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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
選挙編
17/27

ペテン師と道化師

ココが消息を絶ってから6日が過ぎた。

この日と前日はベッドタウンを歩き回ったが、ココが見つかることはなかった。

くそっ…どこ行ったんだよ…ココの奴…

かけるは不安と苛立ちが入り混じったような表情を浮かべながら、マシュマロにかぶりついた。

家の中には、なんともいえない静けさが広がっていた。 ムードメーカーともいえるココがいなくなったのだ。いつもの灯りが、暗く見えるのも仕方がないことだった。

マリはぐったりと横たわっていた。 この一週間で、マリは相当元気がなくなった。

「頭痛い…」

そう言ったのはマリだった。

「…病院行くか?」

かけるはそう尋ねたが、マリは顔をうずめて言った。

「いい。 それより、ココちゃん探す。」

その言葉を聞いて、かけるは思わずため息をついた。 マリは、続けて言った。

「明日はどこ行くの?」

「それなんだが…」

かけるはマシュマロを食べるのを止めて言った。

「明日は王宮に行こうと思ってる。」

「王宮? …なんで?」

マリが尋ねると、かけるは頭をかいた。

「ええと、遊園地に行った日、覚えてるよな?」

「 うん。」

「俺がお前らと別れた後、犬がなんか言ってなかったか?」

「…んー、 」

マリは記憶をたどった。既に曖昧だ。

「ああ、…なんかココちゃんに言ってたような…」

「何て言ってたか分かるか?」

マリはかぶりを振った。

「わかんない。」

「そうか…」


ベッドタウンを探してもいなかった。家にも帰ってこない。 考えられるとすれば、あの時の遊園地だ。 俺がいない時に、メガロポリスの犬に何かを言われた、もしくはされたと考えるしか…

かけるは考えを巡らせた。

まあ、とりあえず行ってみるか。

かけるは無理やり考えをまとめると、ベッドに横たわった。 なんとなく天井を眺めていると、足音が聞こえてきた。

マリ、か。

その方向に目を移すと、予想通りそこにはマリが立っていた。

「ひとり、怖い。」

そりゃそうだよな、とかけるは笑い、マリのためにスペースを開けた。

マリはそこに横たわると、安心したかのようにすぐ寝てしまった。 かけるその寝顔を見ると徐々に眠くなり、いつの間にか寝てしまったのだった。


鳥のさえずりで目を覚ました。

目覚めはあまり良くはない。

かけるはカーテンを開け、眩しさで目を細めた。 天気は快晴だ。

手短に支度を済ませると、かけるはマリを連れ、カスミソウに囲まれた家を後にした。


「たかぁい!」

マリは少し高揚して言った。

2人の目の前にそびえ立っていたのは、この街1番の高さを誇る建築物だった。

「ついたな…」

かけるは上を見上げてつぶやいた。

街の中心に位置するこの建物は、あまり王宮とは言い難い外見だった。まさに現代を象徴しているともいえる。

ココは…ここに来たのだろうか… 。 いや、行けば分かることだ。

かけるはマリの手をとると、一歩前へと足を踏み出した。 しかし、王宮は一般人がやすやすと入れるわけもなく、門番のポリスが2人を止めた。

口を開いたのは髭を生やしたポリスだった。

「お前ら、ここに何のようだ。一般人は立ち入り禁止だぞ。」

低い声で引き止められ、マリは思わず首をすくめた。

「いやあ、メガロポリスの方とお話をしたくてですね、…」

かけるは手の平を上に向けながら言った。

「はあ!?一体何を言ってるんだ君は。」

「お話だけでもさせて頂けないでしょうかね?」

食い下がるかけるに、ポリスの男は苛立ちをおぼえた。怒鳴り散らそうとかけるを睨みつけたその時だった。 建物の中からある人物が現れた。

「よお。ボーイ。」

人物とは言い難いかもしれない。なにせ、建物から現れたのは、二本足で歩くブルドッグだったからだ。

てくてくと向かってくる犬を見たポリスは、勢い良く敬礼をした。

「その2人は知り合いだ。入れてやってくれ。」

犬のアレクがそう言うと、ポリスは慌ててかけるたちに謝罪の言葉を並べ、門を開けた。

「…どうも。」

かけるはアレクに一応社交辞令を済ませた。

「よかったな、俺っちがいて。」

アレクは歩きながら言った。しかし、かけるの方は見向きもせずてくてくと王宮に向かっていく。

「んで、 何のようできた?」

その言葉にかけるは苛立ちをおぼえたが、あえて顔には出さず言った。

「それは…お前がよく知ってるんじゃないのか?アレク。」

「…」

アレクは返事をためらった。

何かを隠している、とかけるは確信した。

「俺についてこれば判る。」

アレクはそれだけ言うと、王宮の中へ足を踏み入れた。


「ここだ。」

アレクは言った。

目の前には大男が通るかのような大きな扉がある。

「あいてるから、入っていいそうだ。」

犬は腰に手を当て、そう言った。

かけるは扉に目をやった。

「マリ、お前は来るな。」

マリは驚きの表情を浮かべた。

「え、なんで?」

「いいから。 おいアレク、マリをよろしく頼むわ。」

「いや! わたしも一緒に行きたい!」

反抗するマリに、かけるは口調を変えずに言った。

「マリ。今回は言うことを聞いてくれ。たのむ。」

その真剣な目に、マリは思わずうつむいた。

かけるはそんなマリの姿を見て、頭にぽんと手を置いた後、振り向いて扉を手を添えた。

悪いな、マリ。 今日はなにか… 妙な胸さわぎがするんだ。

バタン、という音と共に、かけるの姿は消えた。

取り残されたマリはうつむいたままだった。隣に立つアレクはそんなマリを見て声をかけた。

「マリちゃあん、邪魔者もいなくなったところで、デートにでも行く!?」

気遣いと本音が入り混じったアレクの言葉だったが、結局それは墓穴を掘ることとなる。

「わたし、犬アレルギーなの。」

それは、皮肉たっぷりの嘘だった。

その幼い容姿から繰り出された言葉の暴力に、アレクは思わず膝をついたのだった。


バタン、と背後で扉が閉まる音がした。

かけるが目にしたもの。広い部屋に赤い絨毯、真ん中にポツリと置かれた高めのテーブル。 そしてなにより、最初に目に飛び込んできたのは、部屋の奥の椅子に堂々と居座る男の姿だった。

「ああ…」

若い男は声を発した。

「君が…」

かけるは男と目があった。 少しくせ毛がかった黒い髪、沈んだ瞳…

かけるは、朝鏡で見た自分の顔を一瞬思い出した。

「誰…だ?」

かけるは戸惑いながら尋ねた。

男は口角をあげた。

「この国の王…と言えば分かるか…?」

かけるは意表を突かれたように唾を飲み込んだ。

まさか…王とはな…。 王…サトリ…

かけるははっとした。

そういえばフィアが、王が月光刀を探していると言っていた…! …確か月光刀の元所有者はココのおじだったはず。 もしそれが王の耳に入ったとしたら…ココがさらわれることにも合点がいく。

かけるが考えを巡らせていると、王がゆっくりと口を開き始めた。

「…お前は…‘天才’の存在を信じるか?」

唐突な問いに、かけるは え、と声を漏らした。少しの沈黙が流れ、かけるはようやく声を発した。

「…信じない。天才なんていない…ただ他より得意なだけのことだ。」

その言葉を聞くと、王は声をあげて笑った。

「ハハ、面白いね。実に面白い。」

笑う王であったが、急に真剣な目つきへ変わる。

「だが…それでは困るね。」

その時はまだ、かけるはその言葉の真意が分からなかった。

「それで」

王は言った。

「俺に聞きたいことがあるんだろう?」

「…ああ。」

かけるは答えた。

「赤い髪の女の子が、ここに来なかったか…?」

「来たよ。」

王はあっさりと認めた。

「一週間前ぐらいか。アレクをつかって王宮に呼んだよ。」

結果は予想通りだった。しかし、かけるの中で釈然としない感情が広がる。

「じゃあ…今どこへいるのか知ってるんだな…。」

かけるが尋ねると、王はわざとらしく笑みを浮かべた。

「…さあな。」

かけるは動揺した。なぜそんな嘘をつくのか、なぜそんなあからさまな態度をとるのか分からなかったからだ。

「今頃街のどこかを歩いているのか…はたまた家へ帰っているか…はたまた…機関の牢獄に囚われているか…かな?」

「なっ…!」

「不安か?…知りたいか?」

かけるは王を睨みつけた。

「教えてやろう。」

王は言った。

「…俺にゲームで勝てば…の話だがな。」

ゲーム…だと?

唖然とするかけるに、王は近づいて行った。真ん中のテーブルに手をつくと、王は静かに笑って問いかけた。

「得意分野だろ…? ペテン師。」

ドクン、と鼓動が波をうった。かけるはちらりと王の目を見た。そこに宿っていたのは、不気味で明らかな好奇心。

こいつは…

かけるは決意を決めたかのように一歩踏み出した。テーブルのそばまで来ると、ふうと息を吐いて言った。

「全部思い通りになると思うか。この道化師が。」

ハハ、と王は笑った。

「道化師か。悪くないネーミングだ。」

ペテン師かけると道化師サトリが、一つのテーブル越しに向き合う。そしてこの瞬間、国じゅうを巻き込む闘いの火蓋が切って落とされた。


「「ゲーム開始だ。」」










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