母は強し
何故か、屋敷のなかは朝から騒がしかった。
メイドと執事は、廊下をいったりきたり。厨房からは良いにおいが溢れ、屋敷の至るところには花が飾ってある。
母は、上品で綺麗な青いドレスを着ており、黒髪と合っていてとても美しい。
姉たちも、舞踏会に行く時の姿が想像出来ない程、それぞれに合ったドレスを着ている。しかも、化粧も控えめなのだっ!!
あと、私自身も母たちに着飾らせられている。
「ジュリの紅い髪には、この朱色の衣装が合うわよ?」
「お母様、確かにそちらもよろしいですが、ジュリの青い目にはこちらの衣装も合うと思うの!!」
「・・・違う。ジュリにはこっちの衣装の方が似合う・・・」
「全て駄目なのっ!此処は、黒の方が似合うのっ!!」
どの衣装が似合うか、母と姉たちに小一時間程着せ替え人形させられてた。
それで、結局いつから参戦したのか、次男が持ってきた衣装に決まった。
次男よ。終わらせてくれて、有り難う・・・!!
感謝の気持ちを込めて、次男に抱きつく。後ろからなんか、非難じみた声が聞こえるが無視だ。無視。
「ありゅ~にぃ、たま!ありあとぅ」
「どうってこと有りませんよ。ただジュリに着てほしい衣装を持ってきただけですから」
アリュ兄さま!ありがとう!と言おうとしても、口から出るのは舌足らずな言葉。後ろでは、母と姉たちが手で口元を覆って、肩が震えている。
その姿を見て、顔が熱くなる。
わ、笑いたければ、笑えよっ!!?逆に、笑うのを我慢される方がいたまれないわっ!!
そして、次男よ。お前、爽やかに言ったつもりでも、口の端がピクピク動いているのもわかってんだからな?
でも何故、今日はこんなに皆ウキウキしているのだろうか?
疑問に思った事を、口にすれば・・・
「ジュリ、今日はジュリの一歳の誕生日なのよ」
「・・・たんりょうひ?」
「えぇ、そうよ。誕生日よ。今日は、お客様が沢山お見えになるから、頑張りましょうね。ジュリ」
え?お客さん?お客さんってことは、知らない他人が来る!?
そう答えを導くと、コミュ障な私はのんびりしているハズもなく、その場から駆け出した。
つまり、逃げ出した。
「あ!ジュリ!?」
「ジュリ、どこに行くの!?」
後ろから、声が聞こえたがそれでも一歳児の小さな足で走る。
途中で、メイドさんや執事たちが「ジュリ坊ちゃまこちらです」と、逃げる手伝いをしてくれて、とても助かった。
そして、とある扉まで走り、乱れた呼吸を治す。
カツンッ
「あら、ジュリお帰りなさい」
私の後ろから、母がヒールを鳴らして立っていた。
思わず、逃げなきゃ!と思うが、一歳児の体力。もう、たかが知れてる。
すぐに、父に捕獲された。
「まさか、本当にミラの言ったとおりになるとは」
「この子が、人見知りなのは流石に判るわよ。あなた」
上から、父、母の順だ。あ、因みに、ミラというのは母の事です。はい。
現実逃避をしていたら、母がにっこり笑って、「さぁ、行くわよ?ジュリ」と無情にも言った。
「いやぁぁぁぁぁあああぁだぁあああ!!!」
悲鳴が、部屋の中に響き渡る。
判ったことは1つ。我が家の母は怖い。
因みに、メイドさんや執事たちはミラさん(母)に言われたとおりに、ジュリをあの部屋まで誘導しました。つまり、ジュリはミラさんの掌で転がされていたのです。
それと誕生日会をする前に、この家の人物紹介にします。