~序文~
「大災害」。
それは、ある者にとっては変わりなき日常からの救いであり、ある者にとっては突然の災難であり。あるいはもしかしたら、一部の人間だけに訪れた新しい可能性へのチャンスだったのかもしれない。不意打ちのその出来事は、数多くの人間を現実世界から<エルダー・テイル>へと導いた。
「あ......え?ここどこ」
狐耳と尾を頼りなさげにゆらゆらと揺らす少女は、手にした白銀の槍を握りしめて今にも泣きそうで。耳元で唐突に鳴り響いたコール音にピクリと怯えたように肩を震わせた。
「...なるほど。<エルダー・テイル>に飛ばされたわけだ」
脇差の刀の柄に手を添えた青年は、冷静に現状を把握すると脳裏に浮かんだメニュー画面からフレンドリストを開く。ほとんど無意識に行われたその行動は、彼が護らなければいけない大切な一人のためのものだった。
「え、マジかよ。こっちのキャラでオレ飛ばされちゃったわけ」
自分の体を見回して、元の世界とは違う性別の体であることに衝撃を受けた豊かな金髪の女性が一人。自分の両胸に手を当てて、3次元の頃にはなかった二つのふくらみがあることに茫然としていた。
「モッツァレラチーズ......モッツァレラチーズ!!!!」
茫然とモッツァレラチーズとつ呟く男性もまた、この世界の片隅に降り立っていた。