番外編3 鈴緒 対 日本の底力
拍手お礼小話の、加筆修正版です。
メガネは性悪です。
ある音楽番組の合間に、そのコマーシャルは流れた。
全体的にファンシーな色味で作られたそのコマーシャルでは、巨乳の姉にいじめられる少女の姿があった。
「私も胸が大きかったら……」
頓珍漢な理由でさめざめと泣く少女の前に、ローブを着た魔女が現れた。
「あなたに、魔法を授けましょう。えいっ」
魔女がステッキを振るうや否や、星屑と綿菓子のような煙に、少女は包まれた。
煙が晴れると少女は、驚きの補正力を持つ下着を身にまとっていた。
まな板のようだった胸も、見事に谷間を作っている。
「すごい! 魔女のおばあさん、ありがとう!」
少女が魔女へ抱きついたところで、映像は切り替わる。
彼女が身にまとっている下着が、大きく映し出された。
「あなたのバストにも、魔法を。シンデレラのブラ」
ナレーションと共に、コマーシャルは終了した。
その映像を、座卓で頬杖をつく鈴緒が眺めていた。気の無い様子を装っているが、眼差しは真剣そのもの。
隣に座る金次郎も、孫娘の表情に気付く。
「どうしたんじゃ、鈴緒。ひょっとして、これが欲しいのかい?」
テレビに映る下着を指させば、鈴緒の肩と言わず上半身が、ビクリとのけぞった。
「そんなわけないでしょ! ほ、ほ、ほしい、ない!」
顔を真っ赤にして、鈴緒は慌てる。
せんべいをかじる金次郎は、物分かりのいい顔でしきりにうなずく。
「まあまあ。そう意地を張らずとも良い」
「はっていない」
「日本の下着の底力は、世界一らしいじゃないか」
「底力なくとも、大丈夫です」
「しかし、AカップがBカップへ変身するそうじゃぞ?」
からかうように、金次郎が目を細める。
鈴緒は頬をむくらせ、胸を反り返す。
「あっ、あるさ、B!」
虚勢を張る彼女の肩を、ポン、と誰かが叩いた。
振り返れば、銀之介がいた。座卓に放置していた文庫本を、取りに来たらしい。
彼と目が合い、鈴緒は頬を引くつかせる。
どこまで話を聞かれていたのかは、分からない。
「ふっ」
しかし、銀之介はすべてお見通しとばかりに口の端を持ち上げ、笑った。
たちまち、栗色の髪を逆立てん勢いで鈴緒は憤慨した。
「なぜ笑うか!」
「いえ、別に。ふへっ」
「ふへっとは何か! 何を思ってるのか!」
忍び笑いで自室へ戻る彼を追いかけ、鈴緒はその背中をぽかぽかと殴った。
殴りながら、はたと気づいた。
鈴緒の衣服を作ってくれている彼が、彼女のサイズを知らないわけがない、と。
この事実と直面し、世界が真っ暗になった。
銀之介もろとも、鈴緒は今すぐにでも死にたい衝動へ駆られた。




