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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
バブルフラワー編
7/27

カスミソウ。



俺は…ー あの人に救われた。


生まれて5年で、俺はこの世界に絶望した。

俺は1人だ。

俺は孤独だ。

そう思ってた。だけど、違った。

太陽のように温かいあの手は、俺の世界を180度変えた。

真っ暗な世界を、照らしてくれた ー 。



「ベッドタウンに来るの、なんか久しぶりだね!お姉ちゃん!」

ケイジ 7歳。

「そうね!ケイジ! よおし!今日こそは一つ目ウサギ、ゲットしてやるんだから!」

真由美 17歳。

枝は葉をつけず、冷たい風にさらされている。

2人は、ベッドタウンのはずれにある村から今日、遊びにきていた。街は寒さに負けじと活気で溢れていた。

「そう言ってお姉ちゃん、この前大負けしたじゃん。」

ケイジがからかうように言った。

「ちょっ! あれは運が悪かったのよ!運が!」

ふーん、と横目で見るケイジも、なんだか楽しそうだ。

仲の良い姉弟は、ベッドタウンの人混みへと走りだした。


「結局、今日も負けちゃったね。」

ケイジは笑いながら言った。

「くう〜! あそこで表を選んでおけばあ〜!!」

真由美は悔しがりながら笑った。

「でもまあ、楽しかったからいいわ!」

「そうだね」

2人は家へ向かっていた。

街は夕陽で赤く染まり、店々を照らした。

帰り始めて10分ほどたった頃だった。真由美は向かいの店の横で座り込む、白髪の少年を見つけた。

「あの子…迷子かな?」

真由美は、ピクリとも動かない小さな身体から、確かな負の感情を感じ取った。

真由美は顔をうずめる少年に近づいた。よく見ると、少年は震えていた。白くてボロボロのシャツ1枚しか着ていなかったのだ。真由美は意を決して話しかけた。

「えっと…君は…迷子かな?」

話しかけられた少年はピクリと反応した。

そしてゆっくりと顔をあげ、相手が見えるところで止めた。上目遣いのせいか、すごく目つきが悪く見える。

「…だ…れ……」

かすれたような声で少年は言った。目は暗く、沈んでいる。

「あ!えっと、私は真由美よ!んで、こいつはケイジ! あなたは?」

自分から話しかけたのに、思わず言葉が詰まる。空回りしてしまう自分を真由美は申し訳なく思った。

「…知らない。 僕…1人だから…。ずっと…1人…。」

そう言って再び顔をうずめた。

この子…

真由美は少年から目をそらした。

そして、自分を奮い立たせるように腰に手を当てた。

真由美はある決意をした。

「ケイジ、喜びなさい。今日から家族が1人増えるわよ!」

ケイジはその言葉に驚きの表情を隠せなかった。

「え!? お姉ちゃん、まさか…」

「この子は…、私が育てる!」


…あったかい。

…おいしい。

「どう?おいしい?」

真由美は尋ねた。

「…うん。」

「良かった! おかわりあるからね! 遠慮しないでね!」

辺りを見回した。

花がたくさんある。あの時、この女の人に連れられて来たこの家。 ここは、どこなんだろうか。

また…殴られるのだろうか。

コンソメ味のスープを飲み干すと、少年は音を立てずに歩き出した。

逃げなきゃ。はやく。殴られる前に。

ケイジは、白髪の少年が消えたことに気がついた。

「お姉ちゃん!あいつが、いないよ!」

「え!?」

真由美は外に飛び出した。寒さで無意識に首をすくめる。その生理現象のような行為に抵抗するかのように、真由美は首を左右に振った。少年を探すためだ。その時、フラフラと蛇行しながら歩く少年が目に入った。

白髪の少年がどこかへ行こうとしていた。

「待って!」

背後からの声に、少年はビクリとして、走り出した。

「待ってよ!」

少年には、すぐに追いついた。そもそも、走れるような体じゃない。足は細くて、今にも折れそうだ。

真由美は少年の肩をつかんだ。

「何で逃げるの!? 君、まともにご飯も食べてないでしょ!?」

真由美はそう言って少年の肩を揺らした。

しかし、少年の反応は意外なものだった。

「ごめんなさい…!…ごめんなさい!ご…ごめんなさい…!」

少年は目をつぶってうずくまる。

その光景に、真由美はあぜんとした。

この子は…

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!…」

どれだけ辛い思いをすれば…!

真由美は、少年を抱きしめた。

「謝らなくていいの!」

真由美の頬を大量の涙がつたう。

少年は体の力が抜け、目を泳がせた。

「誰も…あなたを傷つけないわ! もう…怯えなくていいの!」

少年の目から、戸惑いの涙が溢れる。

「…あ……あ…」

「もう…逃げなくていいの…!」



「…それから、僕たちは3人で過ごしました。」

ケイジは言った。

「最初は、かけるくんは元気が無かったですけど、だんだん姉さんの明るさに心を開くようになっていったんです。」

「…」

真面目な表情で話を聞くココとマリを視界の端におきながら、ケイジは続けた。

「そんな何気ない毎日が、変わりない毎日が、僕たちは幸せでした。 」



「あー!もー! また負けたー!」

真由美は手にいっぱいたまったトランプカードを宙にばらまいた。

「これで俺の30連勝だよ、真由美さん。」

かけるはうんざりしたように言った。

「ちなみに、大富豪の他にもババ抜き、神経衰弱、7並べ、将棋、チェス、囲碁… 全部俺の圧勝だよ…?」

「うっ… だってえ…」

「そろそろ諦めて、…花屋の仕事、あるんじゃないの?」

ぎくり、と真由美は目を泳がせた。

真由美は諦めたように立ち上がり、花の手入れを始めた。慣れた手つきで花を整えるその仕草は、どこか儚く、それでいて優雅だった。

「ねえ…、かけるはどんな花が好き?」

真由美は花に目を向けたまま尋ねた。

「えっ?」

ふいをつかれたように、かけるは頬をかいた。

「いや…俺…花は詳しくないし…」

「…そっか。」

戸惑うかけるを見て、真由美は優しく微笑んだ。

「私はね、カスミソウが好きなの。」

「…へえ…」

かけるは、その花を知っていた。真由美の家は花屋で、たくさんの種類の花が置いてあった。真由美の親はかけるが来た時からいなかったため、かけるはいつも真由美が1人で花屋を経営している姿を見ていた。

「なんで、カスミソウなの? もっときれいなやついっぱいあるじゃん。」

そう言うと思った、と真由美は笑った。

「確かにカスミソウは綺麗とは言えないし、脇役として他の花に添えるのが普通よ。 でもね、私は、この花が好きなの。」

真由美は手を動かすのを止めた。そして、ゆっくりと振り返る。真由美のにおいなのか、周りの花のにおいなのか…

とても、いいにおいがした。

「あなたにもいつか、解る日が来るわ。」

その笑みは、美しくて、輝いていて、それでいて、遠かった。


「か!かけるくん!!」

早朝に荒々しく扉を開けたのは、ケイジだった。

「なんだ…こんな朝早く…」

目をこすりながらかけるは上体を起こす。寒さで身ぶるいをした。

「姉さんが…!姉さんが…!」

ケイジの顔を見て、ただ事ではないと瞬時に理解した。反射のようにベッドから飛び出す。

花々が並ぶ店頭に走った。

真冬の寒さが肌に刺さる。

嫌な予感なんて、している暇はなく ー

横たわった真由美の姿が、かけるの目に飛び込んだ。

この日、かけるは生まれて15年目を迎えた。


原因不明の不治の病 ー

確かそんなことを言っていた気がする。

真由美の意思で、入院はしないことになった。

真由美の部屋のカーテンが、冷たい風で揺れた。

「ねえかけるくん…僕たち…これからどうすれば…」

ケイジが下を向きながら、弱々しい声で言った。

「このままだったら、本当に姉さんが…!」

真由美は穏やかな顔で寝息をたてている。

かけるは窓を閉めた。

そしてそのまま座ることなく、ドアの方へと向かった。

「ケイジ…真由美さん…頼んでいいか?」

その言葉に込められた想いは、あまりに多すぎて読み取るのが困難だった。

「えっ…かけ…るくん…?」

振り返ったときには、もうそこにかけるの姿は無かった。

どうし…て…?


ごめん。ケイジ。

ごめん。真由美さん。

俺、解りそうにないよ。カスミソウのこと。

ケイジみたいに優しくなんて、

真由美さんみたいに温かくなんて。


ー 2人は俺を、助けてくれた。

だから、次は俺が助けなきゃ。

誰が不幸になろうが、関係ない。

地獄に堕ちようが、関係ない。

たとえそれが俺だとしても ー


守れるならば、それでいい。



今から2年前、数多のプレイヤーと店を潰した、1人の少年が現れた。

白髪に無地の白Tシャツ、左手には高確率で甘いものを握る…

人々は憎悪と嫌忌を込めて彼をこう呼んだ。


ペテン師かける ーと。






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