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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
バブルフラワー編
12/27

ロイヤルストレートフラッシュ

「あいつは…化け物か…?」


バベルの塔 1階

裸の男は、そう嘆いた。

ペテン師? そんな生易しいもんじゃねえ。確かに、最初に来たメガネの男も、アホっぽい女も強かった。 だが、あいつはその比じゃねえ。なんなんだ。ありえねえ。あいつは…あいつは…

この街にいるべき人間じゃない…!


ウソ…だろ…?

ケイジは硬直した。

なぜストレートフラッシュが出てくる!?不可能だ! 僕はあらゆるイカサマの手段を把握している。 奴はそれをするどころか素振りすら見せなかった! ならどうやって!? まぐれだったのか!?

「続けるんじゃなかったのか?ケイジ。」

かけるがそう言うと、ケイジは拳を握り、かけるを睨みつけた。

「くっ…!やるさ…!」

落ち着け… あと一勝で俺の勝ちなんだ。その事実は動かない。 今のをどうやってしたかは分からないが、何度も出せるような簡単なゲームじゃない。できれば、それこそイカサマだ。 この勝負…必ず勝つ。

カードが場に出た時、ケイジは目を見開いた。


スコア 5ー3


また…ストレートフラッシュだと…!?なぜだ…! くそっ…!

狼狽するケイジは、かけるを見た。かけるは黙々とゲームをこなしている。

かけるの快進撃は、さらに続いた。


スコア 5ー5


負ける…。 このままでは、僕は負ける。

一生牢獄? 負ければ? 僕が? 負ける? 敗者?

いやだ。

いやだいやだいやだいやだいやだ

ケイジはメガネをゆっくりと外した。

そして、それを地面に落としたかと思うと、勢い良く踏みつけた。 メガネは、金切声のような音をたて、割れた。

負けるもんか。

せめて、引き分けにでも…!

ケイジは、手札をギロリと睨んだ。

その時、ココは異変に気付いた。

あっ! …今…!

ー イカサマをした!!

常人ならば気づくはずもない小さな異変だったが、ウソを見抜くココにとって、危険をおかしてイカサマをするケイジは、明らかに違った。

「かける!」

ココが叫んだが、かけるはうつむいたままだ。

「かけるってば!!」

ココが何度呼んでも、無駄だった。

そしてついに、ゲームは終わろうとしていた。

「僕が…負けてたまるかあああああ!!」

ケイジの雄叫びと共に、最後の勝負は終わりを告げた。

ケイジ側のカードは、黒いスペードに染まり、かつ数字が美しく並んでいた。

このまま、引き分けになるかに思えた。

少なくとも、ケイジはそう確信していた。

しかし、結果は違った。

ケイジは膝をついた。原因は、その目線の先にあったカードだった。

5枚のカードは、数字が10〜Aに並んでおり、ダイヤが整然と揃っていた。

それはまさしく、ロイヤルストレートフラッシュだった。

あ… あ……

うそだ…

ケイジは必死に口を動かしたが、しばらく声が出せなかった。

ウソだ! なんで! ありえない!!

こんなことが…

「…違う!」

ケイジはやっとのことで言葉を発した。

「ウソ…なんだろ? またお得意の… なあ…そうだろう?」

ケイジは息を荒くして言った。

「…そうだ、イカサマか…!イカサマだろう!? なあペテン師!! お前、やったんだろう!?」

「やってねえ。」

かけるは、低い声で答えた。

「あ!?じゃあなんだ!マグレだってのか!? 」

「マグレじゃねえ。」

「じゃあなんだってんだよ!!」

ケイジは力の限り拳を叩きつけた。

その衝撃で、場のカードが散らばった。

ケイジは、表になったかけるの山札を見た。

ケイジは、目を見開いた。

かけるのカードの数字が、順番に並んでいたのだ。さらに、マークも統一されていた。

「なんだ…これ… てめえ…いつこんな…」

「6回の勝負の間に並べた。」

なんだ…と!?

まさかこいつ…!

ケイジは、敗因を悟った。

なんとかけるは、自然に手札が揃うように、勝負をさなかに山札を操作していたのだ。

確かに、6回でカードは最大60枚操作可能だ。勝負の後に手札を山札に戻す時、意識すれば並べることはできる。

だが…!!

シャッフルもあるんだぞ?もし全てのカードを順番に並べるなら、カード1枚1枚の居場所を全て把握し、かつカードがシャッフルでどこに移動したのかを把握し、記憶し、順番に並ぶように操作しなければいけないんだぞ!?

そんな芸当が…

ー 人間に…できるのか!?

ケイジの目が、白目の中をぐるぐると泳いだ。

そんな時、思い出したのは昔の思い出だった。

かけるとポーカーをした記憶 ー

僕はずっと、かける君はイカサマをしていたかと思っていた。

僕はずっと、そう信じていた。いや、信じたかった。

そうでないと、君は僕にとって、とても遠い存在になるから。

小さい頃の僕は、難しくは考えてなかったけれど、無意識にそうおもっていたのかもしれない。

かける君、君はいつだって…

僕の憧れだったんだ。


ケイジはフッ、と笑った。

その時、別の足音が近づいてきた。

かけるとココが振り向くと、そこには、受付にいた若い男が立っていた。

「決着が…ついたようですね。」

男は言った。

「ベッドされたものは‘人生’。ケイジ様には、それを払ってもらわねばなりません。」

その言葉を合図にするかのように、屈強な男たちが、ケイジを取り囲んだ。

身動きがとれなくなったケイジは、ゆっくりと顔をあげた。

「僕が…間違っていたと…思うか?」

「…」

「ハハ……どっちにしろ…僕はもう、あの家には帰れない。」

ケイジは、一滴の涙を流した。

「姉さんに…ごめんと伝えてくれ。」

かけるは唖然とした。

ケイジの雰囲気が、昔に戻ったような気がしたからだ。

「お…い…」

声をかける間も無く、ケイジは連れ去られていってしまった。



何度か転んだせいで、膝がすりむけた。だけど、あの家はもうすぐ ー

「…ついた」

マリは扉を開けた。花のような、良い香りが飛び込んでくる。

「…あら。」

真由美はマリに気付き、か細い声をあげた。

「おかえりなさい。」

その言葉に安心したのか、マリは目を潤ませた。

「ゆみちゃん…」

マリは横たわる真由美に飛びついた。

ベッドが、キイと小さな音をたてて揺れた。

「わたし…わたし…怖かった! すごく…怖かった…!」

「はいはい、もう大丈夫よ。私がついてる。だから…もう泣かないで。」

真由美が震える手でマリの頭を撫でると、マリは顔をうずめた。

「……嫌だよう。ゆみちゃんが死んじゃうの、嫌だよう。死なないでよう…!」

「大丈夫、大丈夫だから。」

冷たい風が、少しだけ開けられた窓から吹き込んでくる。秋特有の澄んだ空気の匂いが、部屋に広がった。

「…ねえマリちゃん、あそこの日記を…とってくれる?」

マリが日記を持ってくると、真由美はありがとう、と笑った。

真由美は、何かをかこうとしていたが、手が震えてなかなかかけずにいた。

マリが、手伝うよ、と声をかけようとした時だった。

真由美は、突然涙を流し始めた。

「ゆみ…ちゃん…?」

「ねえ…マリちゃん…。 かけるに、伝えて欲しいことが…あるの。」



「かける?」

うつむくかけるに、ココは呼びかける。

しかし、かけるは反応を示さなかった。

ココは口をハの字に曲げた。

「かける!いつまでそうしてるの!ゲームは終わったわ!だけど私たちにはまだ、やることがあるでしょ!」

ココの激励で、かけるはようやく顔をあげた。

「ああ…そうだな。」

かけるのぎこちない笑顔に、ココは思わずたじろく。

「俺はもう、1人じゃないんだよな。」

「そ…そうよ! わ…私だっているんだから!」

そう言って、ココは目を泳がせた。

「優勝、おめでとうございます。」

声の主は、あの若い受付の男だった。

「これは…つまらないものですが、バブルの塔では優勝者に渡すのが恒例になっておりまして…。」

差し出されたのは、手のひらサイズの袋だった。中を見ると、粉のようなものが入っている。

「あ、ありがとうございます!」

ココは袋を受け取った。

「じゃあ行くわよ!かける! ゆみちゃんを助けなきゃ!」

「ああ。」

2人は、バブルの塔を無事抜け出すことができたのだった。

時間短縮のために、2人はトレインに乗り込んだ。

「なあ、ココ。」

かけるは、窓の外を眺めながら言った。

「なに?」

「ええと、その…」

「 なによ〜、行って御覧なさいよお。」

ココはニヤニヤしながら、かけるの顔を覗き込んだ。

「その、い…いろいろありがとな。」

「…!」

「あの時、ココが殴ってくれなかったら、俺、勝手に1人で諦めてたと思うんだ。 絶対に無理だって。 だから…ココには感謝してる。」

ガタンと、車内が揺れた。

「あ…いや…別にそんな…!」

「…? なんで顔が赤くなってんの?」

「え!?ウソ! 顔に出ちゃってる!? …じゃなくて! ええと!これはその…息を止めてたのよ!」

「そうなのか?」

「そうよ!もう!うるさいわね!」

ココは拳をかけるの前に突き出した。

「おうおう!わかったわかった! わかったから、その武器をしまえ!」

ココはぷうと頬を膨らまし、そっぽを向いた。

かけるはため息をつくと、バブルの塔で得た袋に目を移した。

… この薬で…真由美さんは治るのか…。

治ったら…そうだな、まずケイジのことだな。 全部…話さないとな。 それと…どこかへ遊びに行こう。 ココとマリも一緒に連れて。 …またトランプとかもしたいな。 たまには負けてもいいかな。 そしたら真由美さん、喜ぶかな。 いや、あの人はすぐに気付いて、怒るだろうな。 ハハ、ココかっての。 …とにかく、元気でいてくれればいいんだ。そう、俺はただ ー

「かける、着いたよ。」

ココの声で、かけるは我にかえった。

「お、おう。今行く。」

まっとけよ、真由美さん、今行くから。


ガラリ、と扉を開く音がした。

カーテンが揺れ、心地よい音を響かせる。透き通るような冷たい風と、ため息をつきたくなるような香りが、部屋を通り過ぎて、消えた。

かけるの目に最初に映ったのは、イスにちょこんと座るマリだった。 マリは扉を開ける音に反応せず、こちらに背を向けたままだ。

「よかった。無事だったか。」

かけるは安堵の息をもらした。

かけるがベッドの方に目を移すと、美しい銀髪を枕に拡げる、真由美の姿があった。 真由美は目をつむり、じっと動かない。

「寝てたか。」

かけるは言った。

「かける…」

久しぶりに聞いたマリの声に、かけるは驚いた。 その声が、震えていたからだ。

「あのね、……」

マリは半身だけ、こちらに向けた。 ようやく見えたマリの右目は、涙で溢れていた。

「ゆみちゃんがね、…」

かけるは、硬直した。 心のどこかにしまっていた、ある感情が、再びかけるを襲う。

マリの目が、かけるの目をとらえる。 ようやくしぼりだした声は、小さく、儚いものだった。


「…ウソ言って、… …ごめんね。 …って。」








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