血統(決闘)
沈みゆく太陽が世界を同じ色に染め上げていく。髪が風に揺れる。空から地上を見下ろすと様々な建物や、車、線路などがひしめき合って見える。その中で、一つの広大な敷地を持つ施設が目につく。
それはこの街にある高校で、名門校として地域の自慢の一つになっている建物である。その鉄筋コンクリートの校舎の屋上で、二人の男子生徒が対峙しているのが見える。
そして彼らのシルエットを観察すると互いに利き腕の反対側に日本刀がさげられていた。
風が冷たい……、どうでもいい。俺は感傷を振り払い、目の前の敵に集中する。
「お前にだけは負けねえ……!!」
俺は目の前に居る人影に向かってそう吼える。
「出来るのか、お前に?」
その言葉を合図にまるで鏡に映したように、ゆったりと二人は構える。俺は左足を、奴は右足を後ろに一歩伸ばす。そしてお互いの獲物に手をかけ機を見る。
まるで呼吸を計るように静寂が訪れる。その風景はさながら決闘のようだ。
「」
ジリジリとジリジリと、相手との距離をつめる。
「」
後3歩。
「」
後2歩。
「」
後1歩。
――風が舞うよりも早く、音が伝わるよりも早く動く。鞘から刃を抜き放ち、二つの影は互いに一つになろうと近づきあう。
視界がコマ送りになる。
相手の斬撃の軌道が見える。
目と目が合う――。
喉元に相手の獲物が突き出される。
右に避ける、と同時にそのまま相手の腕めがけて切り上げる。
相手もそれはお見通しで、合わせて手首を返し、こちらの切っ先をいなす。
その後、暫く小競り合いが続くが、どちらも決定的な一撃は与えるに至っていない。
そして、お互いに距離を保つ。
「フン、少しはマシになったか。それでもお前は粗悪品に過ぎないな」
安い挑発だ、冷静になれ俺。
「正直うんざりだったんだよ、お前みたいなコピー品と一緒にされ続けて」
大げさな身振り手振りで目の前の俺は喋り始める。
「同じように育てられて、何でも二人で半分こ。その上お前のお守を俺はいつもしていて。お前さえ居なければ、俺は全部を独り占めできたんだ」
何時も兄のように慕い続けていた。それで当たり前だと思っていた。
年を追うごとに冷たくなっていった兄貴、笑う事も少なくなって。次第に話さなくなっていったけど。それでも俺は……。
「俺はアンタの分身だ。アンタが泣けないのなら俺が代わりに泣こう、そしてアンタが笑えないのなら俺が代わりに笑おう」
言い終わるのと同時に二人は動き出す。
狭い屋上では逃げ場は無いに等しい。正面から受けて立つ。
今一度重なる影、乾いた音が連続して響く。
「これで終わりだ」
そう耳に届いた時には俺の体は宙を舞い地面に叩きつけられていた。
「ガッグハッ」
喉から音が漏れ出す。ガクガクと体が言う事をきかない。目もかすみ始めた。
最後に見る兄貴の顔はどんなだっただろう。俺の代わりに先に進むんだ、笑っていなかったら殺してやる。そんな理不尽な思いを浮べながらまぶたを閉じた。
月が輝き、星が瞬く。
もう動かない少年と動き始めた少年、二人を屋上に残し空へと舞い上がる。
人々は帰路に着き道行く人々もまばらになっていた。先ほどまで存在していた雑踏は消えうせ、残ったのは消えうせた一つの命だけだった。
静まり返った学校の一室に一組の男女がいた。一人は丸々と肥え、禿げ上がった頭をした中年男性と、もう一人はきつ目の印象を受ける20代後半の女性だ。
「おや、今回の組はオリジナルが勝ったのか」
でっぷりとした男が口を開く。
「はい、今のところの戦績はオリジナルが4勝でチルドレンが2勝となっております」
女性はいかにも事務的口調といった感じで受け答えをしている。
「困るよぉ、君。このプロジェクトにはわが社の命運がかかっているんだから」
男は全くと言っていいほど感情を込めてはいない。その表情からも真意をうかがい知る事はできない。
「ですが、これは当人同士を戦わせた結果で、基本的にはチルドレンの性能が上です」
「だが、自分を殺す。という極限状態でもパフォーマンスを発揮しなければ価値は無いのだよ」
その後、彼らによる理解不可能な会話は延々と続いた。
mixiの自作ライトノベル→皆で論評コミュ用に作った、超短編です。簡単な世界設定はあらすじにて書いてあります。