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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
選挙編
24/27

ウソをつく



かけるは、その景色に思わず息を飲んだ。

今日のためにコツコツと作られてきた特設会場だけにとどまらず、見渡す限り人で埋め尽くされている。

「どうだ?この街1番の高さから見下ろすこの景色は。」

サトリは腕を広げ、軽く天を仰いだ。

屋上であるため風が強く、夏であるというのに少し寒い。太陽は沈みかけていた。

かけるは用意された椅子に座り、近くにあるモニターにちらりと目をやった。 今は何も映っていない。黒い画面に写る自分の顔は、少し強張っているように見える。

「いい気分はしないな。」

かけるが言ったその時だった。

ゴホンと咳払いをする女性の声が街じゅうに響き渡った。

「えー、ただいまより、選挙を行いたいと思います。」

声の主は、ユークだった。ユークは、ニュースキャスターよりもはきはきとした声で選挙の注意点を説明し始めた。

『これから皆様にはお手元にあるボタンを押していただき、投票をしてもらいます。投票権は1人1票までです。また、出馬するお二方には、一回ずつ演説をしてもらいます。演説から10分後までなら、何度でも変更が可能となります。』

ユークが丁寧に説明をしている間、サトリは不規則な動きで屋上を散歩していた。そして、思い出したように言った。

「そういえば、賭ける物を決めていなかったな。」

「…玉座じゃないのか?」

かけるは言った。

しかしサトリは納得のいかない表情を浮かべた。そして、突然閃いたように言った。

「いや…! 人権… 国民の人権というのはどうだ? え?ぞくぞくしないか?」

「な…!」

かけるが反論する間も無く、サトリは拡音機を手に取り国民に告げた。

『皆さん。この選挙に勝利した者は、国民の人権を得ることになります。どちらがいいか、よく考えて投票してくださいね。』

その言葉を聞いた国民は最初、意味を理解出来ず、固まった。

「…今のって…どういう意味だよ…」

「人権を賭けるの…?」

「俺たち…どうなっちまうんだよ!」

「サトリ様…」

徐々に王宮周辺がざわつき始めていた。


かけるはテーブルを勢い良く叩いた。

「ふざけんじゃねえ!!」

「おや、気に入らないのかい?」

余裕の笑みを浮かべながら、サトリはかけるの方を見た。

「当たり前だ!! 今でさえ街では女子供がイカサマを使ったゲームに負けて苦しんでるんだぞ!」

「へえー それは大変だ」

「今すぐ取り消せよ!」

「…」

サトリは一瞬黙り込んだ。ゆっくりと発された声は低く重くなっていた。

「…じゃあ守ってみろよ。」

サトリは見下すように顎を軽く上に反らす。

「……!」

「お前の大切な人とやらも、その女子供とやらも、全部守ってみろ!」

かけるはサトリに対し初めて畏怖を覚えた。サトリは笑っていた。サトリにとって、国民とはただの風景でしか無かったのだ。

「力の無い者がいくら吠えても周りは変わらない。それは身を以て体験してきたことだろう? ペテン師。」

ピエロ という単語がかけるの頭をよぎる。フィアの気持ちが少しだけ分かった気がした。

かけるは拳を握りしめた。サトリの言うことが的を得ていたことが、やり場のない怒りを生んだ。

「…いいさ。」

かけるはためらいぎみに言った。

「…人権を賭けて、勝負だ。サトリ。」

サトリはその言葉を聞くと、何も言わずにただ笑った。

「勘違いすんなよ。俺はお前の余興のためにのこのこゲームをしにきたんじゃねえ。」

「……ほう?」

「命を賭けて……この国を変えに来たんだ。」


『では投票を始めてください!』

ユークの放送を聞いた人々が、一斉に投票ボタンを押し始めた。

すると、王宮屋上のモニターが妙な機会音と共に起動し始めた。画面は驚くほど画質がいい。

「これは…」

「投票結果さ。」

サトリは言った。

「この国で今日投票数を知ることが出来るのは、俺とお前の2人だけだ。」

かけるはモニターを見た。赤と青の棒グラフが、共にその身長を伸ばしている。赤の棒グラフの下にはサトリ、青の棒グラフの下にはかけるとかいてあった。

かけるは結果が出るのを待たず、立ち上がった。そしてモニターに背を向けると目をつむり、深呼吸をした。

棒グラフはやがて、ゆっくりとスピードを落とし、止まった。

サトリはそのグラフを見ると、自分の目を疑った。

赤の棒グラフの高さは、青に達していなかった。それは、現時点においてのかけるの勝利を示していた。

「なんだ…これは…」

「どうやら、お前もただのガキ大将だったってわけだ。」

澄んだ空に向かって、かけるは言葉を吐く。

サトリは、かけるが目の前に立っていることに気づいた。モニターから視線を移した時、かけるは口を開いた。

「絶対に奪わせはしねえからな…。」


『サトリ様、演説を始めてください。』

ユークが言った。

その放送を聞いたサトリは、フンと鼻をならすと、かけるから視線をはずし国民の方に向けた。

…思った以上に、あの赤髪の女の影響は大きかったようだね。

「お前に、今から面白いものを見せてやる。」

そう言い残すと、拡音機を使って演説を始めた。

何を喋る気だ…?

『私からは一言だけ、言わせてもらいます。』

サトリはそう言って一呼吸置くと、予想外の発言をした。

『実は、私の投票ボタンは、赤です。』

かけるはその演説を聞いて、面食らったように固まった。

…今さら何を言ってんだ? こいつの投票ボタンは赤。それは間違いない。事実を繰り返しただけだ。こんな演説で誰の心が動かされるんだ…?

演説を終えたサトリがかけるの方へ体を向けた。

「解らない、といった表情だね。」

サトリはかけるにそう言った。

「では、一つ問おう。 さっきの投票率を知っているかい?」

…投票率…だと?

かけるは、心が黒雲に覆われたような気分になった。

もし…もしも、投票率が少なかったとしたら…その原因はなんだ?目的はなんだ?そして…

結末は…どうなる?

「…まさか!!」

かけるは勢い良くモニターの方を見た。

かけるはその光景に絶句した。

赤のグラフが青の背丈を軽々と超えていたのだ。

「な…!」

「ハハハ、どうやら国民の中には、どちらのボタンがどちらの人物なのか、分からなかった者がいたようだ。」

「なんで…!」

「つまらないからさ。」

サトリは口角をあげて言った。

「圧倒的勝利なんてね、もう飽きたんだ。 だから、全国民には教えてなかったのさ。」

「…!」

「お前は言ったな。俺の余興に付き合う気はない…と。」

サトリは爛々とした目で言った。


「余興にもならないぞ、ペテン師。」


『それでは、かける様の演説です。』

「くそっ…」

かけるは思わず後ずさりした。

これだよ…これこれえ!やはり何度味わってもたまらない…この優越感…俺は、ペテン師を負かすことで俺の生命を実感することができる…!

「さあ、君の番だ。心に訴える演説、期待してるよ。」

さあどうするペテン師…! この演説がお前の遺言となるか…!?

笑いをこらえきれないサトリだったが、かけるの返答は意外なものだった。

「つらかった…」

かけるは言った。

諦めの言葉ともとれるその発言に、サトリは一瞬言葉を失った。

「ペテン師なんて呼ばれてさ…」

「…ハン、何を今更。」

「俺はペテン師のくせに、ウソをつかれるのはいつも俺の方だ。」

かけるは歩きだした。

「苦しくて、生きるのが辛かった。」

サトリの横を通り過ぎ、壇上へ向かう。

「ペテン師と呼ばれるのが本当に辛かったんだ。 今だってそうだ。」

まさか…

「…だけど、それ以上に守らなきゃいけないものができた。」

かけるは顔をサトリの方へ向けた。サトリはその目を見て、固まった。

踊るのか?ペテン師。


「それを守るためなら…大ウソつきにだって、なってやる。」





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