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シトリヒメの赤い糸と、眼鏡のお守り人形  作者: 依馬 亜連
おまけ

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番外編5 銀之介 対 ゲーム

 拍手お礼小話の、加筆修正版です。

 未知の文化にとまどうメガネ、の巻。

「銀之介さんも、やりましょう」

「そうじゃ、やりたまえ」

「いえ……」

 日向家の先代・当代守り人に捕まり、銀之介はテレビの前で困り果てていた。

 茶の間のテレビは、買い換えたばかりなので大きい。

 おまけに高画質。

 そのテレビには、鈴緒が愛用しているゲーム機が接続されている。

 当然その機体には、彼女が中毒のごとくはまっている『ファイターズ・クロニクル』も挿入済みだ。

「ワシもやってみたが、なかなか奥が深くて良いぞ。追加コマンドのタイミングによって、技の展開が異なるキャラクターもおったりしてのう……いやあ、やりこむ価値がある」

 鈴緒ではなく、金次郎がゲーム機の主電源を入れながら、滔々と語った。


 その発言から、どれだけ毒されているのかも明白だった。

「ハンディキャップも付けるからね? 銀之介さんも遊ぼうよ」

 1Pのコントローラーを握り、鈴緒もオープニングムービーをスキップしながら懇願する。

「そうじゃ、そうじゃ。日向家主催で、『ファイクロ』大会を開こうよー」

 金次郎も鈴緒を真似て、もじもじとお願いするが、あまり心に響かなかった。

 そもそも、いい年をしてサラリと略語を用いる辺りが、また腹立たしい。


 銀之介の優先順位は、小さな頃から家事(裁縫を含む)>喧嘩>勉強であった。

 そのため、インドア趣味には明るくない。映画や小説ならともかく、ゲームなんて『ヨッシーアイランド』しか触ったことがないのだ。

 また島内の駄菓子屋にて、少年時代に何度か格闘ゲームをたしなんだものの、友人からも「お前はセンスがない」と酷評される始末であった。

 つまりゲームに関して、いい思い出がないのだ。


 だが、この一人だけ取り残された状況も、面白くない。

 諦めてどっかりと、二人の間に腰を落とす。

「一回だけですよ。本当にゲームなんてやったことないですから、戦ってもつまらないとか言いっこなしですよ」

「言わないとも」

 満面の笑みで鈴緒は、対戦モードを選択する。彼女が選ぶのは右近……と思いきや、ゴリラに似たキャラクターだった。どちらにせよ、渋い選択だ。


 ……ひょっとして彼女は、いわゆる醜男が好みなのか。右近にしても、決して美青年ではない。むしろ、アクの強い強面だ。

 そう考えると、空しい気持ちになった。

 密かに落ち込んでいる従者には気づかず、鈴緒はゴリラ野郎を指さしニコニコしている。

「あたしも初めての現天さんを使うね。おあいこね」

「それはどうも」

 小さな気遣いに、力なくお辞儀をする。

 そして銀之介は見た目重視で、舞御前という女性キャラクターを選んだ。

 せめて、可愛らしい女の子で戦いたいものだ。


 なのにゲーム中毒者たちは、目を合わせてニヤリと笑う。

「おいおい、鈴緒さんや」

「ねえねえおじいちゃん。このシロウトさんは、御前さまを選んだよ?」

「面食いじゃからのう、こいつは。すーぐ見かけに騙されよって」

「オゥ、ひどいね」

「変なこと吹き込まないで下さいよ、ヒゲの外野」

 話のやりとりから伺うに、この女の子は上級者向けのキャラクターだったらしい。

 女性の方が非力なのだから、扱いが難しくても当然だ。しかし変更する間もなく、対戦画面へ移行する。

 だが、素早くポーズボタンを押した鈴緒が、解説書のとあるページを開き、銀之介へ渡す。

「こちら、舞御前のコマンド表です。溜めキャラです、がんばって」

 軽やかなウィンクと共に、激励される。

「はあ」

 タメキャラの意味もよく分からないし、何よりコマンド表自体がチンプンカンプンだ。

 この色分けされたパンチマークは何なのか。パンチは一種類ではないのか。

 スティックを逆Z字に動かす、と指示されているが、キャラクターを動かしながら出来るのか。そもそも、逆Z字などという動きを、人間の指が即座に描けるのか?

 挙句の果てに、ボタンの同時押しも求められている。手の大きさ並びに、指の長さには自信があるものの、どのボタンを同時に押すのかが分からない。

 初心者にとって、この解説書は何も解説してくれていなかった。むしろ、格闘ゲームの深淵へ、無理矢理顔を突っ込まされた心地である。

「あーもう、知らん!」

 ちらりと見て頭がこんがらがり、銀之介は考えることを放棄した。


 鈴緒操るゴリラ目がけ、がむしゃらにスティックをガチャガチャと回し、でたらめに四つのボタンを押しまくる。ついでに、コントローラー前面のRボタンやLボタンも、ガタガタと連打した。

 二人の対戦を、金次郎はニヤニヤと眺めていた。

 しかし中盤へ差しかかる頃には、笑みが薄れている。ハンディキャップがあるとはいえ、銀之介が優勢であった。

 金次郎はある事実に気付き、ごくり、と息を飲んでいた。

「なんというレバガチャ戦法……まるで、駄々をこねた子どもではないか! そして、ボタンの連打が速い、速いぞ……お前さんは高橋名人の子孫か!」

「そんな名人、知りませんね! キャベツの千切りで鍛えられたんですよ。ええい、やっぱり分からん!」

 どうにでもなれ、と更にガチャガチャガチャ。


 すると、舞御前がゴリラ改め現天を、天高く蹴り上げた。

「あ!」

 鈴緒が小さく叫ぶ。しかし手遅れだ。

 空中へ追撃した舞御前は、名前の如く舞うように、四方八方から現天を殴打する。

 そして地面へ落下した現天の顔面めがけ、大きく振り上げてからの、かかと落とし。

『服を着たブタは、死ねェ!』

 舞御前の掛け声と共に、背景が金色に輝いた。画面奥から、大きく「FINISH」の文字が躍り出る。

「あ、曙KOじゃ……ワシもまだ、出せておらんと言うのに!」

 わなわなと大仰に、金次郎が戦慄く。


 どうやらこの演出は、いわゆる「超必殺技」で敵を討ち取った際に出るものらしい。

 豚に真珠、とばかりに、曙KOを出した銀之介は曖昧に笑う。

「すみません、お先に出しちゃって。それじゃあ、後はお二人で──」

止まって(フリーズ)!」

 だが鋭く、鈴緒の制止の声がかかる。

 ドスの効いた声音に、銀之介も腰を浮かせたまま、固まった。

 ゆるゆる振り返ると、鮮やかな緑の目に、炎を宿す鈴緒がいた。まるで小鬼だ。

「勝ち逃げなんて、許さない! 強い敵を粉みじんにする、これが『ファイクロ』の掟よ!」

「えー。そんな掟は、さっさと可燃ごみの日に捨てて下さいよ」

 心底嫌そうに、銀之介は口をすぼめた。


 つまらないと文句を言われるどころか、相手の闘争心を焚きつけてしまうとは、夢にも思っていなかった。

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