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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
選挙編
23/27

ゼロ



選挙まで あと1日


「くそがぁ!!」

囚人はそう叫んで壁に拳をぶつけた。

1度自由を垣間見た囚人たちだったが、待ち伏せていた大量のポリスに阻まれ、あっという間に牢獄へ閉じ込められてしまったのだった。

そして肝心のかけるはというと、同室の囚人と共に見事脱獄に成功していた。

「ペテン師が、俺らを利用しやがったんだ!」

「あの野郎…次に会ったら半殺しだ」

「絶対許さねえぞ…」

牢獄のあちらこちらから、かけるに対する憎しみの声が漏れている。 希望を抱かされたあげく、利用されたのだ。彼らの怒りは最高潮に達していた。

「ペテン師ィ…!!」



ぶるっとかけるは身震いをした。 背中に悪寒がはしったのだ。

「囚人の奴ら、こりゃ相当お怒りだな。」

かけるは他人事のようにつぶやいた。

かけるはある場所に向かって歩いていた。既に囚人服は着替えており、お腹の710の囚人番号は無い。

…牢獄を抜け出して、何日か経った。王、サトリはどうやら俺が捕まったことは公にはしていないらしい。 恐らく、明日の選挙に支障を出させないためだろう。今回ばかりは、本当に助かった。

街は、選挙一色だった。あちらこちらでサトリとかけるのポスターが貼ってある。

サトリのポスターのキャッチフレーズが、『元王にしてベッドタウンの創生者』に対し、かけるのキャッチフレーズは、『誰もを欺くペテン師』だった。

「おいおい…」

かけるは呆れたように言った。

「誰がデザインしたんだこのポスター、応援する気ねえだろ…」

しかし、状況が悪いのは変わらなかった。

このままじゃ、俺が負けるのは確実だ。このポスターからも分かるが、俺のイメージはあまりよくない。この4ヶ月でできることはしてきたが…今日もし失敗すれば…負ける…なあ。

かけるは深いため息をついた。そして、最後の希望を託すべく、その場所へ向かった。


「さあ!!今年もやってきたあ!ドキドキ!?ワクワク!?ハラハラ!?ガチンコ!カーチェイスの開幕だあ!」

実況がそう叫ぶと、観客がドッと湧き上がった。

かけるがやってきたのは、ベッドタウンで年に1度開催されるビッグイベント、カーチェイスだった。観客の動員数は万を超え、中継で得る視聴率は50%を超える。この大会で賭け金が莫大なのは言うまでもなく、まさに夏の風物詩ともいえる大会だ。

そんなカーチェイスに、かけるは去年参加し、見事優勝を果たした。

「今年の優勝者は…ナンバー35、ジン選手だあ!!」

汗を輝かせながら、実況は優勝者を発表した。カーチェイスが終わっても、スタジアムの熱気がおさまることは無かった。

その様子を見ると、かけるは意を決してスタジアムに飛び込んだ。

すると、それに気づいた観客たちがざわめき始めた。

「おい、あれ見ろよ!」

「誰だ?あいつ」

「乱入か?」

実況の男も会場の違和感に気づき、思わず振り向いた。

そこに立っていたのは、白髪の少年、かけるだった。実況の男はかけるを見るたび、かけよって言った。

「おおっ!!皆さん!予想外のスペシャルゲストが来てくれましたよぉ!!」

相変わらずの暑苦しさに、かけるは思わずのけぞった。

「うお…おい…」

「そう!去年のカーチェイス覇者にして…明日の超超ビックイベントのド主役!! ペテン師かけるだあー!!」

あっつ苦しいー!! 暑苦しすぎだろこいつ!近くに寄るな!この発熱材め!

とは言わず、かけるは苦笑いでマイクを受け取った。

「えっと、どうも、かけるです。あの…今日は皆さんにお願いがあって来ました。」

かけるはマイクを握りしめた。

「俺に…!投票してください!お願いします!」

かけるは勢い良く頭を下げた。すると今まで盛り上がっていた会場が、一気に静まりかえった。

かけるは頭を下げたまま、唇を噛み締めた。


人は皆、裏切り者なんだ。

違うわ、かける。

なにが違うんだよ!何度信じても裏切るじゃないか!


そうだ、ペテン師かける。

信じていいのは自分だけだ。他人なんて、ただの飾りだ。

皆、お前を裏切るのさ。


「う…うるせえよ…!」

誰かが、そう言った。

「お前なんか…誰が信じるかよ…!」

「そうだ…もう信用ねえんだよ…!」

ポツリポツリと、罵声が聞こえてくる。

「このペテン師が…!」

「ペテン師!」「ペテン師!」「ペテン師!」「ペテン師!」

かけるは、自分の感情を抑え込むように歯を食いしばった。


ほらな、やっぱり。

俺はずっと、ペテン師のままなんだ。

一生俺は…


『黙ってください!!!』

突然の叫び声に、会場は再び静まりかえった。発声源は、放送室だった。

「ちょっと…!君…!困るよ!」

「邪魔しないでください!」

その赤髪の少女の鋭い目に、男は思わずたじろく。

「言うの?ココちゃん?」

隣で、マリがそう言った。

するとココは険しい表情で答えた。

「…うん。」

でも、失敗するかもしれない。

またかけるの迷惑になるかもしれない。

だけど、私が私でいる限り、絶対進むしかないの!!

「皆さんはペテン師がきらいですか…!」

ココは、言った。

「じゃあ知ってるんですか…!? どうしてペテン師が人を助けるんですか!? どうしてペテン師が人の借金をせおうんですか!? どうして人質のために…腎臓を…賭けるんですか…?」

その声は震えていた。そして目は涙でいっぱいだった。

「ココ…お前…」

かけるはただ呆然と立ちつくしていた。

ココは涙を拭いた。そして勢い良く息を吸い込んだ。

「あいつが皆さんを傷つけましたか!?不幸にしましたか!? …教えてください! どうしてペテン師と呼ぶんですか!? あいつの名前はペテン師じゃない! あいつの名前は…かけるです…!」

しん、と静けさが会場を包む。

誰かが、口火をきった。

「そ…そんなこと信じられるか!」

「そうだ!ペテン師はペテン師だ!」

かけるの耳に、そんな声ばかりが聞こえた。


人は皆、裏切り者なんだ。

かける、どこを見ているの?

どこって…

ちゃんと見て。かける。あなたがもっているのは嫌われた名前だけ?


「ちょっとあんた、黙りなさいよ。」

「そうだ、何も知らないくせに!」

「俺、ペテン師に助けられたんだ!」

「私も、彼に感謝してるの!」

「俺もだ!」

「私もよ!」

「頑張れよ!かける!」

「俺、お前に投票するからな!」

「負けんなよ!」

「かける!」 「かける!」「かける!」 「かける!」

静まっていたスタジアムが、一気に盛り上がる。罵声は、あっという間にかき消されてしまった。

「なんだよ…これ…」

かけるは瞬きをするのも、息をするのも忘れていた。 世界の色が、変わった気がした。

「かけるー!」

聞き覚えのある声に、かけるは振り返る。 ココとマリが、こちらに走ってきていた。


迷わないで。かける。

あなたがペテン師だろうがなんだろうが関係ない。

あなたはかける。

そして、その名を呼んでくれる人がいる。

そうでしょう?

……ああ…

ちゃんと、聴くのよ。

…うん。

…じゃあ、そろそろさよならね。

…え…

聴いて。かける…

まって!まってよ!俺まだ何も…!真由美さんに何一つ…!

しっかり守れよ!かける…!

真由美さん…!まっ…


ハッ、とかけるは我にかえった。

周りからはなりやむことない歓声。 目線の先には走ってくるココとマリがいた。

「すごいよかける!皆応援してくれてる!」

「かける、人気者!」

そう言いながらココとマリが駆け寄ると、かけるは2人を抱きしめた。

ココは困惑と恥じらいが入り混じったような表情を浮かべた。

「…かける…?」

「ごめん…少しこのままにさせてくれ。 俺、今ひどい顔なんだ。」

かけるがそう言うとココはくすっ、と笑い、

「ほんと、不器用なんだから。」

とつぶやいた。

かけると直接会ったのは何ヶ月ぶりだろう。 かけると話したのは何ヶ月ぶりだろう。かけるとこうして触れ合っていられるのは… あと、どのくらいだろう。

「…じゃない。」

ココは言った。

「もう選挙なんてやらなくていいじゃない。3人そろって、家に帰っちゃ…だめなの…?」

言ってしまった。 言ったらダメって分かってたのに、つい心の声が漏れてしまった。

かけるはゆっくりと2人から手を離した。その表情は明るいとは言い難かったが、決意に満ちている。

「ごめんな。ココ、マリ。」

「……」

「あいつさ、俺にそっくりなんだ。」

「……知ってるし。」

「まあ…見た目もそうだけど…」

「……?」

「あいつを止めるのは、俺なんだ。」

「…」

「…」

「すぐ戻ってくるでしょ?」

「何言ってんだよ、選挙が終わればすぐ帰るに決まってんだろ?」

かけるはそう言って笑った。

「そう…だよね」

「ああ。ま、のんびり待っててくれ。」

「じゃあな。」

「じゃあ…な。」

かけるが2人の横を通り過ぎた。ふわりと服が揺れる。

ココは振り返らなかった。 じっとして、下を向いていた。

「あ、そうだ。」

かけるが思い出したように言った。

「今度、海行くか。」

かけるはたぶん、笑っていた。

ココが思わず振り返ると、もうそこにかけるはいなかった。

ただ、蝉の鳴き声のような観客の声だけが、耳に残っていた。



「やっと来たか、ペテン師。」

サトリは言った。

「途中はヒヤヒヤしたぞ。監獄なんかにぶち込まれやがって。けどまあ、最後は良かったなあ。 赤髪の女様々ってわけだ。」

かけるは立ち止まり、サトリを睨みつけた。

「観てたのか。」

「もちろんさ。」

「随分余裕だな。」

「そうかな?」

「そうさ。」

「ハハッ、まあいい。早速始めようじゃないか!」

サトリは両手をいっぱいに広げた。王宮屋上からの景色は壮観だった。

「この国を賭けた、最初で最後のゲームを!!」













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