自己紹介でのデジャブ
「ジュリ、そろそろ時間だから扉の前まで・・・」
父がそう言って、私の手を引く。
私は父に引きずられるように、扉の前へと足を進めた。
他人に会うのはやはり、嫌だが、先程母から言われたご褒美を思い出す。
 ̄ ̄ ̄10分ほど前 ̄ ̄ ̄
嫌だと駄々をこねる私に、母はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、私の耳元で囁いた。
「今日、頑張れたら・・・ゼルバの一週間をあげるわよ?」
「がんばりゅっ!!」
それは即答でした。
長男は、今年から騎士学校に通いはじめ、三ヶ月に二、三回くらいしか帰ってこれないのだ。
因みに私は家族のなかで一番、長男が大好きだ。長男の為なら別にブラコンと言われても、恥ずかしがらずにブラコンですっ!!と、公言できる。
だから、そんな長男と一週間過ごせるというのなら、他人と少し会うぐらいなんともない。
・・・のだが、いよいよ扉を開けるまであと三分になると、逃げ出したい衝動に襲われる。
いや、でも長男との一週間が私を待っている。
父は、百面相している私を見て、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
あ、ちょ、父さま。止めて。首ががっくんがっくんして気持ち悪く・・・おぇっ!!と吐きそうになる前に、父は手を止めて微笑んだ。
その微笑みは、とても色気のあるもので一体、この笑みでいくらの紳士淑女をタラシ込んだのだろうか。
「ゼルバが中で待ってるよ?挨拶し終わったら、すぐにゼルバのところに行って良いから。ミラには、僕から言っておくよ。だから頑張ろう?ジュリ」
「とぉちゃま・・・」
ヤバイ。父、どんだけいい人なの。今まで、ヘタレヘタレって、兄弟たちで貶してごめん・・・!!
よし。私、行くよ。父。なんたって、長男が私を待っている!!
いよいよ扉が開かれ、中へと歩を進めると眩しい光に包まれる。
そこで待っていたのは、お爺ちゃんと呼べる年齢から私より少しだけ年上の様々な老若男女だった。
やはりコミュ障なせいか、手が震える。
父の挨拶の言葉が何処か遠くに聞こえた。
だが、いつのまにか終わっていたらしく、父に背中を押される。
すると今まで、父に向かっていた視線が私に向く。
その見定めるかのような視線に、思わず足がすくむが下半身に力を込め、ゆっくりと息を吸った。
「だるてしゅけがよんにゃん、じゅりあしゅ・えど・だるてしゅでしゅ。こよいはどうじょ、おたのちみくだしゃい」
口から出たのは、緊張感をぶち壊す舌足らずな言葉だった。
まわりを見渡せば、殆どの人が掌で顔を覆い肩を震わせるか、口の端をピクピクとさせていた。
あれ?なんかデジャブ。
そして、いつの間に居たのか、長男と目が合った。
長男は、此方に生温い笑みを浮かべると口でなにかを言っていた。
ええっと?なになに・・・
『か』
『わ』
『い』
『い』
『じ』
『こ』
『し』
『ょ』
『う』
『か』
『い』
『だ』
『っ』
『た』
『ぜ』
へ?『可愛い自己紹介だったぜ』?
言葉を理解すると、顔に熱が集まるのがわかった。
長男の言葉に追い打ちをかけるかのように、誰かが呟いた。
「・・・舌足らず、可愛い」
と。
う、うわああぁぁぁぁぁあああっ!!!やっぱり出るんじゃなかった・・・!
ぜ、ぜっっったいこの舌足らずな言葉を直してやるぅぅぅうう!!!
どこかの幼児の心の声は、とても必死たるものだった。
いつのまにか、総合ポイントが百を越えていましたっ!!
皆さんが読んでくださり、とても嬉しいです。
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