番外編8 鈴緒 対 牧音
お勉強中の一コマです。
ガールズトーク未満な二人。
日向の本家で、恒例の勉強会を開いている時のことだった。
トイレから帰って来ると、白い封筒を渡された。
封筒は、赤いハートのシールで閉じられている。どこから見ても、ラブレターだ。
牧音はツンとした顔を更に冷めさせ、射殺す目で鈴緒を見る。
「女から告白される趣味、ないんだけど」
「あたしは書きません!」
鈴緒は着ているワンピースとお揃いの、青ざめた顔でブンブン首を振った。そこまで本気で怯えなくても、と牧音は密かに傷ついた。
それにしても。部屋着であるはずなのだが、相変わらず華美な出で立ちだ。彼女の従者に対し、改めて薄気味悪さを覚える。
コットン生地のレースで彩られた裾をつまみ、鈴緒はもじもじと言い訳する。
「学校の終わりに、一年生さんから渡されました。お返事下さい、とお願いされたのです」
「あんたが代わりに書いといて」
「ええっ? なぜです、恋ですよ!」
素っ気なく返す牧音へ、鈴緒は目を丸くした。のけぞる彼女から手紙をかすめ取り、差出人の名前を一瞥する。
「だって、知らない人間に手紙書く趣味、ないし」
「いい人だと思いますよ」
「あんたの男を見る目が、一番アテにならないんだよ」
ふん、と牧音は鼻息を吐き出す。
自分が断られたわけでもないのに、鈴緒はしょんぼりとしていたが、ややあって顔を跳ね上げる。
「では牧音さんは、どのような方が好きですか?」
ゲームだけでなく、女の子らしい方面にも興味があったのだ、と少々感心する。
そのためポロリ、と牧音は本音をこぼした。
「オヤジとは違う人」
「オゥ、とてもセツジツ」
牧音の父・不銅は嫁──すなわち牧音の母に逃げられたという事実を知っているため、鈴緒も幼顔をしかめる。
「それでは、お気遣いの、優しい人が好き?」
「ま、そりゃね」
「それは……繰生さん、ですか?」
「は? こっちにも選ぶけん──」
「うへぇ、勘弁してくださいよ。こっちにも、選ぶ権利はあるんですからー」
今まで居眠りしていた繰生が、鼻提灯を割って、藪から棒に声を上げる。ギロリ、と牧音は弟分をにらむ。
「お前が言うなよ! こっちの立場がないだろ、ふざけんな! 空気読めよ、ゴクツブシ!」
にらむだけでは飽き足らず、横っ面へ下段蹴りもお見舞いする。
思いの他甲高い声を上げ、繰生は倒れた。
そこへ馬乗りし、牧音はマウントを取る。
「うーん……犬の子どもさんの、じゃれ合いのようだ」
そう広くもない自室で暴れる二人を、一人っ子の鈴緒はどこか、羨ましそうな目で見ていた。
なおラブレターの返事は、喧嘩に大敗した繰生が代筆する羽目となった。
しかし彼が、ない事ない事を文章へ盛り込み、
「私は二次元の、しかも男同士の恋愛にしか興味がないんだよ! ごめんね!」
などと書いたため、また姉貴分に激怒されるのであった。
またの名を、「牧音 対 子分」。




