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ペテンに賭ける!  作者: しゅん
バブルフラワー編
1/27

ペテン師かける



ここでは夏なのだろうか。

暑い日差しが照りつけ、額から汗が流れ落ちる。蜃気楼でゆれるコンクリートは、私の今後への不安を表現しているようだ。

飛行機、電車を乗り継いでようやくたどりついた。この街の名はーー“ベッドタウン"。


「おじさんが亡くなった」

声を震わせて言ったのは私の母だった。

家が近かったこともあり、私は幼い頃からおじさんの家によく行っていた。戦争から恋愛まで、おじさんは私にたくさんの話をしてくれた。おじさんが私の宇宙を広げてくれた。

お通夜をすませたあと、おじさんの家に立ち寄った。相変わらずそっけない部屋で、おじさんの特等席が寂しく揺れていた。

物思いにふけっていると、私はふとある話を思い出した。おじさんの宝の話だ。おじさんいわく、宝をある街に預けてあるらしい。古くから伝わる大切なものだと言っていた。

私はいいことを思いついた。その宝をおじさんの墓に供えてあげたいと。そのときの私はおじさんを失ったという心の穴を埋めたくて、何かをせずにはいられなかったのだ。予算は少なかったが、私はその街に行くことを決意した。


ー 最悪だ、と私は思った。

街の天候は夏のようだった。流れる汗を袖でぬぐいながら、私はその街へ足を踏み入れた。

出発する前、この街について本で少し調べた。

『ベッドタウンーー賭け事の街 巨大貿易都市のもう一つの顔 利益、技術、情報などにおいて世界屈指の実力を誇る。』

だそうだ。よく分からないが、とにかくすごいらしい。

街に入ると、すごい熱気を感じた。体感温度1°C上昇。

いりくんだ道にたくさんの店が並んでいる。 故郷では見たこともない形の建物、車が行き交っていないかわりに走る奇妙な乗り物、所々に生えている謎の植物…… まるで10年後の未来をみているようだ。

ここのどこかに…おじさんの宝がある。


街を歩いていると、店の前で20人ほどの聴衆が集まっていた。

おお、早速賭け事!?

しかし、それは私がイメージしていた賭け事とは少し違った。

「う、腕相撲!?」

店の看板には、大きく『アームレスリング』とかいてある。上半身裸の、黒人と白人の男が互いに筋肉を見せつけあうと、観客がざわめき始めた。

私は、黒人の男が勝つと予想した。黒人の方が筋肉量が多い気がしたからだ。

レディ、ゴー!の合図と共に2人の男の筋肉に力が入る。次の瞬間、圧倒的な力量の差を見せつけ、白人の男が勝利した。よく見ると、白人の男の横には大量の札束が積まれている。どうやら連勝中らしい。

人は見かけによらないな、と思った。黒人の男は舌打ちをすると、そこに金を投げつけどこかへ去ってしまった。

私も行こう、と思ったときだった。

「次、俺にやらせてくれよ」

そう言ったのは、白髪でくせ毛の、細身の少年だった。

年は私と同じくらいだろうか。私は思わず鼻でわらってしまった。

あんたさっきの見てた?勝てるわけないじゃない。 …それにしても…何で上半身裸なの?男ってそういうものなのかな。 勝敗は、レディ、ゴーの合図の共に決した。だが、その結果は誰もが目を疑うものだった。

なんと、勝者はくせげの少年だったのだ。

「…人は見かけによらないにもほどがあるでしょ…」

白人の男の金をさらう少年を見て、 少し不安にもなったが、このまま戻る気も無かった。とりあえず店を探そうと思った。実は、宝が置いてある住所は分かっているのだ。いま思えば、おじさんは私に宝を託したのかもしれない。そう自分を奮い立たせ、歩きだした。


2時間ほどたっただろうか、私は住所の場所になかなかたどり着けないでいた。

なんて複雑な街なの…

と私はため息をもらした。

少し休もうと思い、座れる場所を探しているときだった。

「おーい…誰かあー!」

遠くから男の声が聞こえる。気のせいだろうか。

「誰かあー!そいつを止めてくれー!」

いや、誰かが助けを求めているようだ。何事だろうか。

「君ー!そこの赤髪の子!そいつを止めてくれー!!」

そこでようやく私は振り返った。

「私!?」

振り返った瞬間、後悔した。

なんと世にも奇妙な、一つ目のウサギが突進してくるではないか。私の体はとっさに、身を守る以上のはたらきをした。そう、私の拳は巨大な一つ目めがけて強烈な右ストレートを決め込んだのである。

一つ目のウサギは、芸術的な弧を描いて力なく倒れた。

「いや〜助かったよ、そいつ逃げ足速くてさ、止めてくれてありがと…」

そう言いながら走ってきた男は、倒れた一つ目ウサギを見て膝から崩れ落ちた。

「な…なぜだ…!?」



「おい、あのうさぎって…」

「ああ、間違いない。あの一つ目はまぎれもなく本物だな」

「やはりか。じゃああの男も…」

「ふっ、もう悪人はやめちまったのか?」

「何でこんなとこにいるんだ…?」

一部始終を見ていた2人組の男はそう言ってどこかへ消えてしまった。


「お前…名前なんだ」

そう尋ねたのはうさぎの持ち主の男だった。ダルダルの服、ボサボサの白髪。まるで寝起きといった感じだ。

「ココよ。」

女は長い赤髪をゆらしながら答えた。

「そうか、ココ…きみはその…なんで俺のうさぎを帰らぬ人…いや、帰らぬうさぎにしてくれたんだい?」

眉毛をひくつかせて尋ねる男に、ココは少しムッとした表情で答えた。

「正当防衛よ。私、ボクシングやってたからつい反応しちゃったのよ。それに、あなたのペットが襲いかかってきたんじゃない。」

「こいつはペットじゃねえ、商品だ!」

「そこにつっこむの?… まあいいわ、それにそのうさぎ、死んでないでしょ」

ココがそう言うと、男は反論しようとして口を開きかけたが、すぐにうさぎにかけよった。

「息を…している。」

男は安堵のため息をもらした。と同時に背後から苛立ちの気配を感じ、おそるおそる後ろを振り返った。すると、仁王立ちしたココが無表情で口を開いた。

「おなかすいたなあ」

その言葉は、重く鋭く男を貫いたに違いない。

「へ、へい!ただいま!」

一瞬死を悟った男はへこへこと頭をさげることしかできなかった。


「ほんっと、せっかく助けてやったのに怒鳴られるなんてね。」

ココはそっぽを向きながらハンバーグを頬張る。

「だから、ごめんって。飯もおごってやっただろ。これでおあいこだ。

「なに言ってんの、乙女の心は傷つき易いのよ。」

なんて横暴な女だ、と男はぼやきながらパフェを口に運んだ。

「それにしても」

ココは食べるのを一旦やめて言った。

「あんたどこかで見たような…」

ココは首をかしげながら男をジロリと見た。くせのある白髪、覇気のない目、抑揚のない声…

「あっ!」

ココははっとして手をうった。

「腕相撲の人!上半身裸の!」

1人で盛り上がるココに、男はどうしていいかわからなかった。

「ええと、盛り上がってるとこ悪いんだけど人違いじゃないか?かけるって名前の友人いないだろ?」

「かけるっていうんだ、名前。」

えっ、と戸惑うかける。

「私があんたを見たのは今日が初めてよ。よろしくね!かける!」

一体何を言ってるんだこの女は、とかけるは思った。

さんざん人を不幸にしといてよろしくだ?他に何をよろしくすることがあるんだ。俺はもう帰りたいんだ。

脳内に関しては強気のかけるだったが、言えるほどの勇気はない。かけるは残りのパフェを一気に平らげた。

「私、この街に来るの初めてなの。どんな街なのか全然知らないから、色々教えてくれるひと探してたんだ。」

ココはまんねんの笑みを浮かべていった。

「あんた色々知ってそうだし! あ、それであのウサギはなに?見たことないよあんな生物! そうそう、あの時の腕相撲!何で勝てたの?あとね、それと…」

「ちょっとストップ!!」

かけるはスコールのあとの大洪水をせき止めるがごとく、ココの話をさえぎった。

「そんなに一気に質問されても答えるのはむりだ!ちょっと落ち着け」

少し間が空いたあと、ごっめーんと舌を出すココに少し苛立ちをおぼえながらも、かけるは質問に答え始めた。

「まずはだ、お前は無知すぎる。この街はな、世界一の賭博場と同時に世界一詐欺師が集まる場所でもある。それだけ金や珍しいもんがあるってことだ。そしてお前は絶好のカモ。すぐに目つけられて明日までには無一文になっちまうぞ。」

ふむふむと頷きながら、追加でたのんだパエリアを頬張るココを見て、

いや、2時間後にはの間違いだな。

とかけるは心の中で訂正した。

「お前が見てたっていうあの腕相撲がいい例だ。実はあの白人、イカサマしてやがったのさ。」

「イカサマ!?」

「ああ、俺はそのイカサマを見破り、白人に勝った。」

「そのイカサマって…どんな?」

「それは、あの白人が…鍼灸師だってこどだ。」

かけるがそういうと、ココの顔がくもった。

「何それ?」

「針を使って治療をする人だ。だが、使い方によっては腕相撲にも勝てる。白人の男は、隙を見て相手に針を刺し、筋肉の動きを抑制したんだ。」

「なるほど!」

とココは納得したようだったが、そのあと何かを思いついたように言った。

「じゃあ鎧を着ていけばよかったじゃない!」

その安易な案にかけるは思わずため息をついた。

まあちょくちょく感じてはいたが…どうやらこの女の子はバ…天然の要素が含まれているらしい。

「鎧をきていったら相手の戦略は成り立たない。適当な理由をつけられて断られるだろ。」

「あ、そっか! 」

とココは手を叩く。

「 で、どうやって勝ったの?」

「ああ、それは簡単だ。俺も同じことをしただけだ。」

「かけるも針を刺したの?」

「ああ、ちなみに俺は針を受けていない。刺さったふりをしていた。」

「かけるもハリヤマ師だったの!?」

「鍼灸師だ。 いや、俺は違う。まあ、知識の一つとして俺が承知していただけだ。」

「ふーん、ちょっと気持ち悪いね。」

い、いま何と!?

と驚くかけるだったが、ココに伝わらないように心を落ち着かせた。

「フッ、だがそのおかげであの一つ目うさぎを入手することができたんだぞ。」

自慢げに話すかけるだったが、数秒の沈黙と共に重大なことに気付く。

「しまった…一つ目ウサギをあそこに置きっ放しにしてしまった…」

ココも思い出した様子で、急いで行かなきゃ、と立ち上がったが、かけるはココを座らせて言った。

「言ったろ、この街のことを。5分もあればどこぞの誰かがもっているさ。」

「そんな…」

少し落ち込んでいるココにかけるは言った。

「気にすんな。そんなに価値があるわけじゃない。 じゃあ、俺は帰るから」

「待って!」

立ち去ろうとするかけるをココは慌ててひきとめた。急に手を握られたかけるは少し驚いた様子だ。

「あと一つ…聞きたいことがあるの。」



「着いたな」

店をながめながらそう言ったのはかけるだった。

その店は少し古びていて、アンティークが数多く売買されている老舗だった。

「ご機嫌が良さそうね、かけるくん。」

ココが皮肉混じりに言うと、かけるはぎくりとして髪の毛をいじった。

しかし、機嫌がよくなるのは仕方が無いことだった。ココがレストランで最後にもちかけてきた話は、彼女の祖父の宝の話であった。かけるはその宝の話を聞いているうちに、とんでもないことに気が付いた。

間違いない…宝の名は“月光刀”。月の光を反射して、世にも美しい輝きを放つといわれるあの“月光刀”だーー。

ココの話す宝が“月光刀”だと確信したかけるは、ココに協力することに決めた。それに、住所が分かっているのにその場所にたどり着けないココを放っておくのは少し気が引けるところもある。

「かける、はやく入ろうよ!」

そう言いながら店へ入るココを追うようにしてかけるは店に入った。

「いらっしゃい」

低い太い声が古びた建物内に響く。

「カップルかい?若いねえ、ゆっくり見てってくれ」

オーナーはゆったりとした口調で話した。

かけるは落ち着いた雰囲気のオーナーと、店内ではしゃぎ回るココを順に見て言った。

「違うよ、ただの知人だ。」

ココは目を輝かせながら縦横無尽に動き回っている。

お前はおもちゃ屋にきたガキか。とかけるはつぶやいた。

「で、何かお探しかな?」

白いヒゲをさすりながらオーナーは尋ねた。

「ああ。“月光刀”がこの店にあると聞いたのだが。」

「ゲッコウトウ?あの“月光刀”のことか?そんな珍しいものはうちにはないな。」

予想外の返事だった。ガセか、とかけるが落胆したそのとき、背後で感嘆の声があがった。

「あったあ!」

ココはガラスを指差して言った。

「これよこれ!おじさんの宝!」

かけるはかけよってその宝を見た。

「こいつは…」

かけるは少し考える仕草をみせると、オーナーに尋ねた。

「これが欲しいのだが。」

「それはトレードだな。何か品はもってないかな。」

とオーナーは答えた。

「 んー、一つ目ウサギとかは?」

「 ああ、十分だ。」

「 分かった。一つ目ウサギを持ってくる。それと1つ、頼みがあるんだが…」

ひそひそと話すかけるたちを見て、なにやら難しい話をしているな、とココは思った。自分も何か情報を得たいと思い、かけるに話しかけた。

「あれ、買えるの?」

「ああ、一つ目ウサギとトレードだ。今から探しにいく。」

「あー、あれやっぱ必要だったんだ」

と言ってガッカリするココ。

「もう、あんなに大事そうにしてたのに何で忘れるのよ。かけるもマヌケなとこあるんだね」

「なっ!そのセリフはお前だけには言われたくないな!」

「なによ、その言い分じゃまるで私がアホみたいじゃない!」

ココがそう言うと、かけるはキョトンとして言った。

「え…違ったか…?」

ピクリ、とココのまゆげが揺れる。

「自己認識がないのは仕方がない。なぜなら人は自分を美化してしまうからな。だから…」

はっ、とかけるが我にかえったときはもう遅かった。グラリとかけるの視界がゆれる。

「いや…これってもうどつきとかのレベルじゃ…ないだろ」

そう言ってかけるはみぞおちをおさえながら倒れこんだ。ココはふん、とそっぽをむいた。


「 とにかく。」

とかけるがきりだす。

「どっかの店に売り飛ばされてるだろうから、二手に別れて探すぞ。」

かけるがそう言うと、ココはそのときふと思ったことを口にした。

「それにしてもかける、私と年変わらなさそうなのに、何でそんなにこの街のことに詳しいの?」

いや、かけるの顔立ちからは年下にさえも見える。

かけるは髪の毛をいじり始めた。くせ毛はその仕草が原因だな、とココは思った。

「家が近くてな、よく遊びにくるんだ。そしたらいつの間にか詳しくなってた。」

ふーん、と言ったものの、ココは何か違和感を感じていた。なんかこう…さるに小判のような、そんな感じだ。

早く行くぞ、というかけるの声でココは我にかえった。モヤモヤとした感情を振り払うように、うん!と返事をして店の外へ出た。


なかなか見つからないものだな、とかけるは思いながら、一つ目ウサギを置き忘れた場所周辺を探していた。太陽がまぶしくて、かけるは思わず目を伏せる。

それにしても、あいつのパンチは強烈だった。もう少しで腸がでるとこだ。思い出しただけで寒気がする。…もうあまり馬鹿にしない方が賢明、か。 …… しかし、これだけ歩いても出会わないということは、道にでも迷ったか。 やはり二手に別れるやり方は間違っていただろうか。

この方法は互いが最終的に集まる場所を確認し合わなければ成立しない。あのバカは、それをする前に走って行ってしまった。全く、一体何を考えているんだ…


「へっきしゅん!!」

あ〜、誰だ〜?私のうわさをしているのは…

それにしても、本当にかけるは何を考えてるのかさっぱりだ。この世界には失望したよ、って今にも言いそうな感じだ。ヤバっ、想像したらじわじわ笑いが…

「お嬢ちゃん、そこのかわいいお嬢ちゃん」

クフフ、と笑いをこらえていたココは後ろから見知らぬ男の声が聞こえることに気付いた。

ココが振り返ると、そこには2人組の男が立っていた。1人は太っていて、もう1人はやせていた。若くはないが、中年って感じでもなかった。

「間違いないですぜ、アニキ!」

やせた男が小声で話している。

ああ、と太った男が答えると、にっこり笑って言った。

「お嬢ちゃん、俺ら、一つ目ウサギってのをもってるんだ。」

「ええ!本当ですか!?」

「ああ、でもいらなくなったからお嬢ちゃんにあげるよ。こっちへきてごらん。」

「あ!はい!」

ふっふっふ…とココは不適に笑った。

思わぬ収穫ね。あのバカかけるめ、私が一つ目ウサギをもってきたらどんな顔するかな…

ひとけが少ない路地に入ると、ニヤつくココの前で2人の男はうなずきあい、計画を実行に移した。

次の瞬間、ココは口になにかを押さえつけられ、あっという間に気を失ってしまった。


「アニキ!それにしてもこの女、上玉ですぜ!ちょっと触ってもいいすか!?」

「まあまて。それはあとからだ。俺の魂は今、猛烈に燃え上がっているんだ。目障りなことをするな。」

「パネエっす!!カッコよすぎるっす!アニキ!」

……誰かが話している。あの人たちは…誰だろう?ここは…

ズキズキと痛む頭をなでようとしたが、動けない。体が縛られているようだ。

「 それにしてもあいつ、本当にくるんすかね?この場所わからないんじゃ…」

痩せた男はそう尋ねた。

「奴は必ずくる。大丈夫だ。エサはまいておいた。」

と小太りの男は答えた。

すると間も無く、ガタン、と扉を開ける音がした。扉を開けたのは、白髪のくせ毛で、ダルダルの服をきた男だった。

「意外に早かったじゃねえか。さすがと言っておくべきか。」

皮肉混じりに言う小太りの男。

「ふん、こっちからアホのにおいがしたんでな。つい立ち寄っちまっただけだ。」

その白髪の男は、ココの破られた服の一部を顔の前でぶらさげながら言った。

かけるが来たからなのか、けなされたからなのか、ココははっきりと意識を取り戻した。そこは見知らぬ建物の中で、少し暗い。ココはようやく状況を理解した。

「か、かけるー!助けてくいやんせー!」

「どこの時代劇だ、それは。」

緊張感のないココを見てかけるは思わずため息をついた。

「お前な…知らないおじさんについていくなって習わなかったのか?」

「だって!優しそうな感じで話しかけてきたから…!」

怖そうな感じで近づいてくる誘拐犯がいるのか。

「ガハハ、ほんと、こんな間抜けな子は初めて見たよ。」

太った男が笑いながら言うと、

激しく同意だ。

とかけるはうなずいた。 ココの方をちらりと見ると、口をガムテープでふさがれていたが、むごむごとかけるに反抗している様子が見られた。

これは後のことが心配だ。みぞおちは勘弁してほしいな、とかけるは思った。

「だが、おかげでお前を地獄へ落とすことができる。」

と男は言う。

「はて、俺は知らないな。お前は誰だ。」

かけるは首をかしげた。

「やはりそうだろうと思ったぜ。俺の名はジャムだ。だが、俺は忘れねえ。お前に裏切られたあの日を!」

ー あのおじさんは一体何をいっているのだろうか、とココは思った。

「状況が把握できてねえみたいっすね、お嬢ちゃんさん。」

そう話しかけてきたのはジャムの共犯者の痩せた男だった。

「アニキは昔、奴とチームを組んでゲームに挑んだんっす。だが、奴はアニキを裏切った。そのせいで、アニキは多額の借金を背負うことになったんっす。」

「!?」

ココは言葉の意味を理解出来ずにいた。

「お前もいずれ、いや、すぐに見捨てられる。」

ジャムは言った。

「あいつは…あの男は、仲間を使い捨てにして店を潰し回る、ここらじゃ有名の…」

そう言いかけてジャムは拳を握る。

「 ー ペテン師だ。」

ペテン師…?ペテン師って、うそつきってこと?

ココがかけるの方を見ると、かけるはニヤリと笑っていた。

「ーーこの街はな、世界一の賭博場と同時に世界一詐欺師が集まる場所でもある。」

ココの脳裏でかけるの言葉がよぎる。

「ペテン師か…懐かしい響きだな。」

とかけるは笑って、ココの方を見ると言った。

「そうさ。俺はペテン師。人を騙して金をとる。それが俺の仕事だ。」

ココは混乱していた。 ー まただ…この違和感…なんなのよもう…

「さあ、さっさと始めようぜ。俺とゲームで闘るんだろ?」

かけるが急かすようにきりだした。

「いいだろう。お前が俺と闘うゲームはこれだ。」

とジャムが言うと、奥の方からスーツの男がでてきた。

…アニキはやはりゲームで勝ちたいんっすね。この街の象徴であるゲーム店舗の数々。それに富、プライドをかけるというんっすね。あの日、奴にやられた借りを返すために。

痩せた男はジャムを見ながら下唇を噛んだ。


「ーー当店をご利用頂きまことにありがとうございます。」

スーツ姿のマスターは言った。

「当店で扱うゲームはこちらです。」

すると、今度は奥から助手とみられる女性がなにやら大きな玉のようなものを運んできた。

「ゲームの名は…『ボマー・カウント』。」

場内がしんと静まる。

「ルールを説明します。この球は爆弾です。爆破させてしまったプレイヤーの負けとなります。 爆弾はこのように1回まわすと、1、カウントされます。」

マスターがそう言って爆弾のハンドルを回すと、カチリ、と音がした。

「これで1カウントです。25カウント目を回すと爆弾は爆破します。 先攻後攻を決め、先攻から順にカウントを重ねていきます。なお、一度に回せる回数は3回まで。また、0回で相手に渡すのも禁止です。」

「あともう一つ、あるんだよな、マスター。」

ジャムは分かっているかのように男に話しかける。

「はい。このゲームは1人につき一度、スペシャルカードを利用することが可能です。スペシャルカードを使うと、爆弾に直接関わらないという条件でイカサマをすることができます。」

「だ、そうだ。」

と言ってジャムは笑った。

こいつ、この店で闘ったことあるな、とかけるは確信した。

そして…ポイントはイカサマを使うタイミング…それで勝負は決まる。

「それでは、両者ベッドしてください。」

マスターが2人に言うと、ジャムは迷うことなく答えた。

「もちろん、あの女だ。」

「俺、金ないからな…腎臓で。」

そうかけるが言ったとき、どこからともなくうめき声が聞こえた。見ると、ココが目を見開いて何かを必死に伝えようとしている。

「大丈夫だ、腎臓は2個あるから。気にすることはない。」

ココは心配そうな目でこちらを見ていたが、かけるは無視した。 自分の不安が伝わってしまうかもしれないと思ったからだ。

「契約成立だ。 マスター。」

「それでは、ゲームスタートです。」

マスターがゲームの開始を告げた。

「スペシャルカードだ。」

開始の合図と共に声をあげたのはジャムだった。

「早いな…ジャムめ… 」

かけるはすかさずジャムを観察した。

ジャムが宣言したのを確認すると、助手の女がジャムに近づきにいった。

「では、こちらの部屋へ。」

そう言って女はジャムを別室へと連れていった。

なるほど、別室でイカサマの内容を伝えるわけか。この街の技術ならほとんどの注文が通るだろうな。

かけるは歩いていくジャムの背中を見てそう思った。


「では、ランダムにより先攻はかける様となります。」

プレイヤーがそろうと、中断されていたゲームをマスターが再開した。

かけるは爆弾を受け取り、2回、カチリとハンドルをまわした。

「俺の番は終わりだ。」

「それでは、ジャム様のターンです。」

マスターがそう言うと、ジャムは助手の女に渡された爆弾を受けとって、ニヤリと笑った。

この勝負、既に俺の勝利は確実だ!バカなやつよ、ペテン師かける。てめえのゆがんだ顔が目に浮かぶぜ…!

ジャムは笑いをこらえながら、ハンドルを2回まわした。

「かける様のターンです。」

…奴はおそらく、この勝負のツボを知っている。このままいけば、俺が負けるのは確実だ。さて、どうしたものか…

かけるは1回、カチリとハンドルをまわしてターンを終えた。


「では、次はかける様のターンです。」

マスターがそう言うと、助手の女が爆弾を運んできた。

今のところ、爆弾をまわした回数は16回。あと9回でボン、か。まあこのゲームのツボはだいたい分かった。あとは…

かけるは2回、カチリとハンドルをまわした。

その様子をみていたジャムは、余裕の笑みを浮かべていた。

ガハハ、…そろそろ気付く頃かな?そう、このゲームは一見難しいが、実は非常に単純な仕組みになっている。

先に結論を言ってしまえば、このゲームで勝つのは後攻だ。つまり、スペシャルカードを使って後攻になった俺の勝利ということさ。 25回目をまわした方が負けということは、24回目をまわした方が勝ちということ!後攻になれば、それが可能だ。1ターンでまわせる回数は3回まで。例えば、相手が1回まわせば、俺が3回まわす。これで合計4回。相手が2回まわせば、俺が2回まわす。これで合計8回。このまま4の倍数でハンドルを止めれば、24回目は必ず俺がまわすことができる。

今からどんなイカサマをしようが、爆弾に関わる行為ができないというルールがある限り、俺が負けることはない!ガハハ、何回も通ってツボを得たかいがあったな!

ジャムはニヤリとして2回、カチリとハンドルをまわした。

「それでは、かける様のターンです。」

爆弾がかけるのもとへ届く。かけるは1回、カチリとハンドルをまわした。

「勝利を確信したか?ジャム。」

そうかけるが言うと、ジャムは我慢できず、高笑いした。

「ガッハッハ!そうだ!俺の勝ちだ!お前も分かってんだろ!?お前はまだイカサマを使っていない、いや、使えないんだ!勝つためにイカサマを使えば、どうしても爆弾に関わっちまうからなあ!」

嗤うジャムに対し、かけるは冷静だった。

かけるはだるだるの服のポケットから一口サイズのチョコをとりだし、食べるとこう言った。

「ああ、その通りだ。俺はイカサマを使っていない。いや、使う必要が無いんだ。」

ピクリ、とジャムのまゆげが動く。

「ジャム、お前は運がいい。今から俺がイリュージョンを見せてやるよ。」

「ハッ、またお得意のウソか?ペテン師さんよお!」

かけるはジャムの期待する顔とは真逆の表情をした。

「自分の目で確かめろよ、ジャムおじさん」

かけるは右手を拳銃の形にかまえ、バン、と発砲する仕草をみせた。

ドン

という爆発音がジャムの背後から場内に響き渡った。心なしか、若干の風も感じる。

突然の爆音にジャムは驚いた様子だった。ジャムは音源とかけるを交互に見て言った。

「こ、これかよ、イリュージョンってのは。」

なぜかけるの合図で爆音がなったのか理解できない様子のジャムだったが、かけるの返答は意外なものだった。

「あれ!?こ…こんだけすか!?マスター!」

かけるは焦ったように尋ねたが、マスターは相変わらずの堅い顔で頷いた。

そのやり取りを見ていたジャムは、額の汗をふくと、ニヤリと笑った。

しめた!どうやって爆音を起こしたのかは分からねえが、どうやら失敗したみたいだ!あいつの焦った言い分がその証拠!

「さあ!次は俺のターンだ!」

ジャムが叫ぶと、助手の女が爆弾を運んできた。

奴がさっきまわした回数は1回。俺が3回まわせば合計24回まわしたことになり、奴の敗北が決まる!

ジャムはハンドルを2回まわすと、かけるに向かって叫んだ。

「てめえの負けだぁぁ!かけるぅ!!」

ジャムはハンドルを勢いよくまわした。

ドンーー

その瞬間、再び爆発音が場内に響き渡る。

「ーーゲーム終了です。勝者は…かける様です。」

マスターの男がそう言っても、ジャムはあぜんとして立ちつくしたままだ。

「イリュージョン…お楽しみ頂けたかな?」

かけるがそう言って笑うと、ジャムは、何の反応も示さない爆弾を落とし、崩れ落ちた。

「どういうことだ…なぜだ!今ので確かに24回目だったはずだ!」

そう叫ぶジャムに、かけるは近寄る。

「理解できないか?ジャム。」

「だまれ!てめえ…何をした!」

「教えてやるよ。俺は、実はこのゲームは後攻が必ず勝つと気付いていたんだ。」

「…いつからだ」

「ルールを聞いた時だ。」

「…なっ!」

ジャムの目が驚きで大きく開く。

「そしてお前が別室に行った時、俺も別室に行き、イカサマを仕掛けた。」

「まさか…!」

「そう。それが1回目の爆音だ。」

「だが!それがなんだってんだ!あんなものじゃ回数は変えられないはずだ!」

ジャムは怒鳴った。しかし、かけるは涼しい顔で答えた。

「じゃあお前は…どうやってカウント数を数えていた?」

「ああ?そりゃハンドルをまわした時にカチリと… カチリ…!」

「気付いたか?俺はあの爆音と同時にハンドルをまわした。爆音でハンドルをまわした音に気付けなかったお前は、“かけるがまわした回数は1回だ”と勘違いをした。そして自ら爆発したというわけだ。」

「バ…バカな…!」

「ゲームのツボを知って基本を見落とす。…策士、策におぼれるとはこのことだな」

かけるはそう言って笑った。

「俺はウソでお前を騙したんじゃない。ただ惑わせただけさ。」

敗北を再確認させられたジャムは拳をにぎった。

「では、ベッドされたものは全て、かける様のものとなります。」

マスターが穏やかに言った。

「まて。」

そう言ったのはジャムだった。

「ここに一つ目ウサギがある。」

ジャムが一つ目ウサギを取り出すと、かけるは驚いてジャムを見た。

まさか、本当にもっていたとは…

「その女かこのウサギ、どちらでもいい。ただし、片方だけだ。選べ。」

ジャムの目が血走っている。どうやら冷静ではいられないらしい。

…さあ、本性をだしやがれ、ペテン師め!

「…悪いな、ココ。」

ガハハ、とジャムが笑う。しかし、この言葉には続きがあった。

「月光刀、時間かかりそうだ。」

そう言ってかけるはココの方へ歩き出した。ガムテープをはがし、縄をほどく。

その光景を、ジャムはあぜんとして見ていた。

なんで、なんで助けるんだ、なんで裏切らないんだ、なんで、なんで。

「なんでてめえは俺を裏切ったんだああ!!!」

ついに我を失いはじめるジャム。

かけるがココを縛っていた縄を全てほどき終えると、ココは久しぶりに口を開いた。

「なんで助けたの。」

予想外の言葉にかけるはたじろいた。

「なんだよ、可愛くないな、素直に喜べよ」

そう言ってかけるは苦笑いした。

すると、ココはすっと立ち上がり、ジャムの方へ歩いていく。

「おい…やるのか?」

「うっさい。正当防衛よ。」

へいへい、とかけるはため息をついた。

少しずつ迫ってくるジャムに、ココは華麗なステップ踏みながら近づく。そして次の瞬間、ジャムのたるんだ腹に強烈な右ストレートが突き刺さった。

ココの細い腕からは想像もできないが、その威力は既にかけるで実証されている。

ジャムはうめき声をあげながらその場に倒れこんでしまった。

…正当防衛の意味はき違えてないっすか?ココさん…それ、弱肉強食…

かけるはそのツッコミをギリギリのところでのみこんだ。

「かけるは…ペテン師なの?」

ココはかけるに背を向けたまま尋ねた。

「ああ。」

「じゃあなんで…」

ココが振り向く。その目は少しうるんでいるように見えた。

「じゃあなんで!…自分に嘘ついてるの…?」

かけるは目を一瞬見開いて、そして髪に手をかける。少しの沈黙が流れ、ようやくかけるは口を開いた。

「俺にもわかんねえよ、そんなこと。」



あたりはすっかり夕方で、オレンジの空がベッドタウンを包み込んでいた。ベッドタウンの店々は夜に向けての準備をしていたため、あたりは束の間の静けさがひろがっていた。

「ねえ、かけるってさ、何でペテン師になったの?」

ココが尋ねた。

「なったんじゃない、誰かが勝手に呼びだしたんだ。」

「でも、ただ遊んでたわけじゃないんでしょ?」

その問いに、かけるは諦めたような顔で答えた。

「まったく、ペテン師の名が泣くな。1人の女の子も騙しきれんとは…」

「子供扱いしないでよ。ていうかあんたも子供でしょ。」

「あーはいはい、 …俺はな、金が必要だったんだ。それも莫大な金額だ。2年前の話だ。俺はとにかく人を騙しまくって、金を手にいれなくちゃならなかった。それで人々からはペテン師なんて言われるようになって、今ではさっきみたいに復讐する奴もでてきた。」

ココは、かけるの話を黙って聞いていた。抱えた一つ目ウサギがもぞもぞと動いている。

「本当に、巻き込んじまって悪かったな。」

「な、なにいってんの!月光刀探してって頼んだの私だし!全然大丈夫だから!」

かけるはココの顔を見て少し微笑んで言った。

「気使ってんのか?ココのくせに?」

「ちょっと、かける!あんた殴られたいの!?」

「おっと!殴るのだけは勘弁!」


そんなやりとりをしているうちに、2人は先程のアンティークの店に着いた。

「おじさーん!ウサギもってきたよー!」

…本当は倒れたジャムから奪ったものだけどな… とかけるは訂正した。

ココの声で、オーナーが店の奥から出てきた。

「ほう、持ってきましたか。では、トレードですな。」

「マスター、あの…昼間の件なんだけど…」

とかけるがささやくと、オーナーはウインクをして見せた。

「バッチリだぞ、かけるくん。」

「それなんですけど、問題が発生しまして…」

はて、とオーナーは首をかしげる。

「わあ!これが月光刀!」

ココは、トレードで手に入れた刀を見て感嘆の言葉をあげた。そしてココは、刀におじの名前が刻まれていたことに気が付いた。

しかし、ココはこれに違和感を感じてしまう。ココはかけるを睨みつけて言った。

「これ…本物…?」

やはりか。とかけるは思った。

実は、最初にこの店に来た時からかけるはこの刀が偽物だと気付いていた。しかし、ココのおじさんの話を聞く限りそれ以上の情報はないし、なによりココがかわいそうだと思い、かけるはオーナーに頼んでココのおじの名を彫ってもらったのだ。

まさか裏目にでるとは…ココなら簡単に騙せると思っていた俺がバカだった。

「ええと…偽物かも?」

かけるは目をそらして言った。

「はっきり言いなさい!もし次にウソついたら殴るわよ…」

ひ、ひいい!怖い!そこらの詐欺師より確実に恐ろしいぞ!こいつ!

「わ、分かった!言うよ! そう、これは偽物だ!言わなくて悪かった!」

「か〜け〜るぅ〜!」

その迫力に思わずかけるは逃げだした。

「待ちなさい!こうなったら、月光刀見つかるまでちゃんと責任とってよね!」

そう言ってココはかけるを追いかけた。


夏が、始まろうとしていた。







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