妹姫
兄妹は走る。
暗い森を走る。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
私は今、兄に手を引かれ濃い紺色に沈む森を犬の様に走っている。
足の裏は色々な物を踏んでもの凄く痛い。
「はぁ、はぁ、あと少しだ頑張れ!」
返事をする余裕が私にはなかった。兄も返事は求めていないかった。きっと、兄自身にも放った激励なのだろう。
兄は木に体を預け休憩をとった。私も兄に習い息を整えながら、私達の有様を見た。
汗に塗れ、土で汚れ、枝で破れた、私と兄の服はボロボロだった。でも、そんな事には気を留めていられなかった。息が整うと、今度は物音を出さないようにゆっくりと、猫の様に歩き始めた。
思えば今日は散々な一日だ。
親に捨てられ、魔女に目を付けられ、今は恐怖の真っ只中だ。それまでの生活はまだマシだった。屋根があり、食事があり、恐怖は少ししか無かった。
そもそも、母が悪いのだ!私達は何も悪い事はしていないはずだ。なぜ、こんな目に……
「ふせろ」
兄の小さな声で私は頭の中から森に引き戻された。
「出ておいで。甘いお菓子をあげよう。可哀想に。お腹が減っているんじゃないのかい?」
魔女だ!
ただ、息を殺して、離れてくれるのを待つ。思わず、両手で兄の手を握ってしまう。
私の呼吸する音でさえ……うるさい。
私達は森の中で甘い匂いを放つ、森には似つかわしくない可愛い家を見つけた。まともな食事は摂っていなかったので、花に誘われる蝶々の様に近づいてしまった。そこには母と同じ位の年齢に見える魔女がいた。今日、一番の不幸だ。
握っている手から、どちらかの震えが伝わってくる。
魔女が近づいてきた!
気づかれているのか?ばれてしまったのか?
兄は動かない。動けない?
とりあえず、兄に習って動かないでいる。今まで、兄が選択を間違った事はない。
なにも考えられない。思い起こせない。
「あ゛ーー」
汚い声が鼓膜を突つく。兄ではない。大柄な男が魔女を押し倒した。
「早く、行け!」
また汚い声が鼓膜を突つく。兄は私の手を引っ張った。私は急に腕を引かれ、転びそうになりながらも、また走りだした。正直とっくに足はクタクタだったが我儘を言ってられる状況ではない。
暫く、走ると森を抜けた。遠くの方だが街も見えた。森を抜ければ魔女は追って来ない。太陽もほとんど顔を見せている。
後ろの森からは、何かが焼ける様な不快な匂いが追ってきた。
私達にはお父さんがいた。母とよく喧嘩をしていて家にはあまりいなかった。
私は家が嫌いだった。何もかもが煩い母と、何もかもが汚いお父さん。毎日、こき使われていた。食事と部屋には感謝していた。でも良く考えて見たら、当然だと思う。家事も畑仕事もしていたからだ。兄は好きだった。いつも私に優しくして、母とお父さんから守ってくれていた。
私達は街に着いた。もし、絵本だったらこんな文で締められるのだろう。
「街についた兄妹はいつまでも仲良く2人で暮らしましたとさ。」
ジャンルを何にしたらいいのか分からなかったです(´・Д・)」