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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
バブルフラワー編
13/27

君に贈る花言葉



「ゆみちゃんがね… ウソ言って、…ごめんね。 …って…。」


沈黙が、部屋を支配した。

かけるとココは、動揺で扉の前から動けなかった。

真由美…さん…?

かけるは黒目だけを動かし、ベッドに横たわる女性を見た。

真由美は、相変わらず眠っているかのようだ。

ドスンと、ココは崩れ落ちた。 目には涙が溢れている。

「そんな… うそよ…」

ココが嗚咽をまじえながら泣く横で、かけるは呆然としていた。 様々な感情が脳内を駆け巡る。 だが、確かに分かっていたことがあった。

手遅れだったということに。 自分は、真由美さんの最後の言葉さえきけなかったということに。 自分の、腹が立つほどの無力さに。

ー 真由美は、もう笑わないということに。

すると、椅子に座っていたマリが、ゆっくりとこちらを向いた。

マリの胸に、小さな本のような物が見えた。 その震える手が握っていたのは、日記帳だった。

マリは黙って手を伸ばし、かけるとココの方に日記帳を向けた。 ココはそれを受け取った。

「日記……なの…?」

マリはこくりと頷いた。

日記帳には、カスミソウの花がはりつけてあった。

かけるはそれを見て、目を見開いた。 確かに見覚えがあったからだ。

ココは、少し古びたその日記帳を開いた。


4月20日

今日から日記をつけることにした! ケイジには、また3日坊主でしょ?って言われたけど、私、今回はいけそうな気がするの! というわけで、明日から頑張るぞお!


そこには、何気ない毎日がありのままに連ねられていた。ココは、さらに続きを読んだ。


4月22日

今日は、常連の鈴木さんが花を買ってくれた! 鈴木さんは年寄りだけど、バラが好きなの! なんか素敵!


5月10日

今日初めて、ベッドタウンに行った!ケイジは最初嫌がってたけど、なんだかんだで楽しんでたみたい! また行きたいな! それで、次こそは一つ目ウサギゲットしてやるんだから!


日記は、最初の1ヶ月は毎日かかれていたが、ケイジの予想どうり、徐々に日にちがまばらになってきていた。 だが、楽しいことや特別な日には欠かさずつけているようだった。

「これ…って…」

ココはたまらず口もとを手でおおった。次から次へと悲しみがこみ上げてきたのだ。

ココはそれでも頁をめくった。


8月20日

今日はまたベッドタウンに行った! そしたら、白髪の男の子が泣いてたの! なんかほっとけなくて、連れて帰った。 男の子は心に深い傷を負ってるみたい。 だから、私は決めた。

今日からこの子を育てる!


かけるは歯を食いしばった。 その文字が、その言葉が、2年前までの記憶を鮮明に浮かび上がらせる。

「 ー ねえ、立てる?君。」

確かに、彼女はそう、言ったんだ。


9月1日

やっと喋った! 今までずっと黙り込んでて、不安だった〜!だけど、今すごい感動してる! そうだ、今日を誕生日にするのはどうかな? あ、それで名前も決まった! 名前は、かける。 名前つけたの初めてだ! じゃあかけるは、私の息子になるのかな? なんか、嬉しいな。


「ねえかけるー!」

「あ…えーと…」

「なあに戸惑ってんのよ!かけるはあんたよ、かけるはあんたしかいないの。さ、胸はって!元気良く〜! ヤッホー!!」

「…やっ…やっほう…」

目を泳がすかけるを見て、真由美はくすりと笑った。


12月5日

かけるの意外な長所を発見。あいつ、めっちゃ頭いい! 今日だけでゲーム30連敗よ! こりゃ、将来はベッドタウンで荒稼ぎだ! なんちゃってね!


「かける…今あんたわざと負けたでしょ!」

「げっ、なんでわかっ… じゃなくて、わざとじゃないって!」

「うそばっか!ていうか、うそ下手すぎ! 全く、今のは負けに入れないからね!」

「真由美さん…勝ちたいのか勝ちたくないのかどっちなんだよ…」

「むきー! もう一回よ!」

「ええー…」


8月24日

銀髪に染めた。 ケイジはドン引きするし、かけるはなんとも言えない感じだったし…失敗? いいわよ、これはイメチェンよ!イメチェン!


「ねえねえかける〜」

「な、なに?」

「私のこと、お母さんって呼ばないの?」

「よ…呼べるか!そんな… だいいち、ほんとの家族じゃねえし…!」

「えー、いいじゃんー!お母さんって呼んでよー!」

「もうー!あっちいってくれ!」


11月18日

最近、胸が苦しい。店も、そのせいであまり出れてない。 早くなおんないかなー。


12月12日

3日前に、私倒れたみたい。気がついたらここにいた。 まだ、胸のあたりがズキズキする。 でも、私は家に帰る。 ここより、家の方が花とかいっぱいあるし、気が楽だもん。


「ねえ、かけるはどんな花が好き?」

「えっ、いや…俺、花そんな詳しくないし…」

「そっか… 私はね…カスミソウが好きなの。」


12月20日

かけるが突然いなくなった。 どうして?どこに行っちゃったの? 何してるの?

帰って、来るよね?


「カスミソウ? あの地味なやつ?」

「うん。」

「なんで? もっときれいな花たくさんあるじゃん。」

「うん、そうなんだけどね、私はこの花が好き。」


12月21日

かけるが出て行った後、ケイジもいなくなった。 つらい。

かけるもケイジもちゃんとご飯食べてるかな。どこかでケガしたりしてないかな。 寒い思いをしてるんじゃないかな。早く、帰ってこないかな。


「確かに地味かもしれないわ。でもね、カスミソウを添えると、花束はとても綺麗に仕上がるの。 他の花の花言葉をいっそう輝かせるの。」

「ふーん…」

「それに、カスミソウにも花言葉はあるのよ。」

「…どんな?」


12月24日

私は、病気を治すことに決めた。 医者の人に来てもらう。 それで、2人を笑って迎えるの。病気はウソでしたー!って。 だから今は耐える。 そして、待つよ。


その時、ドアの方から強い秋風が吹き込んだ。そして、かけるの右手に握られていた袋が、バサリと宙を舞った。 中身の粉が夕焼けのオレンジに反射して、光った。 粉は窓の外に飛び出し、殺風景な庭に散った。

かけるはその出来事に目もくれなかった。ただ、漠然と日記帳を見ていた。

ココが日記帳の最後の頁を開いた。そこには、今までとは比べものにならないほどきたない字で、何かがかいてあった。読もうとしても、なかなか読み取ることができない。


「カスミソウの花言葉はね…」


その時だった。庭から芽が出たかと思うと、その芽は急速に成長し、あっという間に花を咲かせた。

かけるはそれに気付き、外を見た。

そこには、信じられない光景が広がっていた。 カスミソウが、咲いていたのだ。

「なんだよ…これ…」

カスミソウは庭だけにとどまらず、辺り一帯を白のベールで包み込んだ。夕方が、真昼のように明るくなって、輝いた。

まさか…あれは秘薬なんかじゃなくて…

真由美さんは最初から助かる気なんかなくて…

ただ… 伝えようと…


「…花言葉は…」

記憶の真由美は、微笑んだ。

「 … ありがとう、よ。」


日記の最後の言葉は、真由美の純粋な気持ちだった。それはまさしく、花束を彩る美しいカスミソウそのものだった。

日記帳の最後のページにかかれた文字が「ありがとう」であると気づいた時、かけるの目から涙がこぼれ落ちた。

すすり声も発さず、かけるはただ涙を流した。

「ふざけんじゃねえ…」

かけるはそうつぶやいた。

「…かける?」

「ふざけてんじゃねえぞ!!」

かけるは部屋を飛び出した。そして、外に出た。カスミソウの海に、お構いなしに飛び込んで行く。

「かける!」

ココは涙を吹きながらかけるを追った。

かけるは、カスミソウを勢い良く引き抜いた。

「…なにが ありがとうだ! …なにが ごめんだ…! 勝手なこと言ってんじゃねえぞ! 言いたいだけ言って、にげてんじゃねえよ! ちくしょう…!」

「かける…」

かけるはカスミソウを狂ったように荒らし続けた。

「うっ…… 分かってる! 全部俺が悪いことぐらい!うう…… 今さらどんな顔で会えばって、臆病だった自分のせいってことぐらい! くっ…解ってたんだよ!」

「…」

ココは、息をきらせて叫ぶかけるを見て、動けずにいた。

「なあ…ココ…」

「…?」

「…俺を殴ってくれ。…思いっきりだ。 記憶がなくなってしまうぐらい… じゃないと俺は…!」

その言葉を聞いて、ココは再び涙を流した。

拳を握りしめ、かけるに近づいていく。

そしてココは、ありったけの力でかけるを抱きしめた。

「…こ…こ……?」

かけるは目を見開いた。

「お願い… もう自分を責めるのはやめて…! ゆみちゃんが、どんな思いでウソをついたと思う? この花全部ゆみちゃんの思いじゃない! かけるがそんなんでどうするの…! だからお願い…!」

ココは顔をうずめた。

「ゆみちゃんに…さよならって…言って…!」

風が、再び強く吹いた。一面のカスミソウが傾き、美しく整列した。

「…ココ…」

「ごごぢゃあーん!!がげるぅー!」

そう叫んで飛び込んできたのは、マリだった。顔は涙でぐちゃぐちゃだ。

「うあぁぁぁん!!」

どうやらマリは、必死に堪えていたようだった。悲しみを一気に爆発させるように、マリは大声で泣き続けた。

その姿を見て、かけるは涙をふくと、マリの頭を優しく撫でた。


三つの影が、白い海に浮かんでは、消えた。辺りは暗くなってきていた。

ココとマリは、それから一時泣き続けていた。 抱き合って悲しみを分かち合う2人を見て、とっくに泣き止んでいたかけるは空を仰いだ。

星が輝いている。真由美さんも、今頃はあそこにいるのだろうか。そして、俺たちを見守るのだろうか。 どっちにしろ、真由美さんはもういない。 俺たちは生きていく。それだけは確かなんだ。

かけるは、疲れてベッドに寝てしまった2人を確認すると、1人で外に出た。 墓をつくるためだ。 かけるは、ココとマリは見ていない方がいいと思ったのだ。

少しもりあがった土の上に、かけるは大量のカスミソウを添えた。

…俺は勘違いしてたみたいだよ、真由美さん。俺には家族がいて、明日も一緒に笑いあえる奴らがいる。 一緒に泣きあえる奴らがいる。だから約束するよ。俺は大切な人を守るために生きる。 ケイジだっていつか助けてみせる。 …それでいいだろ? だから…あのさ、…

冷たい風が、かけるの髪を揺らした。

かけるは微笑むと、そっと墓にささやいた。


「ありがとな、…ー 母さん。」





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