カーチェイスは頭脳戦
「さあ!表か!?裏か!?」
筋肉質の元気な店員が声を張り上げた。
「う~!!表!」
赤髪の少女、ココは負けじと対抗する。
しかし、コインが示したのは裏だった。
「はい、ざんねーん!君の負けだよ」
「うー!5回連続で負けるなんて!どんだけ運悪いのよ私!」
ココは頭を抱えて悔しがった。
その後ろで、白髪の少年、かけるは腹をおさえて笑い転げている。
「運じゃねえだろ…!ハハ…!腹いてえ!」
「かけるー…あんたって人は…!」
ココは顔を真っ赤にしてかけるに近づき、頭に拳を振り下ろした。
「まったく…殴ることはねえだろ…」
かけるは頭を抑えながらつぶやいた。
「うっさい!かけるが爆笑してたからよ!」
「だってよ…あんなあからさまなイカサマに引っかかるから…」
「もう!その話は終わりって言ったでしょ!とにかく!私たちが探してるのは月光刀なんだから!」
「…わ、分かってるって… ブフッ…」
「笑うなぁー!」
2人は、ココの亡きおじの宝、月光刀を探すためベッドタウンを歩いていた。ココがコインのゲームで5連敗したため、2人の所持金はゼロになっていた。また、昨日一つ目ウサギとトレードした刀は偽物だったため、明日の食事すらままならない状況だった。
「月光刀を探しながら、金も集めるからな。勝手に行動はしないように!」
かけるが言うと、ココは元気良く敬礼した。
先が心配だ、とかけるは思った。
しばらくして、2人はある店にたどり着いた。
「なに?この店?」
とココが尋ねると、
「情報屋だ。ま、入ればわかる。」
そこはまるで占い師が経営しているような風貌だった。薄暗く、光の色は不気味な紫。
「やあ、かけるくんかい?」
奥の方から突然人の声がしたため、ココは少し驚いた。
「ああ、情報がほしくてな。」
「分かってるよ。でなきゃここには来ないさ。」
声は若いが、容姿はフードで見えない。それに、どうやらかけるの知り合いのようだ。
「知り合いなの?」
「ああ、こいつは情報屋で、インフォっていうんだ。売れない店のオーナーだ。」
「かけるくんはいつも一言多いよ。」
インフォは呆れたように言った。そしてココの方に目を向けると、どうも、と軽く会釈をした。
「それで」
とインフォがきりだした。
「今日は何の情報が欲しいんだい?」
「月光刀だ。」
「ふーん、珍しいね、かけるが宝探しなんて。そこの女の子の影響かい?」
「…まあそうだ。それで、情報はあるか?」
「あるよ。1個だけど。」
「よし、じゃあそれを買う。」
その時、ココがかけるの袖を軽く引っ張った。
「ねえ、私たちお金ないよ?どうやって買うの?」
「ああ、この店はな、情報を情報で買うんだ。」
ココはきょとんとした様子だったが、かけるは取り引きを続けた。
「じゃあ、ペテン師かけるはココと行動している。ってのは?」
「その情報は買い取り済みだよ」
ふう、とかけるはため息をつくと、さらにつづけて言った。
「…月光刀の持ち主は…ココのおじだ。」
ガタン、とインフォは取り乱した。
「そ、それは本当かい?」
「本当だ、これでいいか?」
「ああいいよ!取り引き成立だ。ただし、真偽は保証しないよ。」
「構わない。」
インフォはパソコンに似た機械をいじりながら、月光刀の情報を渡した。
「おっ、運がいいね。明後日、クシラ地区のドームで大会あり。参加者求む。 僕が得た情報では、この大会の優勝商品が月光刀だよ。」
「クシラか。分かった。」
「がんばってねー」
かけるとココは、インフォに別れを告げると、クシラ地区のドームを目指して歩き出した。
「さあ!今年もやってきたあ!!ドキドキ!?ワクワク!?ハラハラ!?ガチンコ!カーチェイスの始まりだぁ!!」
実況がそう叫ぶと、観客がドッと盛り上がる。会場は終わりが見えないほどの広さにも関わらず、観客席はびっしりと人で埋め尽くされていた。
なんてテンションだ。体感温度が上がるだろうが。暑苦しい。
そうぼやいたのはスタートラインで座り込むかけるだった。
「なーにぶつぶつ言ってんのよ、さ、始まるわよ!」
「カーチェイスなんて俺、絶対向いてねえよ。」
「大丈夫!私が運転するから!こう見えても私、車は得意分野なの!」
ココは目を輝かせながら、車に乗りこんだ。
…お前…得意分野と興味本位は全然違うぞ?
かけるは不安を抱きながら、しぶしぶ助手席に座った。
「では!ルール説明をするぞ!」
実況の声が会場内に響きわたる。
「ルールは簡単!1番早くゴールした人の勝ちだ!なお、この会場内では全てがオーバーリアクション!体感速度、体感距離もオーバーリアクションだよー!」
…ああ、どうりで体感温度が高いよ、熱血実況野郎。
とかけるがまたぼやく。
「さらに!1グループに1度、スペシャルカードが使えるよー!スペシャルカードは、車を変形することができるんだ!まさに!トランスフォーム!!!」
ワッと会場が盛り上がる。
「それでは!障害物を乗り越え、栄冠を手にするのは誰だ!?カーチェイス、スタートだぁ!!」
実況の合図と共に、一斉に車が発進する。しかし、1台だけ動かない車がいた。
「あれ!?これ、動かないわよ!?ちゃんと踏んでるのに!」
そう言ったのはココだった。すると、かけるがココの足下を見て叫んだ。
「お前!それブレーキ!アクセルはそっちじゃねえぞ!」
「ええ!?は、早く言ってよ!」
ココは急いでアクセルを踏んだ。
うおおお…ちょっと速くねえか!?
かけるはあまりの緩急に動揺した。
「おい…ココ…」
「いっくわよぉ!絶対優勝するんだから!」
ココはかなり楽しそうだ。体感ではすごいスピードだが、実際はどのくらいなのだろうか。まったく、妙なことでも技術は進歩するものだな。 だが今はそれよりも…
「速すぎるっす…ココさん…っ!」
かけるは思わず口に手を当てた。
かけるは基本、アウトドアが苦手で、スピード系の話になると身体が拒否反応を起こすほどなのだ。
「おっとお!?出遅れたのはナンバー22の車! おや?もしかしてあれは!おお!本物です!ペテン師かけるです!2年前に起こしたあの事件以来!死んだとさえいわれていましたが!今!突如姿を現しました!」
会場がどよめく。かけるは相変わらず青ざめていたが、実況の言葉には耳を貸す素振りすら見せなかった。
「かける!見て!川よ!」
ココはハンドルを握ったまま叫んだ。
目の前に巨大な川が流れている。見ると、ジャンプ台が3つ、橋が2つある。川にはすでに10台以上の車が沈みかけていた。向こう岸にたどり着いている車は既に変形していた。水陸両用にしたようだ。
「かける!どっちの橋がいいかな!?」
「いや、橋は渡るな…あの沈んでいる車を見てみろ…橋を渡ればああなる。」
「じゃあスペシャルカード!?」
「いや、勝つために今は使わない…あのジャンプ台の、左から2番目からいくぞ。」
「ええ!?飛ぶの!?あっちまで飛べるの!?」
できれば飛びたくねえが、仕方ない…。 …体感速度があがっているが、体感距離もあがっている。簡単な計算になっちまうが、時間がねえ…
「時速100km。V0=28m/s、傾斜45°、水平到達距離V0の2乗sin2θ/g=784×2×√2/2×√2/2/9.8=…」
「ちょっとかける!なに呪文唱えてんの!しっかりして!顔も青いし、やばいんじゃないの!?」
「80m。よしっ。そのまま100kmで行け。川をこえられるはずだ…。」
ココは青リンゴ色に染まったかけるを片目に、アクセルを勢い良く踏んだ。
そして次の瞬間、車は宙へ浮いた。ナンバー22の車は美しい弧を描き、勇ましく空中をかけぬける。
やっべえ…マジで死ぬ。 うわあ。花畑見えちゃてるよ。 おじいちゃん手招きしちゃってるよ…
あれ…おじいちゃん…あんなハゲてたっけ…
車は大きな衝撃音と共に、地面に衝突した。
「いたた…」
先に気付いたのはココだった。辺りを見る。車は壊れていた。着地寸前でかけるに押し出されたおかげで、ケガは無い。 そうだ、かけるは?かけるはどこ?
「かける?どこなの?」
気配を感じ、振り返ると、かけるは倒れこんでいた。
「かける!大丈夫!?かける!?」
外傷はないものの、かけるは返事をしない。
どうしよう…かける…起きてよ!
その様子を岩陰で見ていた少女がいた。彼女はある人をじっと見つめ、手を胸に置いている。
そしてためらいながらも、その一歩を踏み出した。




