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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
選挙編
16/27

今すぐココロを読んで

「うっふっふっ!まさかかけるっちとデートできるなんてね!!」

フィアはそう言って腕をかけるの腕に絡ませると、大きく膨らんだ胸を押し付けた。

「うっ、おい…あんまりひっつくな…。」

かけるはどうしていいか分からず、とりあえず空を仰いだ。

「いいじゃん別にぃ〜」

それでもぐいぐい圧倒してくるフィアを、かけるは力の限り押し返した。

「もう…!やめろって…!」

かけるは、何か気をそらせないかと話題を模索した。

「お前…本当にデートが目的だったのか?」

かけるはなんとか質問を絞り出した。その付け焼き刃のような質問に、意外にもフィアは困惑した。

「いや…!そりゃそうよ…!」

「本当か?」

「……」

「違うんだな。」

かけるが問い詰めると、フィアは誤魔化すように笑った。

「ハハっ!さすがかけるっちね!」

フィアはてへっ、と舌をだした。

「…サトリって、…知ってる?」

その名前を聞くと、かけるは記憶をたどった。

「ああ、ベッドタウンの王か。」

こくり、とフィアは頷いた。

「10年前、9歳にして玉座につき、独裁政治を行うことでこの国を丸ごと変えてしまった人よ。」

フィアは先ほどのおどけた顔とは一転、真面目な表情を浮かべていた。

確かに、この国は昔から賭博が行われていたが、賭博が国の代名詞となるほど有名になったのはここ最近だ。

「私たちメガロポリスも彼に選定され、巨大な権力を行使することを許されたわ。」

「独裁政治とは聞こえが悪いな。俺は王は優秀だと思うぞ。実際、景気はいいし、経済もよくまわってる。さぞ、頭の良いお方なんだろうな。」

かけるは皮肉混じりに言った。

「んで、その王がどうした?」

かけるが尋ねると、フィアは決まりが悪いように1度ためらった。

「実は…最近、ある宝を探し回ってるの。」

「宝…?」

かけるは首を傾げた。しかし、フィアがその宝の名を発した時、かけるは思わず驚嘆の声を漏らした。

「 ー …月光刀よ。」



ー この国の王が、月光刀を探しまわっている…か。

かけるは日が落ちかけた空を眺め、ため息をついた。

1人で帰っているため、自然に考え事が多くなる。かけるはココの顔を思い浮かべた。

あー、ココに何て言えばいいんだ。死んだおじの宝っていうんだからなあ。 王にとられたなんて知ったら、あいつ王宮に殴り込みにいくぞ…? それに…なんかあいつ今日不機嫌だったし…。

面倒だ、とかけるはつぶやいた。

それと、フィアの様子も少し気になった。 フィアは、なんというか、王を恐れているというか、なんとなく避けたがっているような気がした。

かけるはフィアの言葉を思い出した。

「あの人…サトリ様はなんというか…たとえるならそう、道化師。 どれが本当の顔なのか分からない。本当の心か分からない。そんな人なの。」

「じゃあ月光刀を探してる理由も…」

かけるは尋ねたが、フィアはかぶりを振った。

「分からない。 探っても、あざ笑うかのようにはね返される。 まるで…… ピエロの遊戯みたいにね。」

愚痴みたいになっちゃったね、と笑うフィアが、かけるの頭に妙に残った。


ガタン、とドアが開いた音がした。

トクン、と胸が高鳴る。

かけるが帰ってきたんだ、とココは思った。

「お、おかえり。」

ココが言うと、かけるはふいをつかれたようにたじろいた。

「おう、ただいま。」

てっきり責められるかと思った。

とかけるは思った。かけるにとってココの反応は意外だった。ココはただいま、と言うとかけるからすぐに目をそらしたのだ。

「もう遅いし、早く寝ろよ。」

今日はたぶん、身体の具合でも悪いのだろう、とかけるは思い、ねぎらいの言葉をかけるとその場を後にした。


チッ チッ チッ

時計の針が動いている。

ハッ、とココは目を覚ました。隣ではマリがスヤスヤと寝息をたてている。

ココは顔を赤くして頭を抱えた。

なんて夢を見てるのよ私ー!! どうしてかけるの夢ばっかみてんのよ私ー!! そんでもって…なんであそこで終わっちゃうのよ! …どんな夢か忘れちゃったのに、なんかすごく損した気分…

ココは夢の続きをどうしても見たくて、何度も寝ようとするが、全て失敗に終わった。

ココは時計を見た。短い針が2あたりを指している。 ココは少しぼーっとしたあげく、外に出ることにした。

「夜のカスミソウ…」

ココは、目の前に広がる美しい風景に、思わず息をのんだ。 月の光で照らされたその花々が、初夏の風に揺られてざわめいている。

ココは花畑に適当な場所を見つけると、ゆっくりと座った。

ココは今日の出来事を思い返した。 ふと思い出したのは犬が別れ際に言った言葉だった。

アレクと名乗るその犬は、ココに向かって言った。

「もし誰かに何かを思ってるなら、伝えな。伝えなければ、意思は生まれない。伝えなければ、思いは存在出来ない。だからよ…お嬢ちゃん、真っ直ぐ生きろよ。」

…あれは、どういう意味だったのだろうか。

細かいことは聞けないまま、犬は去っていったのだった。

しばらく物思いにふけっていると、後ろから声が聞こえた。

「なにしてんだ?ココ」

「うひゃあ!?」

ココは突然声をかけられ、驚きで肩を震わせた。

「か、かける!? もう、驚かせないでよ!」

「悪い、けどココが出ていくのに気づいてさ。 …どうかしたのか?」

ココはぷいと顔を背けると、言った。

「ちょっと…眠れなくて…ね。」

「ふーん、そっか。」

かけるはそう言うと、ココの横に座った。そこからはしばらく会話はなく、カスミソウがざわめく音だけが辺りを包み込んだ。

ココはチラリとかけるの方を見た。 かけるは、コクリコクリと首を上下に動かしていた。

「寝ちゃってるし。」

ココはその様子を見て、微笑んだ。

…間抜けな顔だなあ、もう。

ココの心情は、締め付けられるような思いから一転、温かく、やわらかいものへと変わっていた。

…そういえばこの前、ゆみちゃんが亡くなってここで号泣したっけ。 かけるが泣いたのを見たのは初めてだったなあ。 私なんてしょっちゅう泣いてるのに。 男の子ってそういうものなのかな。

…あと、何回も助けられたなあ。 私はバカで本当にどうしようもない奴なのに、かけるはそれでも助けてくれた。

気付けば、そこにかけるはいてくれた。

ねえかける…私は…

ううん。大丈夫。もう、分かってる。

「かける。」

ココが声をかけると、かけるははっとして目を覚ました。

「あ、わりぃ、俺寝てたか。」

「うん、ちょっとね。」

「そうか…」

「ねえ、かける。」

なんだ?とかけるはココの方を見た。

「あれから1年とちょっとかな?」

「…ああ、もうそんぐらいか。」

「早かったね。」

「ああ、そうだな。」

かけるがそう言うと、ココは夜空を見上げた。 透き通る空気が星の輝きを際立たせている。

「かけると出会って、マリちゃんと会って、ゆみちゃんと会って… 本当に良かった。」

「…俺もだよ。」

「本当に楽しくて…こんな毎日が、この星空みたいな輝きがずっと続けばいいなって思ってる。」

ココはそう言うと、目線を下に落とした。

「一生雲がかからなきゃいいのに、って思ってる。」

かけるは、地平線を見つめるココを視界に入れながら言った。

「雲はかかるさ、雨だって降る。 …だけどまあ…その時は3人でてるてる坊主でも作ればいいさ。」

不器用な笑顔をつくるかけるを見て、ココは息を吸い込んだ。

「…かける…。」

ココは立ち上がった。そして、かけるを置いて家へと歩きだした。

「おい、戻んのか?」

かけるは振り返ってココを見た。 ココは返事をしないまま、1歩また歩いた。

「ねえ、かける…」

ココはそう言うと、くるりと体をこちらに向けた。 花なのか、ココなのか、とてもいい匂いがした。

「…好きだよ。 かける。」

月明かりがその微笑みを美しく照らした。

ココは唖然とするかけるを身収めると、おやすみ、と言い残してそそくさと家へ戻っていった。

カスミソウの花畑にポツリと1人、かけるは取り残されたのだった。

少女の思いを受け止めて。



翌朝

かけるは目をこすりながら時計を見た。 午前9時すぎくらいを指している。

かけるは顔を洗うと、鏡に映る自分を見て思った。

…気まずい…!

昨日のあれって、告白というやつだよな?愛を伝えるってやつだよな? …全然気づかなかった。 まさかココが俺のことを…

かけるははっと我にかえり、頬をつねった。

そんなことを考えるな、俺!落ち着け! 今からまた顔を合わせるんだぞ!?いちいちそんなことを考えてたら、一言も喋れなくなるじゃねえか!

かけるは再び水を顔に打ちつけ、タオルで拭くと、深呼吸で心を落ち着かせココたちの部屋へ向かった。

扉を開けると、ベッドに眠るマリが目に入った。かけるはふう、とため息をつくと、声をかけた。

「もう9時だぞ、そろそろ起きろ。」

すると、マリがだるそうに起き上がってきた。 昨日の遊園地で遊び疲れたのだろう。

マリは目をこすると、かけるに尋ねた。

「ねえ、ココちゃんは?」

かけるは黙り込んだ。確かにココがどこにも見当たらない。庭にいるのだろうか。 それともどこかへ出かけたのだろうか。

かけるは辺りを探したが、結局ココは見つからなかった。 そのうち戻ってくるだろうと思い、ベッドタウンまでは行かなかった。

しかしその日、ココが帰ってくることはなかった。

次の日も、ココは現れなかった。

次の日も、その次の日も…


ココが帰ってくることはなかった。







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