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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
バブルフラワー編
5/27

夜空に咲かせ大輪の華



ーー打ち上げ花火でSOSなんて、普通はあり得ない。よっぽどのバカか、そうとう切羽詰まってるかだ。

その予想があたることはなかった。


だって、ただの遊びなんだから。



ギイ、と重い扉を開けると、中には既に人がいた。

1、2、3…6人。俺たちも合わせて9人か。おそらくこいつらもSOSに気付いてここに来たんだろう。

そして辺りには、なにやら怪しげな機械のようなものが設置され、不気味な光を放っている。

ここは…花火の製造所か…?

かけるは考えを巡らせながら注意深く辺りを見回す。

かけるの後ろからおそるおそる入ってきたココとマリも、今までの祭りの雰囲気とは違うことを感じ取り、黙っていた。

「お前らもSOSに気付いたのか?」

そう尋ねたのは体格のいい、少し日焼けした男性だった。

「そうだが。」

かけるがそう答えると、男はニカっと白い歯をのぞかせて言った。

「ハハ、まさかお前らみたいなガキが気付くとはな!たいしたもんだ! 俺は五里羅!よろしくな!」

「…どうも。」

とかけるは軽く会釈しながら、後ろを見た。

ココは笑いをこらえながら、今にも口を開きそうだった。

かけるの背中に、冷たい汗がにじむ。

…頼むから、それだけは口にするなよ…ここでのトラブルは避けたいんだ…

しかし、かけるの思いは届かなかった。

「アハハ!ゴリラさん?変ななま…」

「あーーーー!!!」

かけるはそう叫ぶと、ココの口を手で覆った。

そして、剣幕な表情で小声でココに言った。

「バカやろう!入場して早々ケンカ売ってどうすんだ!相手は自己紹介しただけだぞ!もっとよく考えて発言しろ!」

ココは少し反省した様子で、下を向いた。

かけるはそれを見て、安堵のため息をもらした。

しかし、かけるは気付いていなかった。10歳ほどの幼子はどんな子でも世間知らずだということを。

「ゴリラ。変な名前!」

マリはそう言って笑った。

かけるは驚愕した。

マリ…!お前もかー!

その言葉を聞いた五里羅は、また白い歯を見せた。

「ハハ、よく言われるよ、君の名前はなんだい?」

「マリ! この人 ココちゃん! この人 かける!」

マリは指を指しながら名前を連ねた。

ふーう、よかった…

かけるは五里羅の反応に安堵した。

すると、五里羅のおかげか、今まで黙っていた他の5人も自己紹介を始めた。

5人の中で最初に口を開いたのはショートヘアの女性だった。年齢は20代後半あたりに見える。

「私はラッパよ。落ちるに葉っぱで落葉。」

「お…俺はパンツ!斑模様に津波で斑津だ!」

痩せ型の男も落葉に続くように言った。

それからも順に自己紹介は続き、かけるは全員の名前を一応把握した。

五里羅、落葉、斑津、詰木、樹常、猫…か。 この街はどうなってるんだ。一体。

かけるは天を仰いだ。

その後ろで、ココとマリがハイタッチする音が聞こえた。

…まあ無理もない。俺も危うく吹き出すところだったしな。

「それで、どうなってるわけ?SOSに気付いてここに来たのはいいけど、誰もいないじゃない。」

落葉は言った。

「確かに。もともと俺たちはSOSに気付き、誰かを助けるためにきたはずだ。なのになぜ誰もいないんだ?」

樹常は言った。

目を開けているのか開けていないのか区別できない樹常の容姿は、まさに狐のようだった。

「僕…なんかこわくなってきたよ…」

斑津はそう言って、辺りをうろうろしている。

全員が静まり返ったときだった。

「みなさん!ごきげんよう!」

突然暗闇から声が聞こえたかとおもうと、奇妙な機械の中から、若い男が派手に登場した。

その男が登場するのを待っていたかのように、建物の中の機械が騒々しく動き始めた。

全員が硬直する中、五里羅が最初に口を開いた。

「お前は…誰なんだよ?」

男は白衣姿のような格好で、笑いながら言った。

「わたしは…花火師でーす! そして!この店のマスターでもありまっす!」

「花火師…だと!?それに…マスターってどういう…」

すると、落葉が男に尋ねた。

「ちょっと!まちなさいよ、じゃあ、SOSの花火はもしかして…」

「そうでーす!!私がやりましたあ!」

花火師は言った。「ですが、なにも目的が無かった訳ではありません!」

「…じゃあ、なんだってんだ!」

五里羅の口調が強くなる。

「まあまあ。えーゴホン!…皆さんに集まってもらったのは他でもない、ゲームをしてもらうためです!」

「「ゲーム!?」」

「ええ!打ち上げ花火でのSOSを見破った素晴らしい才能の皆さんに、ピッタリのゲームです!」

…さっき自分をマスターと名乗ったのはこういうことか。まさかこういう形でゲームに参加するとはな。

かけるは表情を変えずに花火師、兼マスターである男を見た。

すると、斑津がおそるおそる口を開いた。

「あのー、僕…ゲームにはあまり参加したくないのですが…」

マスターは両手を広げて斑津を見た。

「ご心配なく!というより、あのSOSは本当なのです!私は皆さんに、本当に手伝ってほしいことがあるのです!ですから、人助けだと思ってゲームに参加していただければ嬉しいです!」

「ーんで、なんの手伝いよ?」

落葉が尋ねた。

「はい!それは…花火の打ち上げでございます!皆さんに、残り900発の花火を打ち上げて欲しいのです!」

それを聞いたココが、えっ、と思わず声をあげる。

花火を打ち上げる!?ちょー楽しそうじゃん!!私も今日から花火師に…!

ココは花火師になった自分を想像して、顔をほころばせた。

花火を打ち上げる!?ちょー楽しそうじゃん!!私も今日から花火師に…!

ー なんて思ってるだろうな、こいつは。

かけるはココを見て思った。そして、マスターの方を向いて尋ねた。

「それで、900発の花火を打つ際に、ルールを設け、ゲーム形式にしたってわけだな。マスター。」

「おお!さすがに鋭いですな!あなた! それと、以後私のことはマスターではなく、ヒューマとお呼び下さい。マスターはカッコ悪いですから!」

そうかよ、かけるは目をヒューマからそらした。

では!とヒューマは声をあげる。

「ルールを説明しまっす!」

9人の視線が1箇所に集まる。

「まず、これから皆さんには、1人につき100発の花火を、1発1万円で買い取ってもらい、打ち上げてもらいます!」

会場は少しどよめいたが、すぐに落ち着きを取り戻した。しかし、次のヒューマの発言で一気に会場は盛り上がる。

「そして!花火1発打ち上げにつき、報酬として5万円を差し上げまっす!」

最初に反応したのは五里羅だった。

…おいおいまてよ、最初に100万借金、だが100発打ち上げて500万の報酬…つまり400万の金をもらえるってことか!?

しかし、かけるは表情一つ変えなかった。

…いや、まだだ。そんなうまい話があるわけがない。必ず条件を提示してくる。

警戒していたのはかけるだけではなかった。他の人もまだ食いつきはせず、待った。

ー さすがにSOSに気付く奴らだ。こんな安い手には乗らないな。

かけるはそう思いながら、ふと後ろを見ると、ココが一生懸命計算しているのが目に入った。

「えっと、1万円が100個で、100万円でしょ、でも1個で5万円もらえるから、えっと、えっと…」

かけるは苦笑いした。

…もう頼むから、それ以上お前がバカだということを周りに披露しないでくれ。

ヒューマは、全員の興味をひきつけるかのように間を開けると、再び口を開いた。

「しかぁし!現実そうは甘くありませんよぉ! 花火100発のどこかに1発だけ、閃光弾が装填されていまっす!もし閃光弾を打ち上げれば、花火観衆の皆様に多大な迷惑をかけるため、その謝礼金として、500万円の罰金が課せられまっす!」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」

そう言ったのはショートヘアの女性、落葉だった。

「それじゃあ、私たちは損するじゃない!」

ー100万の借金、495万円の報酬、500万円の罰金。合計105万円の赤字だ。

かけるは素早く頭の中で計算をする。

「まあまあ落ち着いて。ラッパさん。まだ全部話し終わっていないですから。 ゴホン!えー…ですが、皆さんは途中で辞退することも可能です!いつ辞退しても構いません!まあ、花火を買ってもらうのは強制ですが…」

ー つまり、閃光弾を打ち上げないように、できるだけ花火を打ち、辞退する。それがこのゲームの基本ってわけか。

かけるは口に出さずに思った。

…確かに、最初からは外には出られそうもない。出入り口にはいかにもイカツイ黒人のオッさんがいる。

「ですから、好きなだけ打ってもらい、ある程度儲ければ、ご自分の判断で帰ることができるのです! さらに!他人の花火を1発1万円で買い取り、それを打ち上げて5万円の報酬を得ることも可能です!さらにさらに!買い取った花火は、閃光弾か否か分かるように設定されておりますので、安心して打つことができます!」

ヒューマが話し終わると、かけるがためらいもなく質問を始めた。

「もし閃光弾を打っちまったらどうなる?残りの花火は買い取ってもいいのか?」

「いいえ!それは、わたくしが責任をとって打ち上げさせてもらいます!勿体無いですから!」

ヒューマはそう言って笑った。

そのやりとりを小耳にはさみながら、五里羅は黙々と算段を立てていた。

フフフ…このゲーム、なんておいしい話だ。全員警戒してるだろうが、よく考えればそんなに危ないわけでもない。 まず、最初の100万円の赤字をうめるために、最低20発は打たなければならない。まあここで閃光弾にあたることはないだろう。そしてここからがこのゲームのルールを上手く使うポイント!まず、ゲームを警戒している奴らから花火を買い取る。その時に花火が閃光弾か否か分かるわけだから、閃光弾にあたる確率を変えずに花火を打ち上げ、確実に金を稼ぐことができる!

それに気付いたのは五里羅だけではなかった。

ー どうやら、気付いたのは今分かるだけでも俺を含め5人。俺、五里羅、落葉、詰木、樹常だ。

かけるは辺りを見回し、そう推理した。

とりあえずココとマリは分かっていないだろう。そして、斑津はあまりこのゲームには気乗りしていない感じだ。そして猫…。こいつはまず顔があまり見えない。何を考えているのかさっぱりだな。

猫はフードをかぶり、自己紹介の時以外一言も喋らなかったため、かけるは少し警戒した。

「それでは!花火を買い取ってもらいまっす!」

かけるははっとした。

そういえば、300万も手持ち金あったか!?

「ココ、血行刀、売ったよな?」

「うん、あれね、意外に高く売れたんだよ!320万!!すごくない!?」

320万。どうやら足りたみたいだな。

かけるはほっと息をついた。

「でも…これであと20万か…」

肩をおとすココに、かけるは焦った。なにせこのゲームに巻き込まれたのは自分のせいだったからだ。

かけるは慌てて声をかけた。

「だ、大丈夫!300万は必ず取り戻すから!安心しろ!」

ほんとに?と純粋無垢な目で見つめてくるココに、かけるは思わず目をそらす。

ったく、そんな目で見るなよ…。 俺が惨めになるだろうが…

するとマリも口を開いた。

「わたし、貧乏でもいいわ。」

「っっ!」

マリの優しさは、かけるに追い打ちをかけた。


「それでは!皆さん花火を買ったようですので、ゲーム!スタートです!!」

ヒューマは両手を広げて高らかに言った。

かけるは手元にあるボタンを見た。その赤いボタンはちょうど100個ある。

かけるは、そのボタンを見て配布された際のヒューマの言葉を思い出した。

ーこのボタンは!発射ボタンでっす!この中に1発、閃光弾ありますよお!お気をつけて!なお、花火を買い取った際、閃光弾の位置も含めてシャッフルされますので!ではどうぞ!


ゲームが始まって5分、全員なかなか踏み出せないでいた。

ココはその雰囲気は好きではなかった。普段のココなら、誰よりも最初に花火を打ち上げたところだが、先ほどかけるに釘をさされたのだ。

「いいか、お前らは絶対花火は打つな。絶対だぞ。でも、もし買い取りたいと言われたら、売ってもいいからな。」

ココはその言葉を思い出して、ため息をついた。

なーんか私、信用されてないかも…

トホホ、と肩を落とすココ。マリはその表情を黙ったまま見つめていた。


最初に動き出したのは五里羅だった。

五里羅は手元の赤いボタンに恐る恐る指で圧力を加える。ボタンが底まで押されると、奇妙な振動が指に伝わった。

ドーン!!

夜空に紅色の花火が舞うと、ほどなくして散り、闇へと消えた。

続いて4発、花火が打ち上がった。

それらの花火も全て、五里羅が打ち上げたものだった。

五里羅はなるほど、と頷きながら、辺りを見回した。

そして、マリに近づいて、言った。

「ええと、マリちゃん…だよね? 良かったら、花火を10発ほど買わせてくれないかな?」

マリは一瞬かけるを見て、五里羅に返事をした。

「はい、いいです。」

マリの花火は残り90発となった。

すると、モニターに、文字が浮かび上がってきた。そこには妙にカクカクとした文字で、‘閃光弾なし’とかいてあった。

五里羅は花火10発分のボタンを受け取った。

フフッ、これで今度は閃光弾にあたる確率が105分の1に減った。このままいけば、安全に借金を返すことができ、そして儲けをだせる!フフ、こいつらはマヌケだ。このゲームのツボは、この買い取りにある。閃光弾にあたる確率を減らすことができるからだ。これは!買い取りもの勝ちなんだよ!

五里羅のその行動を見て、周りのプレイヤーも慌てるように花火を打ち上げ始めた。


「わあ!きれいな花火!」

子供が無邪気に言うと、その母親も頷いて笑った。

「もう花火終わっちゃったと思ったけど、これからみたいね。」

観衆は夜空を見上げていた。

その花火の下で、ゲームが繰り広げられているとも知らずに。


「ねえかける!私たちも花火打とうよ!」

そう訴えたのはココだった。

しかし、ココの提案にかけるは何も反応を示さなかった。そして、ゆっくりと歩き出した。

かけるの目的は花火の打ち上げではなかった。かけるは、花火の様子を見るために空を見上げる他のプレイヤーたちを素通りした。そして、白衣姿の男の前に立ちはだかった。

「おや、どうかいたしましたか。」

ヒューマは上を見上げたまま、かけるに尋ねた。

かけるはゆっくりと口を開いた。

「…このゲームの、お前の目的はなんだ。」

ヒューマはかけるへと視線を下ろす。

「分かりきったことを!祭りの観客のため、プレイヤーの皆様の利潤のためですよぉ!」

ヒューマが答えると、かけるは表情を変えずに言った。

「ふざけるな。 この詐欺師が。」

ヒューマは少し驚く態度を見せたが、すぐに落ち着き、笑って言った。

「おや、ペテン師に言われるとは思いませんでしたな。」

気づいてやがったのか、この花火師。

ちっ、とかけるは舌打ちをした。

「しかし、さすがはペテン師。 いいでしょう。教えてあげますよ…私の目的を。」

ヒューマは少し声を低くして、口角をあげた。


ココとマリは、次々と打ち上げられる花火を、ただ呆然と見ていた。

「あ〜私も打ち上げたいな〜!」

ココは退屈そうに言った。

「ゴリラさんも、ラッパさんも、ツミキさんも、キツネさんも、楽しそうだなあ〜」

五里羅、落葉、詰木、樹常の4人は、着実に金を稼いでいた。テンポ良く夜空に花火が打ち上がり、会場に音が響く。

4人は、ある程度花火が無くなると、ココ、マリ、斑津、猫から花火を買い取った。今のところ打ち上がった花火、買い取った花火は全て本物で、順調にゲームは進んでいた。

「ちょっとくらいなら、大丈夫じゃない?」

ココがそう言うと、マリが怒ったように言った。

「ダメだよココちゃん!かけるが言ったでしょ!」

「わ、わかってるよ〜…だけど…このままで本当にいいのかな…」

ココはそう言って、心配そうに空を見上げた。


今の時点で、俺は350万の儲けを得た。

五里羅は思った。

だが、まだいける。確率は充分低い。まだ俺は…儲けをだせる!


落葉は赤いボタンを見つめた。

あと少し…あと少しだけなら…!


詰木も、表情を徐々にくずしはじめる。

金が手に入る。こんなに簡単に…。


樹常は細い目をさらに細めた。

警戒なんてするだけ無駄だったのか…?



「知っていますか、かける君。」

ヒューマは言った。「人は皆、欲望の塊ですよ。 儲けたい、名誉を得たい、他人より優位に立ちたい…」

「……」

「それは、思考力を鈍らせ、行動力を強める。」

かけるは黙ってヒューマを見ていた。

ヒューマは、空を見上げるプレイヤーたちを指して言った。

「あれはもはや、欲望に呑み込まれた… 哀しい化物ですよ。」


パン


乾いた音が響いた。

そして次の瞬間、強い光が辺りを包みこんだ。

これってまさか…

ココは目をこすった。

一瞬で消えた光は、プレイヤー全員を驚愕させた。

閃光弾を…打っちゃったの!?


「ママぁ、まぶしいよ〜」

男の子は言った。

「どうなってるのかしら。ミスかしら。ほんとう、困るわね。」

男の子の母は不満をあらわにして言った。

祭りの出店付近の人々も、この事態にうろたえ、声をあげた。


フハハ、と笑い声をあげるヒューマ。

「これだからマスターはやめられない!」

「…てめえ…」

「何を怒ることがあるのですか!これは正義ですよ!自分を過信した人間は、環境の些細な異変に気付かない!そしてつけあがる。足元が崩れかけていることにも気付かず…」

ヒューマは目を細めた。そして、見下したように言った。

「 ほんとうに…ヘドがでる。」

ヒューマの雰囲気は、別人のように変わっていた。冷たく、針のように鋭利だ。

かけるは一度目をつむり、そしてゆっくりと目を開いた。

「俺はお前を否定しない。」

かけるは言った。

「だけどお前は、なんか気に入らねえ。」

まるで昔の ー

「だから俺が… 全部まとめて終わらせてやる。」


なんで…俺が…

ガクリと膝をついたのは、五里羅だった。

「なんでよりによって俺が! まだ30分の1だぞ!? なんで……!」

頭を抱える五里羅。

花火を打ち上げていた他の4人も、手を止めて固まっていた。

「なあ!誰でもいい!花火を売ってくれ!

ああそうだ!俺の花火を買わないか?なあ!なあ!…」

「負けたんですよ。あなたは。」

ヒューマは、歩いて近づきながら言った。

「あなたはもう、このゲームに参加はもちろん、干渉もできません。」

そうヒューマが言ったのを合図にしたかのように、スーツ姿の黒人が五里羅を取り押さえる。

ヒューマは五里羅の残りの花火を一斉に打ち上げると、ニヤリと笑った。

「さあ、続けましょう、皆さん。」

プレイヤーたちは息を飲んだ。そして、その場から一歩、後ずさる。

「俺…もういっかな…借金はもうないし。」

そう言ったのは詰木だった。

「わ…私も…」

続けて落葉も言った。

全員が消極的になる中、樹常は焦っていた。

やばい。警戒していたこともあって、借金が返しきれてない…

状況が厳しいのは、樹常だけではなかった。

ココ、マリ、斑津、猫も、このままでは最初に払った100万円を返すことができない。

ー どうしよう

とココが頭を抱えたときだった。

「聞いてくれ、みんな。」

そう言ったのはかけるだった。

「全員助かる方法がある。」

えっ、とココは顔をあげる。全員の視線が、かけるに集まった。

「俺に、残りの花火全部買い取らせてくれ。」

かけるがそう言うと、落葉が答えた。

「確かに、それなら全員借金も無くなるわね。 でも…それじゃあんたが破綻するわよ。」

「問題ない。」

かけるは表情を変えずに言った。


全員の花火が、かけるに渡された。その数、合計452発。同時に、かけるの借金は大きく膨れあがった。

モニターに、文字が浮かび上がった。

‘閃光弾あり’と表示された。

すると、会場で笑い声があがった。

「あなたは本当に面白い人だ! 」

そう言ったのはヒューマだった。

そしてすぐに笑うのをやめ、冷たい声でかけるに言った。

「そして…どうしようもないバカだ。ペテン師かける。」

‘ペテン師’という単語にプレイヤー達ははっとした。

「ペテン師…?かける…?ああっ!」

詰木は思わず声をあげた。

「君は…2年前の…!」

「どうりでどこかで見た顔だと…」

落葉は最初、驚いた様子だったが、徐々に冷静に、そして冷徹な表情を浮かべて言った。

「なに…企んでるのよ…ペテン師。」

かけるの目が一瞬大きく開いた。

「また騙そうとしてるのか!?」

詰木は言った。

そして、樹常も目を細めて言った。

「なあ…どうなんだ、ペテン師。」

「ちょっ!ちょっと待ってよ!」

ココが声をあげた。

「かけるは、皆の借金を無くすためにやったのよ!?なのに何で!なんでそんなこと言うのよ!」

プレイヤーたちは何も言わなかった。

奇妙な空気が流れる。

ー これが、現実だよ。ペテン師かける。

所詮、他人なんてこんなものだ。結局、信用できるのは自分だけ。 他人に情けをかけたところで、メリットなんて何一つ…ない。

ヒューマは黙ったまま、目を伏せた。

「あやまってよ!」

ココが言った。

「ねえ、あやまってよ!かけるに!あやまってよ!」

「いいんだ!」

かけるが、ココの言葉をさえぎるように言った。

「もう、いいんだ。」

「でも…!」


「邪魔なんだよ!」


かけるは怒鳴った。

「…うっとうしんだよ…!

中途半端な優しさも!自分1人守れない弱さも!」

かけるは狂ったように花火を一気に打ち上げる。

「 疑いの目も! 嘲笑う声も! ペテン師の名も!」

夜空に、色とりどりの華が咲き乱れる。

祭り会場では、感嘆の声が次々とあがる。


「…かけ…る…?」


ー ここまでだな。ペテン師かける。


美しい華たちは、一瞬で散り、闇に消えた。


「 俺の前から… 消えてくれ… 」


パン


乾いた音と、眩い光が、辺りを包み込んだ。











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