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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
バブルフラワー編
11/27

treachery

かけるが走っていく姿を見送った女は、ほほを緩めて言った。

「 あーあ、見捨てられちゃったわね、マリ。」

マリはまだうっすらと瞳に涙を浮かべながら、女の方をちらりと見た後、うつむいた。

「さあ、行くわよ。」

「いやだ。」

マリがそう言うと、女は面をくらって一瞬固まった。

「なに言ってんのよ!またお仕置きしなきゃ分からないの!?マリ!!」

「いやだ!!」

マリはくるりと進行方向を変えた。

「わたしはかけると行くの! 邪魔しないで!」

マリは走り出した。

女は最初唖然としていたが、やがて剣幕な表情で叫んだ。

「なにぼさっとしてんのよあんたたち!追うのよ!」

女の声で、男たちは慌てて走り出した。



「ハア…ハア…」

かけるは息をきらせて走る。ギリギリで乗り込んだトレインから降りたのは今から約10分前。 10分でかけるの体力はもはや限界に近づいていたが、スピードが緩まることはなかった。

なあ…

ココ。

俺、黙ってたことがあるんだ。

お前は気づいてなかったんだろうが…

お前…ウソが見抜けるんだろ?

最初はびっくりしたよ。そんなことあり得ないってな。 でもそれは違った。 やっぱりお前はウソを見抜くことが出来て、俺は少し嫉妬したよ。

おまけにお前はすぐ殴るし、自分の意見は曲げないし、自分勝手だし… ほんと、ムカつく奴だよ。

それなのに…なんでかな…

今はそれ以上に…自分にムカついてんだ。


コンクリートに、かけるの汗が落ちて、じわりと広がった。



「もう…おわりみたいだね。」

ケイジは、残りの賭布が下着だけになってしまったココに、見下すように言った。

ココは下唇を噛んだ。

なんで…なんでこの人… ウソが分からないのよ… これじゃあ、勝てっこないじゃない。どうしよう…

「君の力は素晴らしい。上手く利用すればこの街の頂点に立つことだって可能だ。 …そうだ。君、オネストに加わらないかい? 報酬ははずむよ? どうだい?」

「バカなこと…言わないで。」

「ハハ。強気だねえ。」

ケイジは大げさに笑ったあと、急に顔つきを変えて言った。

「実際、ペテン師は君をうまく扱えていないじゃあないか。僕なら上手く扱える。君を有効に活用できるんだ。 それとも? かけるくんが助けてくれるとでも?」

「かけるは来ないわ。」

予想外の返答にケイジは思わず眉をひそめた。

そう…かけるは来ないのよ… 自分で何とかしなきゃ。 決めたじゃない。1人でゆみちゃんを助けるって。

ココは体操座りをしたまま、力を入れる。

ココは、自分の目が少しずつ潤んでいくのを感じた。

あれ、なんで… 目が…おかしいな…

ケイジは気持ちを表情に出さず、動きを止めた。

かけるは来ない、だと!? どうなっているんだ。いや、今部下がペテン師に接触しているはずだが…

もしペテン師が本当に来ないのなら…

「もう、要らないな。」

ケイジはうずくまるココに目を向けた。

「君はもう負ける。君は敗者だ。僕に従わなければならない。 こっちにくるんだ。」

ケイジが一歩、ココに近づく。

ココは、ケイジの冷徹な表情に恐れを感じた。

ココの視界が涙でかすむ。

だめよ…泣いたらダメなんだから…。 賭布はまだあるわ。勝負は終わってない。 立たなきゃ。 勝って、万能の秘薬をもらって、ゆみちゃんの病気が治って ー

だから… 立たなきゃ…

ー いけないはずなのに。 どうして… 体が動かないのよ…!

どうして私は ー

ケイジがまた一歩、近づこうと足を踏み出した、その時だった。

バブルの塔の最上階に、衝撃音が響き渡った。

ココとケイジは、反射的にその音の原因である方向を見た。

そこには、扉を蹴飛ばしてたたずむ1人の少年がいた。

ココの瞳がその少年を捉えた瞬間、せき止められていた涙が重力に耐えきれず、頬を伝った。


「 なんで来ちゃうのよ…バカ。 」


かけるは息を切らせながら言った。

「ハア… バカはどっちだ…バカ。」

かけるはココに駆け寄り、華奢な肩をつかんだ。

「なんで1人でこんなとこ来てんだ! お前、賭け事は苦手だろうが!! なのに、なんで…!」

なのになんで…俺はあんなことしてたんだ。 謝らないと…ココに… 俺は…


「ごめんね。」


そう言ったのは、ココだった。

かけるは狼狽した。

「あんなこと言って、ごめんね。」

「な!何言ってんだ! なんでお前が…!」

かけるはココの肩から思わず手を離した。

その時、かけるはある異変に気が付いた。

ココをよく見ると、服を着ていない。

ー ん?なんでこいつ、下着しか着てないんだ…?

「だけど、かける…あんたは…」

はい!とかけるは返事をする。

ココはゆっくりと顔をあげた。顔を真っ赤にして、少し涙ぐんでいる。

かけるは少しのけぞった。しかし、既に遅かった。

「いつまでじろじろ見てんのよ!!ばかァ!」

ココのパンチで、かけるは勢いよく吹っ飛んだ。かけるは危うく、意識を失ってしまうところだったが、なんとか踏みとどまることができたのだった。

「結局殴られるのか…」

かけるはうんざりして赤く腫れ上がった頬をさすった。

するとその時、かけるの中にある疑問が生まれた。

「そういえばお前、人質だったんじゃ…」


「来ると思っていたよ。」


かけるはその声を聞いた途端、はっとした。

目線を移した先に立つ見慣れた男は、眼鏡を持ち上げた。

「随分、長い道のりだった。」

ケイジ ー !?

ケイジはニヤリと笑った。

ケイジがなんでここに…


マリの仲間… オネスト …

リーダー… 人質 …


そうか。ケイジ。お前だったのか…

かけるは状況を理解した。

「お前が… どうして…!」

かけるは眉毛を八の字に曲げた。

ケイジは背を向けて、メガネをあげると、低い声で言った。

「ようやく、君と闘れる。」

「おい!聞いてんのか!?」

「黙れ。」

ケイジはかけるを睨みつけた。レンズ越しに見えるのその目には、暗くて鈍い光が宿っていた。

「姉さんを、助けたくないのか?」

「てめえ…」

かけるは立ち上がった。

「かける!」

ココは耐えきれず叫んだ。かけるが

、怒りというより戸惑いの目をしていたからだ。

「大丈夫だ。俺がゲームで勝てば、それで済む。」

かけるは、下の階で拾っていた上着を、ココに投げた。

ー ウソだ。

ココは直感した。

かけるの奴、すごく動揺してるじゃない!闘っちゃダメよ!

「さあ、始めよう。」

ココの願いも虚しく、ケイジがゲームの段取りを進めていく。

「ルールは同じにするが…どうだい?あれにしないかい?」

「あの時の…ポーカーか…?」

「そう!11本勝負のあれさ!懐かしいなあ!僕は結局、一回しか勝てなかった。」

ココはその言葉に一驚した。

この人かけるに勝ったことがあるの!?そんな…

「そして賭けるものは服なんかじゃない。」

ケイジは口角をあげた。

「 ー 人生だ。」


ゲーム スタート


ゲームは序盤から傾きをみせた。

1戦目、ケイジ、スリーカードで勝利。

ケイジ、1ー0

2戦目、ケイジ、フラッシュで勝利。

ケイジ、2ー0

3戦目、ケイジ、フラッシュで勝利。

ケイジ、3ー0


「あ…ありえないわ!こんなに連続で揃うなんて!イカサマよ!」

ココは思わず叫んだ。

「かける!ねえかけるってば!」

「 ん…ああ。」

かけるは、はっとして顔をあげた。

「しっかりしてよ!このままじゃ負けちゃうじゃない!」

「え…うん。 大丈夫だ…。」

全然大丈夫じゃないじゃない!かける、完全に動揺しまくってるじゃない!どうしよ〜!

「邪魔をしないでくれるかな、ココさん。」

あまりに穏やかな声に、ココは思わず身ぶるいした。

「これは、僕たちのゲーム。幾年も続く、終わりなきゲームに今、決着がつこうとしているんだ。 黙って見守ってやってくれないか?」

「ケイジ…お前は…」

「かけるくん、覚えていますか。」

ケイジはかけるの言葉を遮るようにして言った。

「君は僕に、ポーカーを教えてくれた。全て、君のおかげですよ。 なにもかも…」

君の せいですよ …。



僕は幼い頃から弱気な正確で、外に出ればよくいじめられた。

その度に姉さんがきまって相手をボコボコにしてしまうのだった。

僕は外出を控えるようになった。たまに姉さんとベッドタウンに行くこともあったが、基本は家に閉じこもり、花の世話をしたりしていた。

そんなある日、かける君は家に来た。

最初、かける君は僕にどことなく似ているなと感じた。

だけど、日が経つにつれて、それは違うんじゃないかと思うようになった。


「ケイジ、ポーカーって知ってるか?」

「ポーカー?知らないなー」

「んじゃ、教えるから一緒にやろうぜ。」

かける君は僕にポーカーを教えてくれた。

その後のゲームで、僕は何度も負けた。

次のゲームで、僕は何を思ったのか、ずるをした。

言うまでもなく、僕は初勝利をおさめた。

「すげえ!ケイジ!強いじゃん!」

僕は罪悪感に見舞われながらも、少しばかりの優越感を感じていた。

僕は、勝利の味を知ったのだ。

その勝負を最後に、かける君とポーカーをすることはなかった。

そして別れの日は、突然訪れた。

姉さんが倒れたのだ。僕は何をすればいいのか分からず、ただ姉さんの部屋をうろついた。僕は無力だった。そしてそれを痛感した。

そんな時、かけるは違った。かけるは、大金を抱えて帰ってきた。姉さんの治療費だと言って。

そしてその時、僕の中で、張りつめていた何かがぷつりと音をたてて切れた。

僕は走った。叫んだ。走った。

なんでいつもあいつなんだ。なんでいつも僕は役立たずなんだ。才能なんて、なければいいのに。皆、凡人だったらいいのに。

走れなくなり、僕はコンクリートに倒れこんだ。

涙も声も枯れた。僕はこのまま死ぬんだ。そう思って、目を閉じた時だった。

「君はなぜ、絶望する?」

誰かの、声がした。


僕は、命を拾った。

命の恩人は、僕が回復するとどこかへ行ってしまった。 …ある一つの情報を残して。

ー ペテン師と名乗る男がいる。と。

その人物がかけると知った時、僕は高揚した。

ペテン師を倒すことで、僕は地位を獲得できる。社会にも認められるんだ。

僕はイカサマを極めた。1人の男を倒すために。 いつしか僕は作り笑いしかできなくなった。涙も出なくなった。 完全なるポーカーフェイスを手に入れたのだ。 僕は無敵だ。 ペテン師などもう、目ではない。

それを今日、証明してやる。



4戦目、ケイジ、フラッシュで勝利。

ケイジ、4ー0


僕は、イカサマを使えばポーカーで負けることはない。 フラッシュなら、ほぼ100%ばれずに仕組むことが可能だ。無論、難易度は上がるがフォアカードまでなら高確率で当てることができる。

今の時点で既に4勝。あと2勝で勝利は確定だが… 念には念だ。奴がイカサマを最後までできないようにしてやる。

ー ここであえて負ける。


5戦目、かける、ツウペアで勝利。

ケイジ、4ー1


…どうやら本当に意気消沈しているらしい。

…ペテン師かける…

「僕の気持ちを教えてあげるよ。」

ケイジは言った。

「僕は昔から…君のことが大嫌いだったよ。」

かけるは目を見開く。

「君が憎くてしょうがなかったよ。 殺してやりたいほどだった。 そして今、その願いが… 叶いそうだ。」

カードが場に揃い、一斉に表に変わる。

ケイジのカードは再び、一色に揃っていた。


ケイジ、5ー1


ー 次で、僕の勝ちだ。

ケイジは場のカードを見て、鼻で笑った。

はは。あっけないものだったな。 そうだ、次はフォアカードにしてやろう。 冥土の土産ってやつだ。

「さあ、続けようか、かける君。」

ケイジは慣れた手つきで、手札を入れ替えた。あっという間に、フォアカードが手札に揃った。


「昔、俺に家族ができたんだ。」


そう言ったのは、かけるだった。

「家族は、優しくて、温かくて、安心できた。」

「……」

「そしてお前は、俺の大切な家族だ。」

「何を言っているんだ、君は。」

「だから、俺は待つよ。」

「黙れ!僕はお前と家族なんかじゃない!それに、お前はここで消えるんだよ!」

ケイジは手札のカードを叩きつけた。

「ハハハ!お前の負けだあ!ペテン師ぃ! 早く、その手札を見してみろ!あぁ!?」

かけるは手札を置いた。

「どんなに時間がかかってもいいんだ。それでまた一緒に笑いあえることができるなら ー 」

「終わりだぁ!!」

カードが一斉に、裏返った。

フォアカードが、揃っていた。

そしてそれと向き合って置かれるカードは、ハートに染まり、数字は美しく並んでいた。

ケイジは、唖然とした。

ー ストレート…フラッシュ…!?


「一生かかったって、待ってやる。」



スコア、5ー2




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