表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シトリヒメの赤い糸と、眼鏡のお守り人形  作者: 依馬 亜連
おまけ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/39

番外編4 銀之介 対 筋肉痛

 拍手お礼小話の、加筆修正版です。

 世の中、そんなにうまい話はないのだよ、というエピソード。

 片手を動かすだけで、全身に鈍い痛みが走る。

 銀之介は奥歯をぐっと噛みながら、全精力で上半身を起こす。

「相変わらず、キツいですね」

 傍らで心配そうに自分を見やる鈴緒へ、強がって笑いかける。

 表情筋はともかく、その他の筋肉は、指一本動かすだけでも悲鳴を上げていた。


 これらは全て、鈴緒の操り糸の二次的効果。いや、副作用か。

 アクロバティックな技を披露する代わりに、操られる演者の全身が、重度の筋肉痛に見舞われるのだ。


「ごめんなさい、銀之介さん。あたし、とても浮かれポンチです」

 鈴緒は膝を抱え、しゅんとしている。膝を抱えて、まるで子どもだ。

「お陰で、化生どもも調伏できました。問題なしですよ」

 銀之介は笑い返すが、鈴緒は心底へこたれていた。

 うるうると、今にも泣きだしそうな緑の瞳が、かえってこちらの罪悪感を煽る。

 とうとう鈴緒は、鼻もすすった。

 やーい、いじめっ子ー、と銀之介の良心が彼を苛む。


 彼だって、一応は男であり年長者。

 いい格好をしたい、という矜持ぐらいは持ち合わせている。

 だがそれを実行するには、筋肉痛の攻勢が激し過ぎる。


 銀之介はちゃちなプライドを投げ捨て、あえて鈴緒へ背を向けた。いい格好を取り繕うのが不可能なら、彼女のご機嫌取りをするしかない。

「ところで鈴緒さん。あなたへ、とても大事なお願いがあります」

「はい! 何でもするよ! お願いして!」

 顔を跳ね上げて、鈴緒はぱあっと表情を明るくした。相変わらず、素直で無垢だ。


 素直だからこそ落ち込みやすい彼女だが、些細なことでもすぐ元気になってくれる。

 銀之介もカッターシャツをまくり上げ、彼女が心の負債を清算できるよう、お願いを口にする。

「ご覧の通り、筋肉痛が酷くて、一人じゃロクに動けません。湿布を貼ってもらっても、いいですか?」

 首尾よく用意していた湿布の箱を、震える指で指し示す。

「うん! 腰と、背中、が痛いですか?」

「どこが、と言われたら全身ですね……いてっ」

 上げた腕から悲鳴が聞こえるが、束の間堪える。

 そして「おりゃ!」と己に発破をかけ、ボタンを数個外したシャツを、頭から抜き取る。インナーも、もごもごと脱ぎ捨てた。

「とりあえず背中と、あと肩や腕にも──」

 自分の体を指さしつつ、鈴緒へ振り返る。


 見たことがないくらい赤面して、うろたえる少女がいた。

「あ、しまった」

 小さく悔やみ、銀之介も眉を潜める。

 そういえば彼女は、男性慣れしていないのだ。

 あうあう、と真っ赤になって慌てる彼女を見ていると、うっすら和む反面、ただひたすらに面目ない。

「軽率でしたね、すみません。もう一回、服着ますね」

「ごめんなさい……」

 しょんぼりする彼女へ笑いながらシャツを被ろうとするが、腕が悲鳴というか怒声を上げた。


 いい加減にしろ!と激怒した両肩からは、先ほどの比ではない痛みが走る。

「うえっ」

 中途半端な姿勢で固まった彼を、鈴緒はどうやら察したらしい。さっと顔を曇らせる。

「腕、痛いか?」

「もう、めちゃくちゃ痛いですね……お手数なんですが……」

「シャツを着る、手伝う?」

「恐縮です」

 いつになく聡い鈴緒に、心の底から感謝する。

 鈴緒はシャツのボタンを全て外し、ゆっくりと銀之介の腕を通した。

 そして彼の前へ身を乗り出し、真面目くさった顔で、ボタンを一つ一つ留めてくれる。

 だらりと伸ばした足の間に、鈴緒の小さな体がすっぽり収まっている。


 かえってこの状況の方が、扇情的なのでは?


 などと、人並みに女の子大好きな銀之介は、深く考察した。

 だがそれを指摘すれば、赤い糸で巻かれかねない。

 言わぬが花だ。

 加えて、「どうせボタンを締めるなら、ついでに湿布を貼ってもらえば良かった」とも思い付いたが、これも思うに留めた。こんな間近で再度脱げば、またヘンタイの称号を頂いてしまう。

 それに何より、もう動きたくなった。出来れば一日、このままゴロゴロしていたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ