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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
選挙編
18/27

ハイドメモリー


「マスターは、私に務めさせていただきます。」

奥の方から、女性の声が聞こえた。一切の隙も見せない歩き方でこちらに近づいてくる。

「ユーク、いたのか。」

王は言った。 女性ははきはきとした声で返事をした。

「はい。サトリ様の護衛は私の仕事ですから。」

ハハ、と王は軽く笑った。

「相変わらずだな、ユークは。そんなに畏まらなくてもいいと言ったはずだぞ?」

とんでもない、と彼女はかぶりを振った。

かけるはそんなやり取りに割り込むようにして尋ねた。

「おいサトリ、こいつがマスターになることはお前にとって有利じゃないのか?」

「貴様!サトリ様に向かってなんだその口の利き方は!この無礼者が!」

ユークはかけるに怒鳴り散らした。 まあまて、とサトリは彼女を落ち着かせ、答えた。

「確かにこいつはメガロポリス、俺の部下だ。だが、彼女の性格がどれほど厳格かは、今お前自身の目で見ただろう?」

「…」

かけるは何も言わなかったが、実際のところ何も異論は無かった。

「それとも、お前が今からマスターを連れて来てくれるのか?」

「いや、そこの彼女でいい。」

かけるが承諾すると、ユークはテーブルに一歩近づき、かけるを睨みつけた。王に対する態度が、よほど気に入らないらしい。

「では、ルールを説明します。」

ユークは相変わらずはきはきとした声で言った。

ゲームの内容は、実に単純なものだった。

① まず、互いにカードが2枚ずつ配布される。その2枚のカードにはそれぞれ‘協力'、‘裏切り'とかいてある。

② プレイヤーはどちらか1枚を選び、裏向きのままカードを場に出す。

③表向きにして、カードの組み合わせによりアクションが変化する。

1、互いに‘協力'カードだった場合、賭けたものを交換する。

2、互いに‘裏切り'カードだった場合、何も起こらずゲーム終了となる。

3、どちらか一方が‘裏切り'カードだった場合、裏切ったプレイヤーは賭けられたものを手に入れることができる。


サトリはココについての情報を賭け、かけるは頼み事を一つきくという権利を賭けた。

かけるは2枚のカードを眺めた。

単純に考えて俺が勝つ場合は2通り。相手が‘協力’を出して俺も‘協力’を出す。もしくは、相手が‘協力’を出して俺は‘裏切り’を出す。 つまり、サトリも俺も‘協力’を出すメリットはない。だが、だからと言って2人とも‘裏切り’を出せばゲームは終わってしまう。普通なら、勝ち目はないゲームだと思うだろう。だが…

「2人で、‘協力’しないか?」

サトリはかけるにそう問いかけた。

そう、この場合だ。互いが信じ合い、‘協力’カードを出し合えば、即解決だ。しかし、そう簡単にいかないことは分かっている。 つまりこのゲームは、いかに相手を信用させるかがキモだ。

かけるはサトリの方を見た。サトリはカードを見ている。 すると、サトリは1枚のカードを裏向きのままテーブルに置いた。そしてサトリはこう言った。

「これは‘協力’カードだ。さあ、協力し合おうじゃないか。」

突然の行動に、かけるは若干の動揺を見せた。

「そんなことを言われて、素直に協力すると思ってんのか。」

「お前がどう思うかなんて、俺の知ったことじゃない。ただ俺は、このカードが‘協力’だと言っているだけさ。」

サトリはそう言うとうっすらと笑みを浮かべた。

何が目的なんだ…?

かけるは目を逸らし、考えた。

こんなことをすれば、信用させるどころか余計疑い深くなるだけだぞ…?しかも、既に相手のカードは決まっている。俺がカードを出した瞬間決着がつくということだ。 ここはやはり慎重にいくべきか…?

ハハハ、という笑い声が響いた。

サトリだった。 かけるはサトリを睨みつける。

「…なにが可笑しい…。」

「悪いな…ハハ、余りに楽しいものでな。 こうしてペテン師とゲームができることが。」

「…そうかよ。」

「そうさ! 2年も待ったんだ!当たり前だよ!」

その発言にかけるは疑念を抱く。

「…待った……だと?」

「ああ待ったさ! なにせ…」

サトリは口角をあげた。そして唇を濡らして言った。

「… ー 君をペテン師と名付けたのは、…俺だからだよ。」

かけるは目を見開いた。どこか胃のあたりが、キリキリと痛む。

どういうことだ…

かけるの脳裏に蘇っていたのは、2年前のある日のことだった…



今から2年前

真由美が余命を告げられた数日後

白髪の少年は、ベッドタウンに来ていた。

ハア…ハア…

少年はある一つの情報を頼りにこの街へやってきた。 どんな病気も治す、不思議な薬があると聞いたのだ。 少年はある人を救うため、その薬が必要だった。

ハア…ハア…

かけると名乗るその少年は、息をきらせながらある店主に尋ねた。

「この辺に…秘薬があると聞いてきたんですが…!」

店主は少年の勢いに思わずのけぞった。

「お願いです!俺何でもします!雑用でもなんでも!だから!秘薬を…!」

「いや…うちにはないんだ…」

その言葉に、少年は肩をおとした。 諦めて店を出ようとした時だった。

「なあ坊主、俺持ってるぜ。」

そう言ったのは中年の男だった。 かけるは勢いよく振り返った。

「本当!?」

「本当だよ。たまたま手に入れたけど、使い道が無くてね。」

「お願いです!ゆずってくれませんか!?」

「いいぜ。…だが、ただで譲るわけにはいかないなあ。」

中年の男の言葉に、かけるは戸惑いを隠せなかった。かけるは一銭も持っていなかったのだ。

「俺、お金は…」

「じゃあゲームだな。」

男は言った。

「ゲーム…?」

「ああ。ここはそういう街じゃあないか。さあ、ゲームをしようぜ。」

男はニヤリと笑っていた。こんな緊迫した空気は、かけるにとって初めての経験だった。冷や汗が肌を伝い、足が少し震えるのをかけるは感じていた。かけるは相手に緊張が伝わらないよう、できるだけ声を低くして言った。

「分かった。やるよ。」


かけるは大通りを歩いていた。次の標的を鋭い目つきで探している。

かけるは一つ、気付いたことがあった。人は簡単にウソをつく、ということだ。中年の男はイカサマを仕掛けてきたうえ、全てを見透かすような態度で嘘をついた。挙げ句の果てには賭けたはずの秘薬さえ持っていない。

「勝てばいいんだ…」

驚きで腰を抜かす男の表情を思い浮かべながら、かけるは次の店へと入っていった。


場所は変わり、ここは王宮のとある部屋

バタバタと走る音がしたかと思うと、勢い良く扉が開いた。扉を開いたのは、ブルドッグの姿をしたアレクだった。

「大変です!サトリ様! 街で…ある少年がカジノを荒らしているという報告が!」

退屈そうにしていた王は、突然の報告に胸を踊らせた。

「詳しく話せ、アレク。」

「はい、何やら万能の秘薬を探しているとか…」

アレクがそう言うと、サトリは首をひねった。

「万能の秘薬…?そんな昔の迷信を信じる奴がいたのか?」

「はい、なぜかは不明ですが、とにかく恐ろしく賭けが強いと、カジノにいたポリスがそう言っています。」

すると、王は考える仕草をみせた。そして突然立ち上がると、頬を緩めて言ったのだった。

「この国も、まだまだ捨てもんじゃない…か。」


「くそがあぁぁぁぁ!!」

白髪の少年は発狂した。 頭を抱え、黒目は焦点を探している。

「どいつもこいつも嘘ばっかりだ!皆、人の不幸しか望んじゃいない! …この街は腐ってるんだ…!!」

幼い頃の、黒い記憶が走馬灯のようにかけるの頭を駆け巡る。 8年ぶりのベッドタウンは、表面が整えられただけのただのハリボテだった。

かけるは立ち並ぶ店々を視界に入れた。

『万能の秘薬、入荷しました。』『期間限定商品、万能の秘薬』

そんな看板ばかりが、店に掲げられている。

さっきはこんな看板無かった…

かけるは葛藤を繰り返しながら、店に入っていったのだった…


それから3日が過ぎた。

「おい…あいつ、ペテン師だよ…」

「あいつが噂の…」

「子供のくせに、生意気なんだよ…」

「本人は心底楽しんでいるに違いないな。」

「ほんと、ふざけてるよ。」

常に周りから視線を感じた。まるで、檻の中にいるみたいだった。結局3日間で手に入ったものはお金だけ。秘薬はどこにも見つからなかった。そして俺はいつの間にか「ペテン師」と呼ばれるようになった。

かけるはうつむきながら、大通りを走る。顔をあげることなど、到底出来なかった。

もう、真由美さんにもケイジにも合わせる顔がない…。

かけるは唇を噛み締め走り続けた。かけるは逃げるようにしてベッドタウンを後にしたのだった。


かけるは花に囲まれた家を見上げた。ドアの前に来たが、開けるか迷った。ゆっくりと腕を伸ばすが、1度ためらう。

もう会わない方がいいのではないか、そんなネガティブな感情ばかりがわきあがってくる。

そしてようやく、決意するかのように勢い良くドアを開けた。部屋に行き、扉を開ける。そこには穏やかに眠る真由美の姿があった。かけるはほっとため息をついた。そしてそばにいたケイジに目を移した。

「お…おかえり…」

ケイジは少しきまりが悪いように言った。

かけるは思わず目を逸らした。その時感じたのは罪悪感のようなものだった。

その後すぐにかけるは家を出ていった。

3日間で手に入れたお金を、治療費だと言って家に置いていったのだ。

「ごめんケイジ。ごめん真由美さん。」

かけるは遠のいて行く家を尻目につぶやいた。

もう、迷惑はかけたくないんだ。



「疑問には思わなかったのか?」

サトリは、かけるにそう尋ねた。

かけるは声が出せなかった。

「突然万能の秘薬の噂が出回り、誰もが秘薬を持っているとウソをつき、お前はペテン師と呼ばれ忌み嫌われた…。」

「な……」

「おかしいとは…思わなかったのか?」

…なんで…

「誰かが…なにか大きな力がお前を押しつぶしたと…そうは思わなかったのか?」

かけるは、頭の中が真っ白になっていくのを感じた。唖然として、サトリの姿をかろうじてとらえている。

「その大きな力というのが…」

「…やめろ……」

「この俺だと、そう言っているんだ。」

「黙れ!!」

バン、とかけるは手を思いきりテーブルに叩きつけた。息は乱れ、冷静ではいられないようだった。

かけるは'裏切り'カードを握りしめた。そして、血走った目でサトリを睨みつけた。

「てめえが軽々しく名付け親を名乗るんじゃねえ…。 てめえが平然と俺の運命を決めるんじゃねえ…。」

かけるは震える手で'裏切り'カードを持ち上げた。

「覚えとけ…。俺はペテン師なんかじゃない。 …俺は…俺の名は…かけるだあぁぁ!!」


かける


かけるが今にも腕を振り下ろし、カードを出そうとした時だった。 誰かの声がかけるの中で響く。


かける、独りで歩かないで。


その透き通るような声はどこか儚く、懐かしくもある。


かける、独りで叫ばないで。


かける、誰かを憎まないで。


かける…約束したでしょ?


ハッ、とかけるは勢い良く息を吸い込んだ。 かけるの中でそう呼びかけた銀髪の女性は、あっという間に消えてしまった。

今のは…!

かけるは動きを止めた。そして、ゆっくりとカードを手元に戻した。大きく息を吐くと、1枚のカードを選び、場に出した。

ごめん…。皆。俺、見失うとこだったよ。 忘れてたんだ。もっと大切なものは、目に見えるようなことじゃない… そうだろ…? …

かけるが出したカードは、'協力'だった。

サトリは意外そうな顔でそのカードを見た。

「なぜ、'協力'にした…?」

かけるはうつむいたまま言った。

「この世には、裏切りありきでは成り立たないものがたくさんあるんだと、ある人に教えられたんだよ。」

「……それがお前の答えか…。」

「……ああ。」

悪いな、ココ。もうちょっとだけ、待っててくれ。

ハハハ、とサトリは高笑いした。

「やはり俺の見込んだ男だ!最高だよ!」

その嘲笑に、かけるは微動だにしない。

「お前に一つ、教えてあげよう。」

サトリは言った。

「人は何故、絶望するのか…」

それを合図にしたかのように、マスターであるユークはカードを表にかえした。

'裏切り'の文字が、かけるの目にとびこむ。

サトリは口角をつりあげて言った。


「それでも人は、裏切るからだ。」














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