに、少しショックだった。なぜだかわからない。だけど、この場所から離れたかった。いっちゃんは私の反応に怪訝な顔をしている。何も言わないけど。そんないっちゃんの顔も見たくなくてうつむいた。
そんな私のことが分かったのか、ずっと隣にいたまま黙って聞いてきた鈴が急に助け舟を出してくれた。
「千春。そろそろ花火始まっちゃうよ。私、焼きそばも食べたいし。そろそろ行かない?」
ありがたかった。私は勢いよくうなずきたかったが、少し押さえてうん、と頷いて逃げるように二人の前から去った。後ろから、あおが連絡するね~、と言っている。いっちゃんがどんな顔をしていたかはわからない。
「ありがとう」
花火を見る場所で焼きそばを食べている鈴に向かって言った。あれから、あおといっちゃんたちから逃げた後、何にも言わず、くだらない話をしてくれていた。
「なんのこと?」
鈴は私に少しだけ顔を向けて、ぶっきらぼうに一言言った後、何もなかったようにやきそばを食べた。その態度が、とてもうれしかった。詳しいことは何も聞いてこない。今はまだ、話したくなかった私の気持ちを分かってくれているのだろう。
会うかも、って思わなかったわけじゃない。でもそれは毎年思っていて、会わなかったから、今年も多分会わないんだろうなぁと思っていた。なぜ今頃会ってしまったのだろう。もう、とっくに、忘れたって思っていたはずなのに。いっちゃんとあったら、いっちゃんとあおが仲好さそうにしているのを見たら、悲しくなっているの自分がいるのに。少し嫉妬もしているのに。
でも、もう遅い。
あの時、告白してきてくれたいっちゃんを少しだけ付き合って振ったのは私だ。付き合う、という意味がよくわからなかったあの時。今ならわかるのに。さっきいっちゃんに会った時、なんであんな顔をしたのかもわからない。でも、タイミングが合わなかったことだけはわかる。本当に、なんで私は今年になって、あれから3年もたっていっちゃんに会っちゃったんだろう。なんで、今頃、いっちゃんが好きだったって気が付いてしまったんだろう?まだ、好きだって気が付いてしまったんだろう?
もう仲の良かった幼馴染には、戻れない。私が壊してしまった。それは、いっちゃんとあおが付き合っていたとか関係なくて。いっちゃんの告白に「はい」と返事した私が、いっちゃんの想いに応えられなかったから。いっちゃんは悪くない。悪いのは、宝物を壊してしまったのは、私だった。
あの時、いっちゃんと別れた時、そんな風に一人で自己完結して。それではいけなかったのに。
あの時は、いっちゃんとあおがどんな反応をするのか。私を許してくれるのかがすごく怖くて、二人から逃げてしまった。
逃げっていう事さえも自分自身で違うように言い聞かせて。
でも、もう逃げない。
周りの人から見たら大げさな、っていうかもしれない。だけど、今日、いっちゃんとあおとすれ違っただけだけど、もういっちゃんと元に戻れなくても、せめて、今更でもいいから、仲の良かった幼馴染に戻りたいって思った。だって、あのころは三人でいつまでもいるって信じて疑わなくて、三人でいれば何でもできるって心の底から思っていた。もうずっと忘れていた考えないようにしていた。
だけど、三年ぶりにあおといっちゃんに会って、話して、そう思うのだ。前と同じようには戻れないだろう。いっちゃんのことは好き。あおに嫉妬もしている。二人のことを、笑顔でおめでとうとも言えないかもしれない。
それでも、いいのだ。
それでも、私はまたあおといっちゃんとあのころの幼馴染に少しだけでも近づきたい。たくさんすれちがっていたけど、三年ぶりに会ってそう思った。連絡、とってみよう。
「ねぇ、千春」
焼きそばを食べ終わったらしい鈴が唐突に話しかけてきた。
どうしたの、という意味を込めて鈴を見ると、私の手元を見た。
「かき氷。溶けてるよ」
急いで手元を見ると、もうほとんど液体みたいになっていた。そりゃそうだろう。いろいろ考えていて、手には持っていたものの今の今まで忘れていた。
「いけないっ」
そう言って急いでかき氷もどきのイチゴ練乳フラッペチーノをかきこんだ。気のせいかな、さっき食べていた時よりも、甘く感じる。心の底にたまっていたものが解消したからだろうか。一気に胃が冷えたようですこし、胸がきゅんとした。
「あっ。花火始まったね!!」
「あ、ほんとだ。きれいねぇ」
花火が始まって二人ではしゃぎながら見た。花火をずっと見ている鈴をチラ見してありがとう、って心の中で言う。
鈴は私が高校に入学した時からずっと一緒にいてくれた。あのころは、今思い出してみると相当すさんでいてあつかいにくかっただろう。それでも、ずっと私のそばにいてくれた。鈴と出会っていなかったら、私は今日夏祭りでいっちゃんやあおとあってもきまづいだけでなにもおもわなかっただろう。ましてや、仲を戻したい、なんて絶対に思わなかった。思うことを認めなかった。
何も言わない。何も聞かない。
でも、私を気遣ってくれているのは態度でわかる。ぶっきたぼうで、思いやりのある鈴。ほんとうに、友達になってくれて、高校で私を見つけてくれてありがとう。いっちゃんとあおの話をしたら聞いてくれるかな?
「あんた何見てんの」
そう思いながら空を見ていると、鈴が呆れた声で言ってきた。
「えっ!花火だけど?」
「頭大丈夫?花火、もう終わっているんだけど」
「マジでっ!?」
「ほんとに頭大丈夫?千春、いまからでも急患で病院に行く?私着き添ってあげるよ」
「うっさい!優しそうなセリフを馬鹿にしたようにに言うな!」
「優しそうにいってますけど?千春、心根がまがってるんじゃない?」
「あんたにだけは言われたくなーい!!!」
こうして、私の、高校二年生の夏祭りが過ぎていった。いままでより、自分に素直になれて、友達のありがたさを分かった日。
いつまでも、私の大切な日だ。
よんでくださり、ありがとうございました。
誤字・脱字等ありましたら、おしえてください。
このお話のあらすじが思いつきません(>_<)
このお話のあらすじを考えて、教えてくださる方がいましたらうれしいです。
よろしい句お願いいたします。