僕のウソを、見抜けるか
ココは動揺を隠せなかった。
「ケイジさん…?」
ケイジは再びメガネをあげた。
「久しぶりだね、いや、2日ぶりくらいか。」
ココは思わず目をそらした。
ケイジさんとは花火大会の時に会った。もしかして、ケイジさんも秘薬を探しに来たのかな。
「ケイジさんも、秘薬を?」
ケイジは答えなかった。
奇妙な静けさが、塔の最上階に広がった。
ココはケイジの態度に少し違和感を覚えていた。しかし、それは違和感というより猜疑心に近かった。
ココがじっとケイジを見ると、ケイジは口元を少し緩めて言った。
「 君は最近、不幸なことはなかったかい?」
「え?」
「いや、不幸ではないかい?の方が正しいな。」
ケイジさんは一体、何を言ってるの…?
「僕はそんな不幸を取り除くため、2年前ある組織を立ち上げた。」
ケイジはココを見下すような姿勢で、言った。
「組織の名は…オネスト。」
かけるは勢いよく宿から飛び出した。
待って!と言いながらマリもかけるの後に続いて外に出た。
かけるは太陽の光に思わず目を細めた。
眩しさの割りに、辺りは肌寒い。
かけるがうんざりしてマリから逃げようとした時だった。
「見つけたわ。」
その声に、マリは凍りついた。
声の主は、細身の身体に、目の下にクマを携えた女だった。
女は、何人かの男を引き連れていた。
かけるはその女に、若干見覚えがあった。
こいつは確か…
ああ!カーチェイスの時の… マリの元仲間だ。
記憶を手繰り寄せた末に思い出すことに成功したかけるは、女に尋ねた。
「何の用だ。マリはもう、てめえの仲間じゃねえだろ。」
「仲間? 笑わせないで。 私たちは、そんなくだらない関係じゃないわ。もっと、かったい絆で結ばれてんのよ。 ねえ、マリ?」
マリはうつむいて黙り込んだ。
女はちっ、と舌打ちをすると、さらに続けた。
「まあいいわ。どっちにしろ、あんたらに選択権はないわ。」
「…どういうことだ。」
かけるが尋ねると、女は薄笑いを浮かべて答えた。
「あんた…もう1人連れがいたわね。 バベルの塔行ったそうじゃない。」
「…!?どうしてそれを…」
「私たち、オネストのリーダーが、その子を人質にとったわ。」
なん…だと…!?
かけるは一瞬狼狽の表情をみせたが、すぐに平静を取り戻し、尋ねた。
「…目的は何だ。」
フン、と女は鼻で笑った。
「そんなこと、知るわけないわ。」
「オネストの目的は…」
ケイジは無表情で言った。
「…ペテン師かけるの排除だ。」
ドクン、とココの鼓動が高鳴る。
か…ける… の はいじょ…?
「ペテン師は、僕が潰す。」
ケイジはさらに追い打ちをかけるように言った。
ココはあまりに突飛な話に、しばらく口をきくことができなかった。
… だって…家族でしょう!?
血は繋がってなくても、兄弟だったんでしょう!?
かけるの過去を話してくれた時だって、大切なんだなって、思ったのに…!
そんなの…それじゃあずっと…
かけるを騙してたの?
ココはケイジを睨みつけた。
「かけるの話、ウソじゃなかったんでしょ?」
「ああ、本当だよ。」
「ゆみちゃんの病気のことも?」
「真由美のことか。それも本当だよ。」
「…それを聞いて、安心したわ。」
どうしてだい?とケイジが首をかしげる。
「2人が本当のあんたを知らないうちに、私がぶっ潰すからよ。」
ほう、とケイジは不敵に笑う。
「後悔しますよ。子猫さん。」
ゲーム スタート
ー 私がここまで上がってこれたことには理由があるのよ。
ココは、目の前に置かれた山札に視線を落とした。5枚のカードを上から順にひく。そして、再び顔を上げた。
ポーカーで勝負をしてきて、気付いたの。私は、相手のカードの強さがだいたい解る。カードの中身まではわからないけど、なんとなく勝てるのか、勝てないのか解るの。 そのおかげで私は今のところ無敗よ。 ゆみちゃん、それとまあかけるのためにも、この勝負は絶対負けられないんだから!
両者がカード交換を終えた後、 ココは早速ケイジの顔を観た。
…たぶん、私の負けね。
「賭布、2枚。」
ココは最低枚数を宣言した。
「あはは、あまり自信が無かったのかな?いいよ、コールだ。」
両者の手札が場に出た。
ココの手札はツウペア。ケイジの手札もツウペアだった。
しかし、数字の関係で1ターン目の勝者はケイジとなった。
ココの服の一部が、穏やかな光を放ったかと思うと、割れるようにして空中に消えた。
…いけるわ。さっきの人たちみたいにすれば、この人も確実に…
2ターン目が開始された。 2人のプレイヤーはカードを5枚ひき、好きな枚数を手札と交換した。
ココはケイジを再び観た。
…次はたぶん勝てるわ。
ココは確信した。
「…じゃあ、僕は7枚。」
ケイジは言った。
やっぱり、あんまりいいカードじゃなかったのね。ここで勝負をかけてもいいけど… 賭布が多すぎたらこの人が勝負を降りるかも…
「…レイズ。10枚。」
ココが賭布を引き上げると、ケイジは少し考える素振りを見せたあと、言った。
「コール。」
よし、とココはうなずいた。
これでとりあえずは逆転ね。
ココは自分の手札を表にした。ココはスリーカードだった。
「ハハハ。」
ココのカードを見たケイジは声をあげて笑った。
「すごいね、君は。 まさかとは思っていたが、本当にそうなのか。」
ココはケイジを睨みつけた。
「何がおかしいのよ。」
ケイジは、笑いをこらえるように手で顔を覆った。
そして、手札を広げた。
5枚のカードが、ハートでそろっていた。
ココは目を見開いた。
ー フラッシュ!?
「 ー 君はどうやら…ウソが見抜ける体質のようだね。」
…え……!?
「僕は最初から君の闘いを見ていたんだよ。すると君は、驚くことに圧倒的大差で敵をなぎ倒していくじゃあないか。 注意して見ても、イカサマはしていない。そうすると考えられることは自ずと限られてくる。」
ココは唖然としていた。焦点が定まらず、白目の中をさまよっている。
「常識では考えられない、不思議な力である、とね。」
不思議な力!?
ウソを見抜く!?
私が………?
考えをまとめる間も無く、パリン、と割れるようにココの服が消える。 賭布30枚中の12枚を失い、徐々にその白い肌が露わになる。
『じゃあなんで自分に嘘ついてるの?』
『ええと、偽物かも?』
『ひとり、わたしひとりなの』
『嘘をついてる。 ー だろ?』
自分のことなのに、全然気づかなかった。
私は…ウソが解るんだ。
ココは場のカードを見た。目をつむり、ふうっ、と息をはいた。
「まだポーカーは終わってないわ。続けるわよ。」
ケイジは口角をあげた。
「フフ、そうでなくては。 せっかく素晴らしい力があるのですから。勿体無いですよ。」
ココは自分の手元にあるカードに目を移した。
さっきは負けちゃったけど、次は大丈夫よ。もっとよく顔を見れば大丈夫。 まだ…勝てるわ。
ココはじっとケイジの顔を観た。
もっと…もっと…
もっとよ…
………たぶん…あの表情は不安。
誤魔化してるけど、確実に不安ね。
「賭布、10枚よ!」
「コールだ。」
ケイジは自信満々の表情で言った。
…この表情を何度見てきたことか。
バブルの塔の人たちは皆、手札は弱いくせにこんな顔をするの。だけど私はそれを見破ることができた。
だって私は ーウソが解るもの。
10枚のカードが一斉に場にでた。
ココは場に目を移した。
しかし、そこに予想通りの結果が広がっていることは無かった。
ケイジの5枚のカードが、黒い、クローバーで染まっているのを、ココは見た。
ココは崩れ落ちた。
「う…そ…でしょ…?」
また…フラッシュだなんて…
「君はウソが解る。それは認めるよ。」
へたりと座り込むココに、ケイジは言った。
「現にその力で、ここまで勝ち進んできたんだ。」
ケイジは、カードが散らばったテーブルに手をついた。
「だけど、君は負ける。」
ケイジはニヤリと嗤った。
「自分も、大切な人も守れずに、ね。」
くそっ…俺は…
かけるはぎゅっ、と拳を握った。
ココが人質だと… あいつ、何してんだ…! しかも、マリを渡さないと人質を殺すだなんて…
俺は一体、どうすれば…
「さあ、その子を渡しなさい。 抵抗しなければ、悪いことはしないわ。」
女はそう言って、一歩近づいた。
かけるは、後ろで微かに震えるマリが自分の服を強く握りしめるのを感じた。
「かける、ココちゃんのとこ 行って。」
かけるははっとした。
「おい!今はそんなこと言える状況じゃないだろ! 逃げるぞ!」
「さき、行ってて。」
「マリ!」
かけるは振り返った。
マリを見て、かけるは目を丸くした。
マリは、泣いていた。
10歳程度の女の子の、湧き上がってくる様々な感情を必死にこらえ、それでも溢れ出てくる涙。
「マ…リ……?」
トン、と胸を微力で叩かれる感触をかけるは感じた。
「かけるはわたしを助けてくれた…」
マリは再び、トン、とかけるの胸を叩いた。
「かけるは夏祭りに連れて行ってくれた…!」
胸を叩く音は、不規則に鳴り続けた。
「かけるは優しい…! だから…ココちゃんのところに行って…!」
マリは、手を止めた。そして、絞り出すように言った。
「わたしも…かけるをなぐるから…!」
なぐ…る…?
かけるの内側に、小さな波がたった。
「かけるが !迷っても…!わたしもなぐるから…!」
その波は、徐々に大きく、はっきりとしたものへと変わっていった。
「今度俺が迷ってたら…思いっきり殴ってくれないか?」
あの時。
俺、ココに言ったんだ。
俺は自分で言ったくせに気づかなかった。
俺、守ってくれって…言ってたのか。
ココとマリは守ってくれた。諦めかけた、俺の目を覚ましてくれたんだ。
はは。 どうりで痛いはずだよ。 昨日のビンタは。
勝手に悲しみを背負って。
自分1人で解決しようとして。
誰の手も借りず、何でもできると信じて。
でもそれはただの慢心で。
いつの間にか後ろから支えられてた。
今も、 ー 昔も。
俺には、家族がいたんだ。
かけるは、マリを抱きしめた。小さな身体を、力いっぱい抱きしめた。
「1人で…大丈夫か…?」
「…うん。」
「怖くは…ないか?」
「…うん。」
「……ごめんな。 俺、何も分かってなかった。」
「…ううん。」
「真由美さんの家で、待っててくれ。」
「…うん。」
「…すぐ、戻るから。」
「…うん。」
かけるは、走り出した。
たのむ… もう走れなくなったっていい。足が動かなくなったっていい。
だから今は…
俺を間に合わせてくれ…!




